第41話 最終決戦
二人は校舎の外に出た。
「うわああっ、ああ?」
外に出たとたん八雲は、目を剥いた。
「な、なんだこれは・・」
校舎の外は世界そのものが渦を巻いていた。八雲は愕然とその光景を見つめた。
「ど、どうなってるんだ」
八雲はいつかを見た。いつかは険しい表情で、その凄まじい光景を見つめていた。そのいつかの表情でこれがただならぬ状況だということが分かった。
「・・・」
時間も空間も歪み、今まで当たり前に感じていた上も下も右も左も先も後ろもなく、物質の感覚、五感で感じられた世界が、歪んで溶けていた。しかし、それでいて不思議とそれを世界として認識はできていた。
「あ、頭がおかしくなってるのか・・」
まったく別次元の世界を無理矢理今ある体に落とし込んでいるような何とも言えない違和感を八雲は感じて、吐き気にも似た気持ち悪さが精神と感覚全体を覆っていた。
「こ、これは・・」
八雲は感覚と視覚、いや視覚で見ているのかさえはっきりとは分からないのだが、とりあえず見えていると感じる世界を呆然と見つめた。
「遂に来たのよ」
「な、なにが来たんだよ」
八雲は隣りのいつかを見た。今までどんなことがあっても、落ち着きと楽観性を失わなかったいつかの左頬を、大きな汗がツーっと流れ落ちた。
「八雲」
その時、八雲の背後で八雲を呼ぶ声がした。八雲が声の方を見ると、茜だった。その後ろには泰造やハカセ、静香もいる。
「大丈夫?八雲」
茜は心配そうに、血の付いた埃まみれの服を着た八雲を見た。
「どうなってんだよ。これ」
その茜の後ろから、泰造が目を剥いて八雲に迫る。
「俺にも分らん」
八雲にはそれしか言えなかった。泰造はその時、八雲の隣りにいたいつかを見つけた。泰造は訝し気にいつかを見つめる。泰造は一度学食でいつかを見ている。
「・・・」
そして、泰造はいつかの手に握られているグラナダを見た。泰造はそれをどう理解していいのか困惑した表情で凝視した。
「・・・」
泰造は、再び八雲を見て、いつかをまた見た。
「お、お前・・、この子・・」
泰造は再び八雲を見た。
「やっぱり・・、付き合ってたのか・・」
「付き合ってない」
「付き合ってない」
二人は同時に叫んで、お互いを見た。
「・・・」
「・・・」
「でも、キスはした」
八雲がつぶやいた。
ゴンッ
「いったぁ」
いつかがグラナダで八雲の後頭部を小突いた。
「余計なこと言わなくていいの」
いつかの顔は真っ赤になっていた。
「・・・」
泰造は、そんな二人を見て、今までのことを思い出しながら、今まで八雲から聞いた話と重ね合わせ、それを頭の中で繋ごうとして、今のこの状況を把握しようとしていた。だが、そんなことができるはずもなかった。
八雲が周囲を見渡すと、外に出ている他の学生や学校関係者も全く我が目を疑い、その場に呆然と突っ立って酔ったようにこの情景を見つめていた。
しかし、八雲たちのいる場所はそこからさらに何か特別に歪んでいるように見えた。だから、その周囲の人間たちは八雲たちの存在を、いや、それ以前に八雲たちのいる空間を認識できていないようだった。
「愛は憎しみ。愛は悲しみ。愛は孤独。愛は残酷」
その時、世界の歪みの中心の渦の中心から突然声が響いた。それを渦と呼んでいいのか、声と呼んでいいのかさえ分からなかったが、そういう感覚が響いていた。
「愛することは罪・・・」
気づくと渦の中心に、本来の姿が解放されのか、さらに美しく輝く純が立っていた。
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