第6話 戦い

 八雲の前に立っているのは、紛れもなく、あの八雲の近くにいつもいると訝しんでいたあの謎の美少女だった。

「伏せて」

 謎の少女が叫んだ。謎の少女の手にはいつの間にか、バカでかい槍と言っていいのか楯と言っていいのか分からない巨大な武器のようなものが握られていた。

「また来るわ」

「えっ?」

 姫巫女純も、いつの間にか黄金に輝く錫杖のようなものを握っていた。そして、それをゆっくりと振り上げた。

「わあっ」

 それとともに再び強烈な閃光と衝撃が走った。

「な、なんなんだよ。これ」

 純と謎の少女はお互いが強烈な光を発しながらぶつかり合い、押し合っていた。

「なんだ。何が起こっているんだ」

 八雲は半ばパニック状態になりながら、衝撃に吹っ飛ばされないように、謎の少女の影に縮こまるように、身を固くしていた。

 ものすごいエネルギーとエネルギーのぶつかり合いだった。しかし、純の方はか細い錫杖なのに、さして力も入れている様子もなく落ち着いた表情で謎の少女を押している。謎の少女は巨大な武器を盾に全身で渾身の力を込め、必死で耐えている感じだった。

「守ってくれているのか?」

 強烈な光の中、薄っすらと見える光景は、まるで謎の少女が、八雲を守ってくれているようだった。

 そして、また閃光がやんだ。八雲はゆっくりと顔を上げる。

「まったく、想像以上ね」

 そう呟く謎の少女は、肩で大きく息をしていた。一方、純の方は全く消耗した様子もなく、表情一つ、息一つ乱れてはいない。

「何が起こっているんだ」

 八雲には、全く訳も分からず、何をどう認識していいのかすらが分からなかった。

 その時、純の体がゆっくりと宙に浮き始めた。

「お、おい」

 八雲は目の前で起こってる光景に目を剥いた。しかし、確かに人が宙に浮いている。

 宙に舞う純のその背後には凄まじいオーラが漂っていた。そして、純が再び錫杖を高々と上げると、新たな凄まじい一撃が、稲妻が弾けるように八雲とその前に立つ少女に襲いかかった。

「くっ」

 謎の少女は堪らず呻いた。しかし、その一撃を耐えると、一瞬の隙をついて今度はその手に持った大きな武器を人間離れした跳躍と共に純に向かって突き上げた。それと共にその巨大な武器の先端から、ものすごい衝撃波が放たれ純を襲う。しかし、純はそれを、ただの空気の流れであるかのようにふわりと無駄のない動きでなんなくかわす。少女の向けた行き場のない衝撃波は、その背後の分厚いコンクリートの壁を吹っ飛ばした。

「おいっ、おいっ」

 八雲は、目の前の凄まじい光景に、目を剥いて驚き絶句した。八雲は信じられない思いで目の前の光景を見つめるが、確かに分厚いコンクリートの壁は吹っ飛んでいる。

「これは現実なのか?」

 八雲は、あまりのことに目の前の光景に現実感を感じることできなかった。

「・・・」

 呆然とする八雲を尻目に、また、宙を舞う姫巫女純の手から、閃光が走った。

「うわっ」

 謎の少女の離れた無防備な八雲へ閃光が襲う。八雲は叫び、両腕をクロスさせ身を伏せた。もうだめだ。八雲がそう思った時、間一髪のところで、滑り込むように謎の少女が再び八雲の前に立ち、盾になった。

「やっぱり、守ってくれているのか・・」

 八雲は、謎の少女の小さな背中を見つめた。

 その時、謎の少女が、右手を大きく動かし、空を切るように何か文字を書くと、赤いチェックのミニスカートのポケットから大きな何やら難しい漢字の書かれたお札を取り出した。そして、それを額に近づけ何かぶつぶつと呪文のようなものを呟くと、姫巫女純に向かってそれを突き刺すように飛ばした。お札は、まっすぐに、姫巫女純の下へと飛んで行くと、何か光を発した聖獣のような姿に変化していきながら、純へと襲い掛かった。しかし、純は表情一つ変えることなく、錫杖を高く掲げると、純を覆うように丸く包む光の球体を作り出し、聖獣を迎え撃った。謎の少女の作り出した光の聖獣は、その純の周囲にバリアーのように広がる光の球体にぶつかり、強烈な閃光と共に弾け爆発した。

「うわっ」

 八雲が叫ぶ。ものすごい衝撃波が周囲を震わせた。

「さっ、今のうち」

 すると、謎の少女が、八雲の手を取って、純と反対の方へと走り出した。

「な、なっ」

「逃げるのよ」

 まだ何事かと混乱している八雲に、少女は強い口調で言った。

「あ、ああ」

 八雲は訳も分からず、ただ謎の少女の小さな手の柔らかく温かい感触を妙に強く感じながら、少女に引きずられるようにして走り出した。

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