第42話 愛は罪

 八雲たちはその神々しいばかりに美しく光輝く純を見た。というよりも見惚れていた。それはもはや、性別を超えた神秘を纏った別次元の美しさだった。実際、女性であるいつかや茜、静香でさえもが、あまりの美しさに見惚れていた。

「愛は憎しみ。愛は悲しみ。愛は孤独。愛は残酷」

 美しい琴の、悲しい調べのような声が流れていく。

「愛することは罪・・」

「罪・・?」

 いつかが訝し気に呟いた。

「それはたった一瞬の悲しい愛。完全なる闇に生まれた儚いかすかな光・・」

 悲しい響きは言葉一つ一つと共により増していった。

「宇宙の銀河法則を超えた流れの中で、それは許されなかった。決して・・」

 悲しみは増し、そのあまりの悲しい想いの深さに、大地が震えるようだった。

「その愛は生まれてはならなかった」

 純の悲しみに光る瞳が八雲たちを見つめる。

「いったい、なんなのよ」

 いつかが突然純に向かって挑むように叫んだ。八雲たちがそんないつかを一斉に見る。

「なんなのよ」

 しかし、いつかの叫びは大きなうねりの中に掻き消えていった。

「いつか」 

 八雲が、いつにない怖い表情をしたいつかを見つめる。

 いつかはグラナダを持つ手に力を籠めた。だが、それが通用する世界に今はいないことをはっきりと悟っていた。しかし、いつかはなんとか、なんとか八雲を守りたかった。

「その愛は、決して生まれてはならなかった・・」

 純の心の奥底の悲しみの淀みから最後の一滴が漏れ出るように、声が流れた。

「な、なんでお前は俺を殺しに来るんだ」

 今度は八雲が叫んだ。

「これは星を超えた時空を超えた愛なのよ」

 純は愛おしそうに、そして悲しそうに八雲を見つめた。

「愛?」

 八雲といつかが同時に言った。その後ろで、茜、泰造、静香、ハカセが全く理解出来ず戸惑った表情で状況を見守っていた。

「あなたはただそのたった一瞬の愛を、未来永劫背負って私を愛し続けてくれた。私はそれを追いかける」

「俺がお前を愛した・・?」

 純は泣いていた。それは、それを見た者の心の底に、何とも言えない切なさが響く、そんな悲しみを宿した涙だった。

「・・・」

 八雲たちも訳が分からない中で、訳が分からないまま、言葉なくその涙に魅せられた。

「うっ」

 その時、八雲の胸の奥に、あの以前感じた温かい感覚が沸き上がった。それは微かな温かみのような感覚だったが、その奥に何か大きな懐かしさがあった。それがなんなのか、思い出せそうでいて、やはり何か大きな壁のようなものがあり、思い出すことが出来なかった。

「ううっ」

 八雲は胸を押さえ呻いた。その思い出せそうで思い出せない何かが、八雲を何とも言えないもどかしい苦しみに苛んだ。

「どうしたの。八雲」

 いつかが心配そうに八雲に近寄りその顔を覗く。

「何で泣くんだ。何で泣くんだよ~」

 八雲は胸を押さえ、純に向かって叫んだ。

「八雲?」

 いつかが更に八雲を見る。

「君は一体誰なんだ。一体何なんだ」

 八雲は声の限り叫んだ。

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