コンプレックスなブラザー

 信じられないことに、あの男は、ヒミコが激高してから、ずっとハヤト達の会話をうかがっていたらしい。


「仲間割れが始まったかと思ったら、面白くも無い会話をする。そんな出来の悪いラブコメでは読者の心はつかめないぞ」

「ラブコメじゃねー!!!」

「話が難しいだけのお前にだけは言われたくない!!!」


 なぜか必死に反撃するハヤトとシズカだった。


「まあ、いい、ここでお前達は終わるのだからな。レッド・オーシャンは終わったが、ここから私のブルー・オーシャンが始まる。覚悟するがいい」

「何?!」


 ハヤト、シズカ、そしてヒミコ、3人の目が点になった。

 先ほどまでに男が居た場所に、もうその姿はなかったのだ。


「高度な……空間投影だったということか?」

「隊長!青いのが一斉に動き出しました」

「何!?」


 シズカが言うように、青いロボットがその包囲の輪を狭めてきている。


「あ、あの子、トモエちゃんが……」


 銀髪の少女、トモエ、彼女は、その状況にも関わらず、勇敢にもその群れに突貫していった。手に持つ青い剣を右に左に振り回し、ナノマシンにより一体一体の動きを止めてゆく。

 彼女の周りは、そこに彼女がいることがわかるほどの空間ができている。


「やるなあトモエ。ひとりで全部片付ける気か?」


 しかし、彼女の勢いが、シズカの言うそのとおりであったとしても、数の暴力の前には無力であった。


 気がつくと、完全に包囲されており、上下左右から同時に飛びかかられる。


 トモエは跳躍すると、まず上の敵をアメノムラクモで受け止め、それにくるりと飛び乗ると、横ざまに蹴りを入れて、迫ってきていた別のロボットにぶち当てた。


 そこまではよかったが、蹴りの隙をつかれて左手、アメノムラクモのない方向から別のロボットにぶつかられ、さらに、その衝撃で飛ばされた方向にいたロボットに突き飛ばされ、地面に叩きつけられてしまった。

 アメノムラクモが彼女の手を離れて転がる。

 

「トモエーーっ!」


 シズカは叫ぶが、彼女にはどうすることもできない。このままでは、周りのロボットにより、ズタボロにされてしまうに違いないのに。


「サクラ、いけるか?」


 厳しい顔をして、トモエの戦闘状況を見ていたヒミコが、突然サクラの方を向いていった。


「うん、行けるよっ!」


 「待って……」と言いかけたハヤトではあったが、今にもロボットに踏み潰されそうなトモエを見るとその言葉は出せなかった。

 あの子が傷ついて、サクラが傷つかないほうがいいなんていうのは、……それは、エゴだろう。


 そんなことを考えて、難しそうな顔をしているハヤトが心配になったのか、サクラはニコニコしながら言うのだった。


「大丈夫だよ、お兄ちゃん。サクラの活躍見てて!」


 アメノイワフネの扉が開く。

 もう止められない。

 ハヤトは兄として、サクラに言った。


「サクラ、アイツらをぶっ飛ばせ!」

「了解!!」


 サクラは、外に出て少しキョロキョロしていたが、トモエのいる方角を見定めると一直線に走った。その後ろに土埃が立つほどの速さで。


 そして、たどり着くと、その腕を振り抜く。その衝撃はすさまじく、トモエの周りを囲んでいたロボットが一気に吹っ飛び、広い空間ができたのがハヤト達のところからでもわかった。


「あ、あれは……何です?」


 ハヤトは、サクラの両手にある、輝く黄金の手甲に気がついた。


「タケミナカタだ」

「タケミナカタ?」

「衝撃を増幅する、一種のブースターだな。サクラの一撃の威力が何倍にもなる。もちろんそれだけではない、防御する際にもその性能は発揮される。」


 ヒミコが説明している間に、サクラが青ロボの一撃を手甲で苦もなく受け止めた。そしてサクラが腕を振るうと、慣性に身をまかせて飛んでいく。

 確かに攻防一体の、まさに、近接戦闘に特化したサクラのためにあるような武器のようだ。


「心配させてすまなかったな。まあ、私が、何の武器も与えず、サクラを行かせたわけではないと、それをわかってくれると嬉しい」


 そうか、ヒミコはタケミナカタを装備したサクラの強さを信じていたんだ。ハヤトは、兄として恥じ入るしかなかった。

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