第5話 ウイルスバスターズ

ルールの確認は大事

 エレベータは、地下5階まであった。

 その最下層でエレベータは止まり、またヒミコについて廊下をしばらく歩いた。そしてその部屋についた。


「ここは……」


 正面に大きなスクリーンがあり、その前に座席がいくつかある。

 部屋の片隅の端末前に、白衣の女性が一人座っていた。ハヤト達が入ってきたのに気づくと、立ち上がり、ヒミコに向かって言った。


「隊長、準備はできています」

稲田いなだありがとう」


 稲田と呼ばれたその女性は、髪の色はブロンドで、邪魔にならないようにだろう、後ろでまとめていた。眼鏡をかけていて、その流れるような所作に無駄は無い。


「でも、本当にやるんですか?」


 彼女は、ヒミコの方を向いたままで、ハヤトを横目にじろりと見た。ハヤトは背筋を何かが伝うのを感じた。


「ああ、今から始める」

 

 そう言うと、ヒミコがハヤトの手にかかっていた手錠をといた。

 そして、何やら床に円形の模様があるその真ん中に案内された。あの女性は端末の画面で恐ろしい早さ手さばきで、何か操作をしている。


「ここは、シミュレーションルームだ」

「シミュレーションルーム?」

「ここで、テストをする。言い忘れていたが、このテストに合格しなければ、君のこの選択肢は無くなる。君は働くといったが、我々としては力の無いものでは困るからな。悪く思わないでくれ」

「俺は逃げませんよ。やります」


 あいかわらずの眼鏡の女性の冷たい視線を感じつつも、ハヤトはせいいっぱいヒミコに向かって強がって見せた。


「その意気だ。よし、ではルールを説明する」


 スクリーンに何かが表示される。


 どこかの街の地図のようである。港、タワー、病院、オフィスビル、高速道路など様々な施設が表示され、最後に真ん中にはBASEと書かれた施設が表示された。

 各施設には100という数字が表示されている。


「ここはコンピュータネットワークで全ての施設がつながった街だ」


 ヒミコがさっきの白衣の女性に向かって頷くと、女性が端末を操作した。


 先ほどの施設のところにそれぞれコンピュータ端末らしき形が表示される。そして、その周りに、ややデフォルメされた人型がいくつか表示された。


「当然、街の施設にはコンピュータ端末があり、メイドロイドも配置されている。各施設のコンピュータ端末、メイドロイドはネットワークを経由しBASEのマザーコンピュータにつながり稼働している。まあ、蜘蛛の巣のようにネットワークで全部つながっているんだ。ここまではいいかな?」


 ハヤトは頷いた。


「このように街はネットワークにより平和で豊かな生活が営まれていたが、突然テロの標的となってしまった」


 ビーという音とともに、病院、遊園地など各施設の周りの人型が数体赤くなった。


 最初は数体であったそれは、徐々に数を増やしてゆき、施設の周りの全てが赤くなり、シンボルの数字が0になると施設が破壊されたイメージに変わった。


 そして最後、真ん中のBASEまでその状態となり、画面にはGAME OVERの文字が表示された。


「テロリストにより、新型のコンピュータウイルスがネットワークに解き放たれた。このウイルスは、ネットワークを通して拡散し、コンピュータだけでなく、メイドロイドにも感染する。メイドロイドはコンピュータウイルスに犯されると、暴走し、放っておけばこうなってしまう」


 ピッと音がすると、画面の地図が最初の状態に戻った。


「だいたい想像がつくと思うが、君はこのコンピュータウイルスによるサイバーテロを止めなければならない。ではどうするかだが」


 BASEと書かれた真ん中にCOMMANDと表示された。


 その下には回線切断、ウイルス解析、ワクチン実行などの文字、これはおそらく実行できる命令だろう。

 色がついているものとついていないものがあるようだ。


「君は、そこに表示されている命令を各施設の端末、BASEのマザーコンピュータ、メイドロイドに実行することができる。新型ウイルスの解析、ワクチンプログラムの生成、回線切断によるウイルス拡散防止など見たとおり様々あるが、それぞれの命令には実行条件があるので、状況により利用できるものだけが色がついた状態で表示される」


 なるほど、だからウイルス解析、ワクチン生成はまだ色がついていないのか。おそらく最初はウイルスの確認が必要となるのだろう。


「テストの性質上、これ以上の詳細は説明はしない。君は状況に応じて判断し、実行できる命令を利用して上手くウイルスを駆除してくれ。しかし、それだけでは、メイドロイドの都市破壊活動を止めるのには限界がある。そこでだ」


 真ん中に大きく人型が表示された。それは単なる人型では無かった。どこかで見たことがある顔、そして、こちらに手を振っている。

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