第43話 愛のために
八雲の叫びも大きな渦の流れの中に、虚しくかき消えていく。
「あなたは私への愛のために百万遍の輪廻の彼方にその身を投げた。全ての業を背負って」
純は続けた。
「全ての業を背負って?」
いつかが純を見た。
「果てない無限の宇宙が数えきれないほど何度も何度も滅びては誕生し、気の遠くなるような時間と空間の歴史の果てにあなたの想いと私の想いがあって、それはこの果てない流れの中にどこまでもどこまでも流れ続ける」
八雲は苦しそうに胸を押さえている。そんな八雲を支えるようにいつかが寄り添った。その後ろで、泰造、茜たち四人も近くに来て心配そうに八雲を囲む。
「それはもう始まりも終わりも無く永遠に回り続ける」
大きな流れの中で純の美しい声が悲しく響く。
「分かんねぇよ。何言ってるのか分かんねぇよ」
八雲は叫んだ。
「背負った業からは決して逃れられない。それは私たちの存在そのものだから・・」
純の目に浮かぶ悲しみは更に深くなった。
「私たちは逃れられない・・」
純は更なる悲しみの目を八雲に向けた。
「そして、私は喪失した愛の欠片を求めて永遠に生きねばならない。あなたを追って」
純の視線が八雲をしっかりと捉える。
「僕を追って・・?」
八雲もそんな純を見つめた。その時、その透き通るどこまでも澄んだ青い瞳の奥の悲しみに、八雲の意識は次第に吸い込まれて行った。
「うをぉっ、うをぉっ」
八雲は自分の体が溶けていくのを感じた。
「八雲!」
ふらふらとする八雲をいつかと、茜、泰造たちが慌てて支える。
「なんだこれ」
八雲の体は次第に輪郭を失い周囲に溶け込み始めた。それはどこまでもどこまでも広がり、地球を飲み込み、太陽系を飲み込み、銀河系を飲み込み、遂に宇宙にまで達した。そして、その宇宙さえも超え、果てしない形而上的流れへと変わっていった。かつて八雲が夢で見たあの闇の世界だった。
「・・・」
八雲はただ流れていた。
「・・・」
傍に純の存在を感じた。それは純の形をしていなかったが、確かに純だという感触があった。
無数の光の波が走っていた。その中を溶け合った二人は流れていく。方向感覚も時間感覚も無かった。そう言った概念が通用する世界ではなかった。
「この光の粒一つ一つが、全ての因果」
すぐ隣に感じる純の声が八雲の中に響いた。
時間を遡り始めた。それは途方もない時間だった。それが時間なのかさえもはっきりとは分からなかった。だが、今までの自分の感覚の中で、八雲はそう感じるしかなかった。
「な、なんだ。これ」
八雲は訳が分からなかった。なんとなくたどりついたところは宇宙概念すらも超えた世界だった。完全に人間の意識が認識できている世界観から外れていた。
「・・・」
しかし、八雲は。そこにどこか懐かしさを感じていた。
「な、なんだ。なんなんだ」
「永遠の因果の絡まりの中で存在のありようは決まっていく・・」
神秘的な純の声が響いた。
「お、俺・・」
八雲は自分という感覚さえも失っていくのを感じた。
「全ては因果のままに・・」
「うわぁ~」
純の声が響くと共に、八雲は八雲ではなく、一つの現象になっていた。
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