これはゲーム……のはずだ
「ありがとう。サクラ」
「お兄ちゃん……あきらめないで!きっとお兄ちゃんなら勝てるよ!サクラも……がんばるからっ!」
そこまでいうと、再びサクラは敵とパンチとキックの応酬を開始した。何度も何度もよろめきながら、何度も何度も向かっていく。
どれだけ傷ついても、きっと痛いだろうにそんなことはおくびにも出さない、その姿に、ハヤトは思ったのだ。
「俺、何してるんだ……サクラはあんなにがんばってくれてるじゃないか。なのに、肝心の俺がこんなんじゃ……兄失格だっ!うおおおっ!」
弓をつがえて、次々敵を射る。
ある矢はよけられ、ある矢はたたき落とされ、それでもハヤトは矢を放つのをやめなかった。
「サクラも負けないっ!」とサクラも敵の気を引こうと横から攻撃を繰り返す。
「命中したときに一度はアイツの動きが止まっていた。ということは全く効果が無いわけじゃ無いんだ。それに、効果が無いなら避けたり弾いたりする必要はないはずなんだ……あれ。」
ハヤトはこの時かすかな違和感を感じた。
命中したら動きは止まるから避けるのはわかる。
しかし、なぜ、弾く必要があるのだろうか?
「そうか、わかったぞ!」
「お兄ちゃん?」
「サクラ、アイツの動きをもう一度止めてくれ!頼む!」
「わ、わかった。頑張る!」
サクラは、「んー」と考えると、覚悟を決めた顔をして「うおおおお」と叫びながら敵に向かって突進した。
敵はただならぬその勢いにサクラに向かって構えたまま様子を見ているようだ。
ふっとその視界からサクラの姿が消え、次の瞬間には敵の足下に衝撃が走り、もんどりうって前に倒れる。
そう、サクラは敵メイドロイドにスライディングを決めたのだ。今まで、サクラの攻撃パターンに無いものだったので敵も対応できなかったようだ。
サクラはそのまま敵の背中から羽交い締めにして動けないようにした。
「お兄ちゃん、できたよ!」
「よーし、でかしたぞサクラ!」
「でも、この状態で狙える?大丈夫?」
「大丈夫だ、問題ない。」
ハヤトは弓に矢をつがえた。ターゲットを真っ正面にとらえ、そして、この一撃に全てを込める、その気迫で放った。
矢は狙いを過たずにまっすぐに飛び、そして突き刺さった。
「?」
自分の方でないところから衝撃音がしたのをを不思議に思い、サクラが顔をあげると、あの、正面の壁の四角い箱の真ん中に矢がつきささっていた。
そう、ハヤトはマザーコンピュータに一撃を加えたのだ。
ピーピー鳴っていた警告音も今はもう停止している。サクラは、羽交い締めにしているメイドロイドの力が弱まっていくのを感じた。
「お兄ちゃん……やったの?」
「ああ。今度こそ俺たちの勝ちのはずだ。不思議に思ったんだよ、アイツ俺の矢なんて全部よければいいのに弾いてた。よくよく考えてみるとそれはマザーコンピュータのほうに飛んでいく矢で、アイツはそれを庇ってたんだ。マザーコンピュータのほうに飛んで困るっていうことは、そういうことだろう。」
もう終わりであることを確信しているからかハヤトが珍しく雄弁に語るその間に、サクラの腕の中でメイドロイドは動きを止めていた。
「やったね!お兄ちゃん!」
「俺だけじゃ無理だった。サクラが頑張ってくれたおかげさ。無理させてごめんな、サクラ……!」
サクラとハヤトは抱き合い、喜びを分かち合った。そのときだった。
「おめでとう。」
聞いたことの無い男の声で祝福の言葉が聞こえた。
とっさにハヤトは声がしたほうに身構える。
そこにはいつのまにか白衣を着た細身の男性が一人いた。外見は20代後半といったところか。身長はハヤトよりは高いがそれほど高いというほどでもなく、眼鏡をかけたその顔には笑みをたたえている。優しそうな風体の男だった。
「だが、勘違いしてもらっては困るな。今夜始まった裁きはまだ続くのだから。」
「裁き?」
「そう、世界は裁かれるのだ、大いなる力によって。」
おそらく、このゲームならぬテストの世界上のキャラクターなのだろうが、不思議とその言葉に重みがあった。
しかし、ハヤトは、彼の言うことが気に入らなかった。
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