第11話 焼きそば

「なんで俺があんな奴のために」

 ぶつぶつ言いながら八雲は冷蔵庫を開けた。ちょうど焼きそばと野菜があった。

「よしっ、焼きそばだ」

 八雲は慣れた手つきで、野菜を刻み始めた。八雲は、自炊もしているし、飲食店でもバイト経験があり、料理はそこそこ自信があった。八雲は慣れた手つきで野菜を刻み始める。

「我ながら会心の出来だ」

 しばらくして、おいしそうな熱々のウィンナー入り焼きそばが出来上がった。八雲はジュージューと音を立てる焼きそばを器にさっと盛り付けると、それをいつかのところへ持っていった。

「ほらっ、出来たぞ」

いつかは、八雲が料理している間に八雲の乾かした服をしっかり着ていた。

「え~、焼きそば~、私ローストビーフが食べたかった」

「そんなもんあるか」

「しょうがないわねぇ」

「て、てめぇ~」

 八雲は、奮発して普段なら絶対入れないウィンナーソーセージまで入れてやったことを心底後悔した。

「青のりは?」

「無いよ」

「ほんとダメねぇ~」

「いらないだろ」

「青のりの無い焼きそばなんて焼きそばじゃないわ」

「青のりなくても焼きそばだよ」

「買ってきて」

「はあ?」

「買ってきて」

「買い物先で俺が殺されたらどうすんだよ。しかも、そんなくだらないもののために」

「もう死になさいよ。あなたなんか。私のために死ねたら本望でしょ」

 いつかはイラつきながら、それでも焼きそばを食べ始めた。

「て、てめ~」

 八雲はもう死んでもいいから、こいつを追い出そうかと本気で考えた。

「まあまあね」

 そこにさらにいつかが言う。

「お前なぁ・・」

 八雲は、純に狙われるよりこいつに守られていることの方が、圧倒的に不幸なんじゃないかと本気で思った。

「マヨネーズ」

 その時、いつかが顔を上げた。

「マヨネーズ?」

 八雲がいつかを見返す。

「マヨネーズくらいあるでしょ」

「あるよ」

「持ってきて」

「えらっそうに」

 ぶつぶつ言いながらも、八雲は冷蔵庫へむかった。

「ほらっ」

 八雲は叩きつけるようにマヨネーズをテーブルに置いた。いつかはそんな八雲を気にもせず、のんびり焼きそばを食べながら、八雲の置いたマヨネーズに手を伸ばし、そして、焼きそばに、マヨネーズをかけ始める。

「おいっ」

「何よ。うるっさいわね」

「マヨネーズかけすぎだろ」

 いつかはマヨネーズを、ドバドバとものすごい勢いで焼きそばの上にかけている。

「いいでしょ、私がどんだけマヨネーズかけようと」

 焼きそばはすでにマヨネーズでぶ厚く埋まっていた。ほぼ新品だった徳用マヨネーズのチューブはほぼ半分が無くなっていた。それをいつかは食べ始める。

「焼きそば食っているのかマヨネーズ食ってるのか分からんな」

 八雲は見ているだけでなんだか気持ち悪くなってきた。

「まったくどんな躾を・・・」

 またぶつぶつ言いかけた時、そこで八雲はふと何かを感じた。

「なあ」

「何よ」

「なんか嫌な感じしないか」

「え?」

 その瞬間、分厚い玄関ドアが吹っ飛んで、テーブルを挟んで座っていたいつかと八雲の間をものすごい勢いで掠めると、そのまま窓を突き破って遥か彼方へと消えていった。

「・・・」

 二人は顔を見合わせ、玄関を見た。

「!」

 純だった。凄まじい妖気が、すでに色を持ってその場に漂っていた。

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