そして現実?に戻る

「秋津ハヤト、秋津ハヤト、大丈夫か!」


 声がして目をあけると、そこにはヒミコの心配そうな顔があった。

 周りを軽く見渡すと、どうやら医務室のベッドのようなところに寝かされているらしかった。傍らには、あの白衣の女性もいた。


「ヒ、ミコさん……俺……そうだ、テストは?」


ハヤトは、はっと気がつき、ヒミコに尋ねた。


「テストは中止になった」

「中止?どうしてです?」

「予想外のことが起きた。止めるのが遅くなってすまなかった」

「予想外?」

「ああ、最後の目標であるBASEを制圧した後、本来であれば、マザーコンピュータを復活させ、外のメイドロイドの大群を再度無効化することでクリアーだったのだが、なぜかシナリオが進まずハングアップしてしまった。気づくのに時間がかかってしまって本当に申し訳ない」

「……じゃあ、俺は合格できなかったってことですか?……」

「いや、テストが上手くいかなかったのはこちらの責任だ。それに君は最後まで我々の期待以上の成績だった。だから君は合格だ」

「おおっ!ありがとうございます」

「ふふっ、嬉しそうだな」

「それはそうですよ、これでサクラもタマコ姉さんも……」

「どうした?」

「あのゲーム、いやテストは悪趣味すぎますよ」

「ああ、クリスマスの悲劇をなぞっているからな。嫌な記憶を思い出させてしまったかもしれない。許してくれ」

「違いますよ。俺、ゲームの中とはいえ、サクラを撃ってしまったんです」

「サクラを?君が?そんなところはなかったはずだが」

「あれ?俺の記憶がおかしいのかな……最後のところで、白衣の男がシヴァがどうのっていって、サクラが何かに乗り移られるみたいになって……」

「白衣の男?シヴァ?……ああ、さっき気を失った状態で夢を見てうなされていたようだったからな。まあ、気にしないことだ……」

「あれは夢……だったのか……そのほうが俺いいです。そういうことにしておきます。」

「体の調子はどうだ?」

「まだ少し頭がはっきりしませんが、きっと起きたばかりだからだと思います」

「そうか、だが無理はするな、しばらく休むといい」


 そういうと、ヒミコは白衣の女性に目配せし、2人で医務室から出て行った。そして、廊下を少し歩いてから、彼女は白衣の女性、稲田に小声で話しかける。


「テストの一部が改変されていたとは、流石に言えないな。彼を上手くごまかせて本当によかった。それで、稲田、犯人の当てはついたのか?」

「いいえ、関係者をあたってはいるのですが、誰も知っているものはいませんし、あのテストについて関係するログを解析しても、手がかりは何も」

「そうか……しかし、目的も不明だから、追いづらいな。あのテストを改変したからといって何か利益が得られるとはとても思えん。」

「そうとは限らないですよ。あれは本来GENEのSSランク試験そのものですし。正直、私は、彼があそこまでクリアすることができるとは考えていませんでした」

「GENEのSSランク試験対象者か。対象者は絞り込めそうではあるが、そのクラスになると足をつかむのも容易ではなさそうだ。とにかく、カテゴリー3の案件として調査は続けてくれ」

「はい、ENAの事件ファイルに追加しておきます……何ですか?」


 稲田は、ヒミコが少し笑みをたたえて自分のほうを見ているのに気がついた。


「いや、秋津ハヤトの採用にずっと反対だったお前の口から、彼を褒める発言が出たのが意外だったんでな」

「自分の主観を優先し、実力のあるものを認めないほど、私は融通の聞かない人間ではありません」

「彼の力を認めたと言うことか。そうだな、私も秋津博士の孫ということの可能性に賭けていたが、今回のテストでの状況に応じた柔軟性、的確な判断力は期待以上だった。ただ、まだ少々危なっかしくはある。それにまだ子供だ、本人に向けてうかつに褒めるのは禁物だからな」

「当然です。例のメイドロイドの力のおかげというのもありますし、テストはテスト、これからの戦いの中で彼がどうあるかを見せてもらいます」

「言うまでもない、か」


 ヒミコはそこで会話を区切ると、稲田にいくつか指示を出した。そして彼女と分かれてエレベータに乗るとつぶやくのだった。


「シヴァか……」

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