第22話 第三の目
ぐんぐんと純は、強烈な青い光りと共に魔法陣の中に引き落とされていく。
「やったわ。成功だわ」
いつかが感激の声を上げる。
「これで、逃亡生活も終わりだ」
八雲も今までの苦しみを吐き出すように言う。八雲の中に感慨深い感情が沸き上がる。突然、命を狙われ、部屋を破壊され、我がままな女子高生には振り回され・・。
「辛かった・・、本当に辛かった・・」
今日一日起こったことを回想し、八雲は一人涙ぐみそうになっていた。
「それもこれも、全てこれで終わり・・」
純は完全に魔法陣に捕らえられ、ゆっくりと確実にその中へと引き込まれていく。
しかし、やはり純は、なんの抵抗をすることもなく、ただなされるがままにその流れに身をゆだねるように身動き一つせず立っていた。
「・・・」
八雲は、自分たちが圧倒的優位であるはずなのに、そんな純の姿に何か畏怖のようなものを感じた。それはまるで、絶対に揺るぎのない何かがあり、それは何も変わらないことを確信しているかのようだった。
それでも、巨大な魔法陣の力がしっかりと純を捉え、その体はゆっくりと、確実に魔法陣の中に沈み込んでいた。
もう、純の下半身は完全に沈み込み、上半身だけが光る魔法陣の中に浮き立つように立っているだけだった。
「もう少し、もう少しで・・」
八雲は祈るように目の前の光景を見つめた。純はゆっくりと魔法陣による光の泉の中に沈み込んでゆく。
「もう少しだわ」
いつかが、勝利を確信したように叫んだ。あと少しで純は魔法陣の中に封じられる。それはもう確実だった。封じられてしまえば、そこから出ることは不可能。
だが、その時だった。
「どうして!」
突然、いつかが叫んだ。
「どうしたんだよ」
八雲が慌てていつかを見る。いつかが何か八方陣の異変を見つけたらしい。
「あっ」
八雲が驚く。見ると、八封陣の光に突然ヒビが入り始めた。
「そんなバカな」
いつかが叫んだ。
「どういうことだよ」
八雲が再び慌てていつかを見る。
「あり得ない」
いつかは、呆然と固まっていた。ヒビは少しずつ封陣全体に広がっていく。
「なぜ・・、八封陣は完璧だったはず・・」
いつかが茫然と目の前の、そのあり得ない光景を見つめる。というか、成す術もなく見つめるしかなかった。
そして、純を引き込む力が止まった。
「・・・」
いつかはやはり何もできない。ただその現実を見つめるしかなかった。
その時、そこへ、老師が六角堂の大きな観音扉をぶち破るような勢いで飛び込むように入って来た。そして、いつかの隣りに並び立つと、素早く持っていた剣を型通りに振りながら印を結び、純の上からさらなる魔法陣をかけた。すると、純の頭上から、新たな魔法陣の光の網が落ちていく。再び純は封陣の中に沈み始めた。
「やった」
八雲が歓喜の叫び声を上げた。と、思ったのも束の間。
「くっ」
老師が呻いた。
「えっ?」
八雲が老師を見た。その瞬間だった。純の額に光が走った。それと共に、純の額にはめられていたサークレットが外れた。そして、そこに強烈な赤い光が現れる。それと共に巨大な光とエネルギーの竜巻が六角堂全体に巻き起こった。
「うわぁあああ」
強烈なエネルギーによって吹っ飛ばされ、八雲といつかは六角堂の壁に叩きつけられる。
「目だ」
顔を上げた八雲が叫んだ。純の額には、真っ赤な第三の目が開いていた。
「見ちゃダメ」
いつかが叫んだ。
「えっ」
「見たら死ぬわ」
「うわあああ」
その時、さらなるものすごい光と風圧を伴った、とてつもないエネルギーが辺りを覆い、渦巻いた。すると、今まで純を引き込んでいた力が逆流し始めた。
「これは絶対の業」
とてつもないエネルギーの光に包まれた純が、封陣から浮かび上がって来た。
「決して逃れられない絶対」
純はこうなることが分かっていたかのように、やはり落ち着いていた。
「やはりエメラルダスは強大じゃ。全く歯が立たん」
強烈なエネルギー波に一人抵抗して立ち続ける老師は、愕然と浮かび立つ純を見つめていた。
「これは宇宙を超えた意志」
魔法陣から浮かび上がる純は、その澄んだ瞳で老師を見た。
「宇宙を超えた意志?」
老師が戸惑いの表情をする。
「どんな力も、この果てしない因果を変えることはできない」
「そこまで強烈な因果とはいったいなんなの」
いつかが、強烈なエネルギーの渦の中、エメラルダスに叫んだ。その瞬間、また、さらなる赤い光が、純の額から放たれた。
「うわぁあああ」
純の額から発せられた凄まじいエネルギーの渦と共に、辺り一帯が赤い光とエネルギーに包まれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。