機械を叩いても直らないぞ、壊れる!
ハヤトは、サクラの手から下ろしてもらうと、手持ちの端末をメインコンピュータに接続し、先ほど生成したワクチンを適用しようとした。
しかし、エラーになって接続できない。
「キャンセルされた。これ、もしかして、コンピュータ自体がウイルスに犯されてるんじゃ……」
そうであれば合点がゆく。
メイドロイドがあのように大群になっているのは、それを制御しているこのコンピュータがウイルスに犯されていて、メイドロイドにウイルスを拡散し続けているからだろう。
「どうすれば……」
後ろの扉をドンドンと叩く音が聞こえる。
既にいくらかへこんでいるから、あまり長時間はもちそうにない。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「このコンピュータに接続ができなくてどうしようもないんだ。そうだ、サクラ。サクラならなんとかできるかな?」
現実では、GENEの
「やってみるね」
サクラがあのときのように手をかざす。
しかし、その手が輝くことはなかった。何度もやってみるが何も起きない。サクラは泣きそうな顔をしてハヤトの方を見る。
「ごめんね……だめみたい」
「やっぱりだめか、これは俺のテストだもんな」
おそらくこのゲーム、もといテスト内では、サクラの力は使えないようになっているのだろう。
「しかし、弱ったな。これじゃあ、どうにもできない」
バリバリッと後ろの扉方で恐ろしく響いた音がしたので見ると、扉の上半分がこちら側に折れ曲がり、メイドロイドの上半身が除いている。
そして、そのメイドロイドの上から別のメイドロイドが入ってこようとしている。
ハヤトは昔タマコと見に行ったホラー映画を思い出した。
「サクラ!」
「まかせて!」
サクラは跳躍してドロップキックをそのメイドロイドの顔面にキメた。
その向こう側に何体か重なっていたらしく、ドサッドドドッと低い音がした。
しかし、やつらのこちらへの敵意はいささかも衰えることはないようで、別のメイドロイドが次から次へと押し寄せてきて、とうとう部屋の中への侵入を許してしまった。
サクラはというと、ハヤトの方に一体も寄せ付けないように立ち回っているが、何しろ数が多い、次第に防戦一方になり、近寄ってくるものに対応するのが精一杯になってきた。
「くそう、どうすれば……。あれでもない、これでもない」
ハヤトは、表示されているコマンドの一覧をスクロールさせて有効そうなものを探したが、一向に見つからなかった。
ただ時間だけが過ぎてゆく、自分は何と無力なのか、サクラはあんなに頑張ってくれているのに……。
「お兄ちゃんよけてっ!」
「えっ!?」
サクラの声に、危険を察知して後ずさる。
その一瞬が明暗を分けた。先ほどまでハヤトがいた位置をサクラにふっとばされたらしいメイドロイドが飛んでゆく、そして、メインコンピュータにぶつかった。
そのとたんピーッという音がして、メインコンピュータの稼働を表すシグナルが消えた。
メイドロイドの当たり所が悪かったのであろう。メインコンピュータの電源が切れたと思われる。
「なんてことを……サクラ……」
「えへへ、ごめんね、お兄ちゃん」
「あれ?」
「?」
気がつくと周囲が静かになっている。周りのメイドロイドは時計が止まったかのように、その動きを止めていた。
「そうか、ここのメイドロイドは、メインコンピュータが暴走させていたのか。でかしたぞ、サクラ」
「えへへ、お兄ちゃんに褒められたー」
「さて、こうしちゃいられないな。ここからは俺の番だ」
メインコンピュータを起動させる。
そのままではウイルスの影響が考えられたので、管理モードと表示のあったモードで起動させたのだが、正解だったようだ。
手持ちの端末も無事に接続できたので、すかさず病院で生成したワクチンプログラムを適用した。
「あれ?これじゃだめなのか?」
端末には、効果無しと出ている。
ハヤトは仕方なく、再度、ここでもウイルスの解析から行うことにした。今度は成功したようだ。
最初の地図に戻ると2つめのCLEARの文字が表示される。
「お兄ちゃん、やったね!」
「タイプが違ったってことなんだろうな。おっと、まごまごしている場合じゃないか」
変電所ではかなりの時間をとられた。当然であるが他のところの赤い人型の表示が増えている。各施設に表示されている数字も半分近くになりつつあった。
「サクラ、急いで、次にいくぞ」
「了解!」
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