第33話 再びあの場所で

 八雲は七支刀を片手に、あの旧校舎に立っていた。

「ここに何かがある」

 八雲は、ここに何か大きなエネルギーのうねりの様なものを感じていた。それは、何かとてつもなく別次元の広大なうねりだった。

 揺れは収まったが、まだ断続的に小さな揺れは起こっていた。七支刀は尚も八雲の手の中で赤く光っていた。

 その時、背後から誰かが走ってくる足音がした。

「来たか」

 八雲は勢いよく振り向いた。

「八雲」

 しかし、それは茜だった。

「どうしてお前がここに?」

 八雲は驚いて、茜を見つめた。茜と口を利くこと自体が、かなり久しぶりだった。

「心配だったから・・」

 茜はいつになくしおらしかった。

「八雲がこっちに走っていくのが見えて・・、それで・・」

「・・・」

 八雲は黙ったまま、茜を見つめていた。茜は相変わらず、オレンジに近い真っ赤な髪をして、カラフルな原色の服に身を包んでいた。

「私たちの友情がこんなことで終わっちゃうなんて嫌だから・・」

「その話は後だ」

 その時、また大きな揺れが起こった。

「きゃっ」

 茜が八雲の腕にしがみつく。

「大丈夫か」

「うん」

 茜が八雲に向けて顔を上げる。

「お前は泰造たちと一緒にいた方がいい」

「でも」

「すぐ戻るんだ」

 そう言って、何かを言いかける茜を置いて、八雲はその場から走り去った。

「・・・」

 そんな八雲の後ろ姿を、茜はどこか悲し気な目で見つめた。


 八雲は旧校舎の中を走り回った。何を具体的に探すわけでもなかったが、何かがある気がして八雲はじっとしていられなかった。

「どうしたの?」

 また背後で声がした。

「茜、泰造たちのところへ・・」

 八雲は振り返った。

「あっ」

 それは茜ではなく、いつかだった。

「お、おっ、」

 八雲はしばらく言葉にならなかった。しかし、目の前にいるのは紛れもなくいつかだった。

「お、お前、」

 いつかは何か面白い生き物でも見るみたいに、おかしそうに八雲を見ていた。

「お、お前、どこにいたんだよ」

「後ろにいたわよ」

 なんでもないみたいにいつかは、やはり少し笑みを含んで言った。

「今じゃなくて」

「ずっとよ」

「あっ?」

「ずっと、あなたの後ろにいたわ」

「ずっと?」

「そう、ずっとあなたを見てたわよ。変な意味じゃなくてよ。誤解しないでね」

「・・・」

 八雲は、しばらく上手く思考がまとまらず、ただいつかを呆然と見つめていた。

「ずっと、いたのか。俺の後ろに」

「そうよ」

「・・・」

 八雲は、今までのことを思い出しながら必死で思考したが、発するべき言葉が見つからなかった。いつかはそんな八雲を、笑いがこらえきれないみたいにおかしそうにクスクスと笑っていた。

「ずっと見てたんならなぁ。お、俺は大変だったんだぞ」

「知ってるわ」

「知ってるのにほったらかしかよ」

「エスメラルダスぅって叫んでたわ」

 そこでもうたまらないといった感じで、クスクスといつかは笑った。

「さ、叫んでねぇよ」

「ふふふっ、ちょっと、涙目になってたでしょ」

 いつかは更に笑った。

「な、なってねぇよ」

 八雲の顔は真っ赤になっていた。

「ふふふっ、私がいなくて寂しいなら寂しいと言いなさい」

「誰が言うか」

「俺はほんとに大変だったんだぞ。頭おかしくなったのかと思って・・、お前もエメラルダスも全部幻覚だったんじゃないかって・・、それに友達も大学での信用も全部失ってだな。ほんとお前は性格悪い・・」

 そこで改めて八雲はいつかを見た。いつかも八雲を見た。

「俺・・」

「うれしいんでしょ」

「相変わらず性格悪いな」

 そこで二人はクスクスと笑い出した。

「なんだか懐かしいよ」

「もう、思い出になってるの?」

「やっぱ、お前はそうじゃなくちゃな」

 その時更に大きく校舎が揺れた。八雲といつかは同時に天井を見上げた。

「ついに始まったんだわ」

「何が始まったんだんだよ」

「最後の戦いよ」

「最後の戦い?」

「今度は本気よ」

「・・・」

 いつかの手にはいつしかグラナダが握られていた。

「さあ、来たわよ」

 八雲がいつかの視線を追うとそこに、あの色のついたオーラを纏った純が立っていた。

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