第46話 別れ
「いつか」
八雲がしがみつくように体を密着させているいつかを見た。
「僕は全てが分かったんだ」
「うん」
いつかも泣いていた。
「私には届かない想いなのね」
「いつか・・」
「私はあなたを守れなかった」
「いや、十分守ってくれたさ」
八雲がやさしくいつかを見る。
「うん」
いつかは右手の人差し指で涙を拭うと、八雲を見上げ笑顔を作った。
「八雲」
背後から声がした。茜だった。八雲が振り向く。
「八雲、お前」
その後ろから泰造も、進み出てくる。更にその後ろからハカセ、静香も八雲に近づいた。
「みんな・・」
八雲は振り返りながら、泰造たち四人を見た。
「ありがとう、みんな」
「何言ってんだよ」
泰造が言った。
「八雲君・・」
ハカセは言葉にならず、呟くようにそれだけを言った。その横で静香も言葉もなく、そんな八雲を見つめていた。
「いや~」
茜が叫んだ。
「八雲が死んじゃうなんてやだぁ」
「茜・・」
八雲は、茜を見つめた。
「お前が言っていたことは全部本当だったんだな」
泰造が茜の横から言った。
「ああ、やっと信じてもらえたな」
八雲は泰造を見て笑った。
「八雲が死んじゃうなんて嫌だぁ」
茜が再び叫ぶ。そんな取り乱す茜を支えるようにして、静香がその隣に立った。そんな普段クールな静香の目も真っ赤になっていた。
「八雲くん・・」
ハカセもいつになく強く感情を込めて八雲を見つめた。
「ハカセ・・」
八雲もハカセを見た。
「静香・・」
そして、その隣りの静香を見た。
「みんなに会えて、幸せだった」
八雲は一度目を伏せ、改めてみんなを見た。
「・・・」
四人は黙ってそんな八雲を見つめていた。
「この想いはどんな全てのものより大切なんだ」
八雲は自分の胸に手を当てた。
「八雲・・」
泰造が呟いた。
「みんな、離れてくれ」
八雲が言った。
「・・・」
四人はためらったが、八雲の何とも言えない決意に満ちた澄んだ眼差しを見て、ゆっくりと後ずさっていった。
「いつか」
八雲が再び八雲の腕にしがみつくようにしているいつかを見た。
「・・・」
いつかも八雲を見た。何も言わなくても八雲が何を言わんとしているのかいつかは分かっていた。しかし、離れがたい想いが、いつかを硬直させていた。
「いつか」
八雲がいつかを諭すようにやさしく見つめる。
「・・・」
いつかはためらったが、ゆっくりと八雲の腕から手を離し、立ち上がった。
「八雲・・」
そして、いつかは八雲を見つめながら、ゆっくりと後ろへ一歩一歩、八雲から離れていった。
「また、私たちもどこか輪廻の彼方で会うのかもね」
いつかが小さな笑みを作って言った。
「ああ」
八雲も小さく笑った。いつかの目からは大粒の涙が次々と流れ落ちた。それを拭拭おうともせず、いつかは八雲をまっすぐ見つめ続けた。
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