第2話ー影ー(3)


「見えなくなるって言っても、いつかはまだ分かんないけど…。たぶん、何年後かその先の近い内…。」


「…それは…病気?」

「そう。俺ね、〝緑内障〟っていう病気なんだ。」


―緑内障―


昔、一度だけ聞いた事があった。

確か、四十代前後の人達の何人かに発症する目の病だ。

その進行はとても緩やかなもので特に異常を感じる事も無い。

その為、多くの人が気づかぬ内に視野が狭まり、ついには視力を失う。

しかし、彼のような若い人がなるような病気ではない。

彼よりも、もっと上の世代に起こりうる病。そうゆう印象だった。


「いつ頃から…ですか…?」

「うん。俺の場合は遺伝性でね、物心ついた時にはそう診断されてた…。」


言葉も出ない僕を前に、それでも彼は淡々とした口調で続ける。

「今でも徐々に視力は失われ続けてる…。だから…君にモデルをして欲しいんだ。」


「え…?」


「完全にこの目が見えなくなる前に…君を、描きたい…。」

それは、悲痛な願いにも聞こえた。


しかし、そうまでして彼が僕に拘るのは何故なのだろう…。

断る為にここに来たのに、今になってそんな事を言うなんて…。

これじゃ、断るに断れないじゃないか。


でも、知りたいと思ってしまった。

彼が見ている景色や、僕を描く理由を…。

彼と関わる事で、その世界を知る事が出来るのだろうか。

彼の〝色〟に触れる事は出来るのだろうか…。



この時、僕は不覚にも、そう思ってしまったのだ。

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