リミッター・解除

「新入り、お前、何ガッツポーズしてるんだよ?そんなことしてる場合じゃないだろ?」

「これが喜ばずにはいられませんよ。俺の狙いが正しいことが証明されたってことなんですから!」

「どういうことだ、アタシにわかるように説明しろ」


 シズカだけではなく、ヒミコも興味深そうにハヤトを見ている。

 おそらく、映像スピーカの向こうのククリとスクナもそうなのだろう。ハヤトは、全員に向かって話すことにした。


「あの白衣の男と初めて会ったとき、アイツは、マザーコンピュータが破壊された後、シヴァがまだ完全稼働していないって言って、サクラを狙ったんです」

「サクラちゃんを、マザーコンピュータの代わりにしようとしてたって話か。それならさっきも聞いたけど。」

「シヴァが本当にシヴァなら、そうではないのかもしれませんが、どうやら起動した最初は、何か中心となる個体が必要なんじゃないかって、俺思ったんです。」

「なるほど……」

「それで、さっきからずっと見てると、1機だけ戦闘に参加していない機体があったんです。それが19のヤツです。自分でも確実にそうだとは断言できない状況でしたが、他の機体に庇われるっていうことは、そういうことですよねっ!」


 「おおっ」と全員の口から感嘆が漏れた。


「でも、そうだったら、不十分だな。」

「石凝さん……なんでですか?」

「近くにいたら、別のに移っちまうかもしれないんだろ」


 そうなのだ。ハヤトが今一番恐れていることはそれだった。

 だから、サクラに一撃で倒すように言ったのだが、確実性は無い。シズカのいうおり、これでは不十分だ。


「どうしたらいいって顔すんな。簡単だ、周りごと吹っ飛ばせばいい」

「ええっ?」

「隊長、許可を!」

「この状況ではやむを得ないか。それにサクラ、トモエ、あの2人なら大丈夫だろう」

「回線借ります……サクラ、トモエ、リミッター解除しろ!」

「了解!」

「……わかった、シズカ」


 サクラとトモエがそれぞれの武器に向かって叫ぶ!


「リミッター・解除!」


 次の瞬間、ハヤトの位置からでも、彼女達の武器の威力がそれまでと明らかに違うのが見て取れた。


 サクラの手甲の輝きは増し、炎のようにその両手を包んでいる。


 トモエが手に持つ青い剣は、見る間にどんどん長くなり、今や天にも届くかのような長さとなっている。


「いくよっ、トモエちゃん」

「わかった…サクラ」


 2人が目配せする。

 サクラが跳躍した。

 トモエが横手にその長大な剣を構える。

 そして……。


「出力最強、これでも……」

「……くらえー」


 19の機体に向けて、サクラが空中から突っ込んでいく。他の機体が庇いに入るも、そのスピードと威力に、相手にならないで吹っ飛んでいく。


 トモエの方はもっと無茶苦茶だった。彼女が剣を振るい、その切っ先が触れたロボットは全て崩壊していく。


 もはや19の守りは無かった。

 そして、2つの光がそこに交差する……。


 少し経って、光が収まった後、そこに立っているのは、2人の少女の影だけだった。

 例の男がまた出現するのではと危惧してはいたが、この状況では、いい加減それはあり得ないと言って良いだろう。


「やらせといて何だけど、凄いなこれ」


 ようやく余裕ができて、アメノイワフネの外に出て、ぐるりと周りを見渡したシズカが今更ながらに言った。


 トモエの一撃で、綺麗な何も無い空間になっている。もっとも、その向こう側には元ロボットだった瓦礫の山が量産されているが。


「いやいや、流石でしたよ、石凝さん。確かに俺の考えだけだったら不十分でした」


 シズカのせいではないという意味も込めて、ハヤトがシズカを称えた。シズカは、そんなハヤトの方に振り向いて、じっとその顔を見る……。


「シズカでいいよ、ハヤト」

「えっ、シズカ……さん?」

「お前よくわかんないけど、何かもってるのはわかった。もう新入りとは言えないってことだ」

「ありがとう……ございます」


 砂埃が消えたおかげか、夕陽がとても綺麗だった。


「2人とも、そろそろいいか?トモエとサクラを回収して帰るぞー。」


 遠くから、ヒミコの声がした。いけない、と一声、ハヤトはヒミコの方へ走って行った。


「ちぇっ」


 シズカの口から聞こえたその台詞は、聞き間違いだったのかどうか。とにもかくにも、こうして、ハヤトとサクラの初めてのミッションは終わったのだ。

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