判決は下る
「それから、2人で動かないサクラをあの箱の中に入れて、祖父の説明通りに箱を閉じて、一晩あけたら、サクラが朝もうリビングにいたんですよ。あのときは本当にびっくりしました」
「……」
「ヒミコさん?」
空間を占める静寂。
自分の語りについて、応答が何もないので、ハヤトはヒミコに呼びかける。ヒミコは憮然とした表情で、口を開いた。
「ちょっといいかな?」
「何でしょう?」
「何度も聞くようで申し訳ないけれど、博士に説明を受けるまでに、サクラがメイドロイドかもしれないって考えたことはなかったのか?」
「少し変だなと思いましたが、力が強かったり、ネットワークをあれこれできるのは、ほら超能力とか、漫画だとよくあるじゃないですか」
ニコニコしながら語るハヤトに、まったく裏表が無く、本心のまま語っているのだと、ヒミコは認めざるを得なかった。
「では聞き方を変えるが、博士からメイドロイドだと説明を受けたときに、君のサクラに対する見方はやっぱり変わらなかったのか?」
「そのときはもう一緒にいる生活が普通になってましたから。ご飯を食べさせるべきかどうか、ぐらいですね、悩んだのは。だってそうでしょ、全然栄養にならないわけですから、もったいない、でもこれがとってもおいしそうに食べるんですよ、何でも。最終的にはタマコ姉さ、叔母と相談して今まで通りにということで」
「……そうではなくて、それだけの力、物理的な力だけではなく、コンピュータ及びネットワークを制御する力が危険なものだとは思わなかったのか?」
「思いません」
「即答するんだな。その根拠は?」
「サクラが俺の妹だからです」
ふーっ、とヒミコが大きくため息をつき、手にもったペンをくるくるまわす。
そして、ペンの回転をピタッと止めると、その先をハヤトの方に向けた。
誤解の無いように言うが、ハヤトと彼女の間にはテーブルがあり、距離は離れているため、危険は無い。
しかし、ハヤトは自分に向けられたペンの先がまるで自分に食い込んでくるかのような錯覚に陥ったのも事実だった。
「サクラは君の命令は絶対にきくのか?」
「命令はしません。でも、今まで俺の言うことを聞かなかったことがないのはそのとおりです」
「君がサクラに抱いている信頼感はわかった」
一旦、言葉を区切ると、ヒミコはこう続けた。
「しかし、メイドロイドを、メイドロイドであると知りながら違法に所持していたことには変わりはない」
ハヤトが力なく、下を向いた。返す言葉は無い。
クリスマスの悲劇以後、個人がメイドロイドを所持するためには、政府機関に届け出て許可を受けることが必要になっている。
ヒミコはそのことを言っていた。
小学生だって知っていることだ、知らぬ存ぜぬでは通じない。
「だが、実はそれだけであれば、君をこのように取り調べすることは無いんだ」
そういえばそうだ。
確かに単にメイドロイドを家に所持していただけであるのに、まるで銃や薬物を所持していたかのような扱いを受けている。
クリスマスの悲劇以降は厳しくなったとはいえ、メイドロイドのシステムはそもそも政府の管理下にあるのだ。ここまでする必要はない。サクラを取り上げてしまえばすむ話だ。
ハヤトはヒミコに言われて初めてそのことに思い当たった。だが、だとすると、逆に不可解である。ハヤトはヒミコに尋ねずにはいられなかった。
「どういうことです?」
「ここまでの話で、君がいかにわかってないかは理解したので、もう言ってしまうが、サクラは普通のメイドロイドではない。違法メイドロイドだ」
「違法メイドロイド?サクラが?」
「腑に落ちないという顔をしているが、考えてもみろ、普通のメイドロイドは、銃に撃たれて無事だったり、GENEを好き勝手に制御できたりはしない!」
ハヤトもまるっきりの無能というわけではないから、うっすらサクラが何か普通でないものをもっている気はしていた。
してはいたのが、やはり、サクラを最愛の妹と認識しているハヤトとしては、そこまで気にしておらず、ヒミコのこの指摘で改めて考えて納得したというのは無理もなかった。
「納得したようだな。さて、今日この取り調べで君の罪は、メイドロイドの違法所持、となる。未成年であり、元々君の祖父の所持であること、を考慮すると、そこまで重くはならないから、まあ悪くても少年院というところだな」
「……」
「しかし、当然だが、サクラは国の所有となる。もう会うことはないだろう。それから君の叔母は、残念だが、君ほどは減刑されず、今少し重い罪になる」
「そ、そんな……」
ハヤトは自分の無力さを嘆いた。
「だから君に選択肢を与えよう」
「選択肢?」
「罪を不問にする代わりに働いてもらう」
「働く?働けば許してもらえるんですか?何でもします!」
ハヤトは必死だった。サクラとタマコの未来が自分の肩にかかっているのだ。
「まあ待て、何をするのかくらいは聞かないのか?」
「必要ありません」
「後悔するかもしれないぞ?」
「そうしなければ、サクラもタマコ姉さんもつらい目にあうんでしょ。俺やります」
「……まあ、そういうとは思っていたよ。では、ついて来い」
ヒミコが、もう一人いた警護らしき男性に目配せすると、男性は部屋の扉をあけてくれた。
そして、ハヤトは、ヒミコに導かれるままに廊下に出ると、しばらく歩かされ、エレベータのところに着くと、それに乗れと言われた。
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