そして俺は捕らわれの身となった
ロボットの大群との戦闘を終え、ENA本部に戻ってきたハヤトは、休む間もなくヒミコに呼び出された。
「ヒミコさん……何でしょう?俺、そろそろ家に帰ろうかと思っていたところなんですが……」
正直、心身を酷使しすぎて疲れている。早く帰ってシャワーでも浴びたい。
それに、あの夜、カーチェイスの時から家に全く帰っていないのだ。ヒミコとのこれまでのやりとりからして、タマコに何らかの情報は伝えられているはずだが、心配はしているだろう。
「そのことだ」
「……どのことですか?」
「察しが悪いな、秋津ハヤト。悪いが君はいろいろ知りすぎた。自由を与えるわけにはいかないのだよ」
悪役のような台詞を言う。
確かにフリーネットワークのことといい、ENAのことといい、おそらく国家の極秘とされるレベルのことに触れたのは自覚しているが……。
そんなハヤトの、見るからに不満そうに変わった表情を顧みず、ヒミコは続けた。
「君には毎日ここで暮らしてもらう、もちろんサクラも一緒にな」
「ここで暮らす?無理ですよ、学校だっていかなくちゃいけないし」
委員長とミコトの顔が頭に浮かんだ。もう何日学校を無断欠席したんだろうか。
「学生だから、学校は仕方ない、もちろん行って構わない。構わないが、授業が終わった後はここに帰ってくるんだ。」
「ええっ!?そんなこと言われても……叔母が絶対に許してくれませんよ……」
「それは心配ない」
ヒミコは、確信を込めた表情で、きっぱりと言った。
「心配ない?どういうことです?!」
「こういうことだよー、ハヤト」
後ろから懐かしい声が聞こえた。振り向くとそこには……。
「タマコ姉さん?!」
ハヤトは走った。彼女のもとに。そしてひっしと再開の抱擁を果たした。
「よしよし、かなり冒険したみたいだな、ハヤト。男前になってるぞ」
「姉さん……姉さん……。……」
「ん?どうしたの、ハヤト」
ハヤトはいつ言おうか悩んでいた。最愛の叔母であるタマコに向かってどういったものか、いやしかし、言わざるを得ない。むしろストレートに言ってしまった方が話は早いだろう、えい。
「姉さん、なんでENAの制服着てるのさ!!!」
上から下まで、何度見ても、ヒミコと同じ型の制服である。
「そっか、言ってなかったね。でも守秘義務だから……」
何度も繰り返された台詞。そうだった。守秘義務。この立場になってみれば当然だ。タマコは、ハヤトを巻き込みたくなかったのだろう。
「倭先輩、倭隊長と相談したんだよ。私たちの家だもの、私もあの家で過ごすのが一番だと思うけど、でもね、もうこうなっちゃったら、あの家安全じゃないから」
タマコが、ハヤトの家の現状を語った。
実はヒミコとハヤトが逃走した後、警察によってあの家に残っていた黒服も捕まえられたのだが、その際、家の中で激しい銃撃戦が行われ、現場検証は終わったが、まだ修理ができていないらしい。
「それに、ここなら、私、毎日ハヤトに会えるのは変わらないからね。問題ナッシン!」
「タマコ姉さん……わかったよ、俺ここで暮らすよ」
「私よりはと思ったんだが、やはり姉代わりというのは違うな、感服したよ、和光」
「ありがとうございます。その、ハヤトをよろしくお願いします」
「もちろんだ」
そういえば、2人は知り合いだったのか、ん?知り合い?
ハヤトの中で、ふとした疑問が沸いた。
「タマコ姉さん、ヒミコさんとはお知り合いなんだよね?」
「そうだけど、どうして?」
「ってことはヒミコさん、俺が逮捕されたのとか、取り調べ受けたのとか、テストさせられたのとかは全部……」
「ああ、元々はフェイクだ。全ては君とサクラをENAで保護するためのな」
「!?」
落ち着いた表情で「フェイクだ」というヒミコにハヤトは憤りを隠せなかった。
「俺、全部真剣だったんですよ、姉さんのことも心配だったし、それに、それに……」
「ハヤト……」
「すまなかったとは思っている。だが、こうするしかなかったんだよ。フリーネットワーク、奴らもサクラを狙っていた。だから、こちらの手を読まれないように、奴らの戦力をそぎ落としつつ、全てを運ぶ必要があった。あのゲームの最後の割り込みを覚えているだろう。隙をつかれたらこちらも危ないんだ」
「……」
「それから、今だから明かすが、最初はさっき言ったように、君たちを保護するだけのつもりだったんだ。」
「保護……?」
「ここにいてもらうだけということだ。しかし、和光から聞いていたこともあったし、私はENAの戦力として考えられるんじゃないかと思い、一計を案じた。」
「……」
「あの取り調べは採用のための面接、テストは本当にテストだったんだ。それは偽りない。両方とも他のメンバーに見てもらい、全員の合意の上で、君とサクラにENAに加わってもらうことにしたのは事実だからな。」
「そうだったん……ですか」
「もっとも稲田は未だに君の実力に疑いをもっているし、石凝も今日の戦いが終わるまでは同じようなものだった。橘がアメノムラクモで斬りかかったのも、自分の目で確認したかったんだろうな。玉依は……まあそのなんだな…」
言いよどんだ。世の中なかなかフォローしづらいこともあるということだろう。一息いれるとヒミコは続けた。
「……確かに、まだまだお前の力は全員に認められたとは言えないだろう。だが、全員あの面接とテストを見た後、お前の入隊に反対するものはいなかった。だからフェイクから始まったかもしれないが、お前の実力はフェイクじゃ無い」
そうか、自分がさっきフェイクという言葉に対して感じたのは、全部が嘘のように聞こえてしまったからなのだ。
ヒミコは、そうではないと言ってくれた。
ハヤトはヒミコに感謝した。
「ありがとうございます……隊長」
「ハヤト……」
「おやおや、いきなり隊長と呼ぶのか、規律のことはあるが、敬意がそこにあればいい、今までどおりヒミコさんでもいいんだぞ。和光じゃないが、そのほうが私も自分の年を忘れられていいしな」
「先輩……」
「さて、秋津も疲れているだろう。玉依、こいつを宿舎のほうに連れて行ってやってくれないか?そこにいるんだろう?」
ヒミコがそう言うと、机の影から、ひょっこりとスクナが立ち上がった。
ヒミコとタマコ以外の気配を全く感じていなかったハヤトは、戦慄した。
「はい……秋津君、こっちに……」
「おや?もう大丈夫なのか?」
「私……頑張ります!」
震える手で、ハヤトの手をとる。そして、ハヤトの方を向いて……
「いこっ」
「ああっ、……タマコ姉さん?」
「姉さんもう帰るからー、よろしくお願いね、スクナちゃん」
スクナは赤らんで頷くと、ハヤトの手をひっぱった。
「ちょっ、ああ、わかったよ、ついていくってば」
そして、2人は部屋を出て行った。
急展開の状況に、いろんな期待を膨らませる年長者2人を残して。
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