第5話ー揺れるー(2)
「ねぇ、月下君?君ってさ、もしかして…あの光さんと仲がいいの?」
「え…?」
仲がいい。一瞬、そう聞かれ固まった。
あの日の事に敏感になり過ぎている為か、深読みしてしまう。
「ほら、ずっと前なんだけど、あの倉庫に二人でいるのを見かけてさ。気になってたんだよね。」
「あ…それは…。」
いつの話?もし、見られていたのがあの日だったら…。
咄嗟に、そこまで考えて言いだす前に真中が言った。
「あれ?人違い…?倉庫の前にいたのって、月下だよね?」
倉庫の前…?そうか、あの時か。
たぶん、光さんが僕を呼び止めた時だ。
「あ…うん、光さんに絵のモデルを頼まれてて…。」
やっと、話が噛み合って安心した。何でもない問いでも、今は怖い。
僕は、光さんとの関係を正確には説明できない。
「やっぱり‼」真中は、嬉しそうに声色を弾ませた。
「俺、ずっと光さんのファンでさ。光さんにモデル頼まれてるなんて凄いね‼やっぱ、月下って絵の成績良いからかな。」
「や…そんな事は…。」
「月下もさ、才能ある人にしか心許さない感じだもんね。いつも一人だから、気になってたんだ。」
「え…‼全然そんなんじゃ…‼」
「そうだ!俺の友達も紹介するよ‼」
「え…?えっ‼」
真中に手を引かれ、また初対面の三人の前に行った。
「こっちが、
「…どぅも。」前髪を引っ張り、俯く。
急な展開に、ソワソワと追い付かない。
三人は、口々に「宜しく。」と言い、真中は誇らしげに顔を向けた。
「俺の事は、真中でも悟でも、何でも好きなように呼んでくれていいよ。」
「あぁ…うん、わ、分かった。」
上手く笑えないまま、ぎこちなく返事をする僕に三人の一人、佐藤君が真中を指さす。
「こいつ、ずっとお前と仲良くしたかったんだってさ。」
「え…?」
「佐藤、余計な事吹き込むなよ!」
真中は、お約束といった突っ込みを入れる。
四人は、昔からの親友のように仲がいい。気心が知れていて、冗談も言い合える。そんな仲間に、僕も入れて貰えるなんてあり得ない事だ。
「でも、良かった。月下は、一人でいたいのかと思ってたから。」
「え…?」
真中が微笑み、他の三人も微笑む。だから、僕もそれに合わせた。
前髪から手を離し、四人の顔を見る。やっとちゃんと見れた。
そこに、どこかで見たような蔑む顔は無かった。
他人からどう思われているか。他人からどう見られているか。
僕はそれが怖かった。
けれど、それは時に自分の測り知れない所で動く事がある。
悪評には慣れた。慣れるしかなかった。
僕は歩くだけで、普通に生きるだけではやし立てられる。
前を向く事なんて許されない。
そう思っていた。
常に選択肢は、一択だと。
けれども、そこばかりに気を捕られ、いつしか聞こえる範疇でしか耳を傾けられなくなっていたのかもしれない。
真中は、僕の顔を気にしなかった。
世の中にはこうゆう人もいる。光さんのように…。
僕は、この日から度々、真中達のグループと行動を共にするようになった。
一緒に、食堂で昼食をとったり、授業で出された課題について話し合ったり。
どれも、新鮮だった。対等で、光さんとはまた違う。
この事を、光さんに報告したくて堪らなかった。
光さんがきっかけで出来た友情だ。
お礼が言いたいし、何より光さんも喜んでくれるはず。
そう思ったら、楽しみで仕方が無かった。
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