第40話 疑念
「八雲~」
純の背後から叫び声がした。いつかだった。いつかはグラナダを片手に猛烈なスピードで、純の背後に迫った。そして、その走ってくる勢いのまま、グラナダを片手に天井すれすれまで飛躍し、グラナダを突き刺すように、純に向かって突進した。
ガシャ、ギーン
ものすごいエネルギーのぶつかり合う光と轟音が響いた。
「くっ」
いつかが呻く。純の左腕に現れた光の盾が、いつかのグラナダを受け止めていた。
いつかが着地すると、歯噛みして純を睨んだ。そんないつかをどこまでも落ち着き払った純の目が見据える。
「・・・」
「・・・」
しばし二人は見つめ合ったまま、固まっていた。
ふいに、純が右手を振った。すると、光の帯が床から純を囲むように現れ純を包んだ。「あっ」
と、いつかが声を上げた時には、その光と共に純は消えていた。
「・・・」
しばらく純の消えた辺りを見つめていたいつかだったが、はたと我に返り、八雲を見た。
「無事だったの」
八雲はまだ呆けたまま、その場に突っ立っていた。
「無事だったのね」
いつかはいつにない安堵した表情をして八雲に近寄った。
「う、うん。ああ」
やっといつかの存在に気づき、声を発した八雲だったがまだ放心状態だった。
「なんか変だわ」
いつかは眉間に皴を寄せ訝しんだ。
「えっ?」
「何かあったの?」
いつかは八雲に疑惑の視線を向ける。
「な、なんにもないよ」
「っとういうかどうして無事だったの?」
いつかの眉間の皺は更に深くなった。
「う、うん、まあ」
「エメラルダスと何かあったのね」
いつかは疑念に満ちた目で、八雲の顔を覗き込む。
「何もないよ」
八雲は視線を逸らす。
「・・・」
いつかは疑い深げに八雲の表情を見つめていた。こういう時の女の感は鋭い。
「っといか、なんで泣いてるの」
八雲は自分で気づかずに涙を流していた。八雲は慌てて、涙を拭った。
「泣いてねえよ」
いつかはそんな八雲を、すぐ近くで更に訝しく見つめた。
「と、とにかく逃げよう」
八雲は胡麻化すようにいつかを促した。
「・・・」
しかし、いつかはまだ八雲を疑わし気に見つめている。
「な、なんだよ」
「・・・」
いつかは八雲を、何とも言えない細めた疑念に満ち満ちた目で見つめたまま動こうとしなかった。
「あ、あのなぁ・・」
その時、また大きく校舎全体が揺れた。二人は天井を見上げた。
「ほ、ほらっ、早く出よう」
「う、うん」
そう答えたいつかだったが、疑念は消えていなかった。
二人は、走りだした。それと同時にまた、大きな揺れが起こった。それは、大地全体がうねっているような揺れだった。二人は足を止め、床に手をついた。
「これはエメラルダスの力なのか」
純はさっき・・。八雲は純の柔らかい唇の感触を思い出していた。
「何言ってるのよ。当たり前でしょ。他に何があるのよ」
「もっと、違う何か・・」
八雲は何かを感じた。
「そういえば、老師も似たようなことを言っていた気がする・・、もっと大きな・・、因果の流れ・・」
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