エンカウンター
「石凝、もっと近づけるか?ここからでは、状況の詳細がつかめない」
通信用のマイクを片手に、ヒミコが前部の座席から右手の操縦席に向かって叫んだ。
周囲には瓦礫が散乱しており、四方のカメラを確認するが、巻き起こっている砂埃もあいまって、彼女らの探す対象の姿は見えない。
「イエッサー、隊長。アメノイワフネ前進します」
操縦席に座っている石凝シズカは、軽く頷くと、彼女らの搭乗している乗り物、アメノイワフネを、ヒミコが視線を向けているその先に移動させるよう、アクセルを踏んだ。
周囲に砂埃が舞う。
急なスピードアップに、慣性による後ろへの圧力が搭乗者5名に襲いかかるが、誰も微動だにしない……ゴツン、いや、後部座席の1名を除いては。
「秋津ハヤト、舌をかまないように、しっかりアゴをくいしばれ」
気がついたように、ヒミコは、後部座席の彼、したたかに頭を打ったらしく、頭をひたすら抱えているハヤトに声をかけた。
「うう……」
しかし、ハヤトには頷く余裕もなかった。
「大丈夫……か?」
後部座席右隣に座っている銀髪の少女が心配そうにハヤトを見つめている。
もちろん、あの、初対面でいきなり凶器でハヤトを撲殺しかけてきたトモエである。
「お兄ちゃん、頭痛いの?」
左手に座るサクラも心配してくれている。
本来は、両手に花、な状況なのかもしれないが、それどころではない。
「ははは、新入り、トモエと……それにサクラちゃんだっけか? 心配してもらえてよかったな。……おっと、おでましらしいぞ」
軽口をたたいたシズカが真顔になると、ハンドルを切った。
目の前に、彼女らの探している相手が現れたのだ。
「PDP-100……か?」とヒミコがつぶやく。
赤い、見るからに重層な装甲に、数トンの質量でも軽く扱える両腕を有している最新型重作業用ロボット。
「玉依、照合頼む」
ヒミコがマイクにむかって指示すると、数秒後に映像スピーカーから回答があった。
「カメラの映像確認しました。PDP-100、ダーウィン、今回のターゲットです」
「了解した。……さて、どうするか」
「対象、動いていないようです……擱座しているのか……あ!?」
ロボットの頭部にあるセンサーアイが点灯し、こちらをくるりと向いた。そして、「見つけたぞ」といわんばかりの様子で、向かってくる。
「やばっ」とシズカが叫ぶか、叫ばないかの間に、アメノイワフネを発進させる。間一髪、先ほどまで停止していたところに、ロボットが手にしていた瓦礫がぶつかり、砕け散った。
「ひやー、敵さん容赦ないわ」
「石凝、無駄口を叩いている暇はないぞ」
ロボットはなおも迫ってくる。その図体によりスピードはたいしたことがないが、二の腕で投げつけてくる瓦礫がやっかいである。
しかし、操縦席のシズカは、とくに焦るそぶりもなく、アメノイワフネを縦横にあやつり、それをかわしていた。
なるほど、これがあの時、彼女がいればとヒミコが言っていた理由なんだと、ハヤトは得心した。
「余裕っすよ。隊長」
「いや、お前の操縦の腕はいいんだがな……」
「……な、何ーーーーー!!!」
ロボットの襲撃から逃げ回り続けて気がつくと、右も瓦礫、左も瓦礫……。
「ちっくしょー、道がねえ」
「ほら、な」とため息をつくヒミコ……ぽんぽん、とそんな彼女の肩が後方からたたかれる。
「橘?」
肩をたたいた少女、トモエは無言でくいくいっと後部カメラを指さした。
そこには、先ほどから迫ってきていたロボットのセンサーアイがあった。そして、大迫力のそれとともに、ガリガリガリガリ、とアメノイワフネの機体も気になる音をたてている。
「アメノイワフネの装甲は、銃弾くらいは余裕で弾くけど、これはちょっとやばいな」
それまであまり緊張感を感じさせなかったシズカだが、流石に機体を慮ってか、顔を曇らせる。
「やばいっていうか、万事休すじゃないですか!」
状況に耐えかねたハヤトが叫ぶか叫ばないかのうちに、カメラの映像がひとつ砂嵐となり途絶える。機内を重い空気がつつむ。機体がだんだん斜めになっている気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます