ヒーローじゃ無くヒロインだった

 瞬く間に、ロビーの暴走メイドロイドは一層され、そこに立っているのはハヤトとサクラのみになった。

 サクラは右手にVの字を作って掲げ、ビシッとポーズを決めている。


「お兄ちゃん?」

「ああ、そうだ」


 サクラに見とれている場合ではなかった。

 ハヤトは、倒れているメイドロイドの1体に所持している端末回線をつなぐと、メイドロイドのウイルスサンプルを採取した。


「えーっとこのままだと解析できないから……サクラ、この病院のメインコンピュータのところにいこう。ああ、まだこの病院に数体いるみたいだから、倒すのを優先してくれ」

「わかったよ、お兄ちゃん」


 病院のマップを呼び出すと、メインコンピュータの位置と暴走メイドロイドの位置が表示された。


 テロリストのコンピュータウイルスは感染して拡散するという、ならばできる限り倒してすすまねばなるまい。


 それから数分とかからず、病院のメイドロイドを一掃し、2人は病院のメインコンピュータの前にたどり着いた。


 ハヤトは、先ほどのウイルスサンプルの入った端末をそれに繋げて、BASEのマザーコンピュータと交信し、ウイルス解析を開始する。解析中の表示になった。


「これでいいのか……?」


 しばらくたつと、完了と表示されたので、ハヤトは続いてワクチン生成を選んだ。これも、さほど時間がかからずに終わった。


「次は、そうか、この病院を解放しないとだな」


 ハヤトは病院のメインコンピュータおよび未感染のメイドロイドにワクチンプログラムを展開した。これで、病院のエリア内はもうコンピュータウイルスに犯されることはないだろう。


 すると、それまでの病院の表示が、最初の地図の表示に戻り、病院のマークにCLEARと表示された。


「意外に簡単だな」


 そのとき、ハヤトは自分の成功に浸っていた、しかし次の瞬間、その余裕は地にたたき落とされる。

 あきらかに先ほどよりも他の施設のメイドロイドの赤い表示が増えていたのだ。


「これは、余裕ぶってる場合じゃないな。サクラ、次にいくぞ」

「了解!」


 ハヤトは、ライフラインの重要性から2カ所目に変電所を選んだ。

 最初全体が暗くなったのは都市全体が停電になったということだから、都市の電力コントロールを司るここはテロリストの手に落ちている可能性が高い。

 この街の状態で、テロリストによる2度目の停電は考えたくなかったのだ。


「うわあ」

「お兄ちゃん、こ、これ……」


 到着した2人が見たのは、メイドロイドの大群だった。

 しかし、なんとかして制圧しなければならない。ハヤトは、サクラのほうを振り向いて確認するように言った。


「サクラ……いけるか?」

「うーん数多いけどがんばってみる」


 どこまでもマイペースなサクラはハヤトにそう言うと、ばびゅーんとメイドロイドの群れにつっこんでいった。

 そして信じられないスピードで縦横無尽に暴れ回る。

 しかし、その勢いにも関わらず、なかなかメイドロイドの数は減ったように見えなかった。


「サクラ、拉致があかない、とにかく突破してここのメインコンピュータのところへいこう」

「よーし、お兄ちゃん、サクラにまかせて!」


 そういうとサクラはハヤトの背中と太ももに手を回し、自分の前に持ち上げた。俗にいうお姫様だっこの状態である。


「サクラ……さん、ちょっとこれは……というかかなり恥ずかしいッ」

「いっくよー」


 若干というかかなり照れ気味のハヤトの言うことはサクラの耳には届かなかったらしい。

 そのままおそろしいスピードでメイドロイドを突き飛ばしてダッシュし、気がつくと、コンピュータの前に到着していた。

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