第3話ーループー(2)
―月森光は、もうすぐ光を失う。―
それが、若き天才画家の隠し続けた最大の秘密だった。
いつかその全てが暗闇になった時、画家としての彼は死ぬのだろうか。
彼は一体、どうなるのだろう…。
授業後、また植草先生の元へ行った。
この学校で、あの秘密を知っているのは、植草先生と僕だけなのだ。誰にも、悟られてはいけない。秘密を知ったあの日。
僕はそう、決意した。
植草先生は、彼が卒業するタイミングでこの事実を知った。
だが、その時も特に驚く事は無かったらしい。
何故なら、彼の父親・月森大成が画家を退いたのも、視力を失った事が原因だったからである。
彼の大学の同級生であり、古くからの友人でもある植草先生は、その事実を知る唯一の人だった。
誰にも、その事を伝えなかったのは、恐らく今の僕と同じ理由。
光さんに対する計らいであろう。
察しのいい先生は、まるで決められたセリフでも吐くように言った。
僕が、恐る恐る教室へ入った時、察しのいい先生は、まるで決められたセリフでも吐くように言った。
「いずれ、分かるとは思っていたがな…。」
彼の父・月森大成がスランプに陥った時、側で見守ってきたのは植草先生だった。
だから、これがどんな壮絶な戦いになるかは知っている。
けれども、先生は光さんに絵を描く事を辞めろ、とは言わなかった。
彼の父・月森大成も、その闇に抗い続けたからだ。
そして、それが今の彼を築き上げたといっても過言ではない。
月森大成の視力が、完全に失われたのは、最終的に四十七歳の時だった。
長い戦いはここで終わった。
でもきっと、光さんが全ての絵を描き終える事は無いだろう。
先生の話だと、月森大成が緑内障を発病したのが、二十代後半。
それに対して、光さんは圧倒的に発病が早かった。
つまり、才能を出し尽くす前に闇に覆いつくされる方が早いという事になる。
「大丈夫か?」
唐突に植草先生が言った。険しい顔で、考え事していた僕に対してだった。
「お前…。最近、考え事ばっかりだな。」
「あ…すいません。」
そうだ。僕はずっと上の空だ。
デッサンの授業の時もこんな事ばかりを考えていた。
先生はよく分かっている。しっかりしなくては…。
僕は勘違いをしていた。恵まれただけの、苦しみのない人なのだと…。
あの人のせいで、僕はすっかり頭の中まで支配されてしまったようだ。
でも、そんな切羽詰まった状況で、僕なんかを描いている場合なのだろうか…。
限りのある才能…。
僕はその貴重な時間を奪ってはいないだろうか…。
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