止まってしまった
さて、家につき自宅扉のボタンを押すと、当然であるが、その先には人影があった。
「ハー、ヤーー、トーーーーー」
「ひいっ、タマコ姉さん……」
「来たら、サクラもいないし、姉さんとっても心配したのよ。わかってる?」
「はい……ごめんなさい」
「まあ、よろしい。あれ、サクラの服、かなり汚れてるみたいだけど、何かあったの?」
やはり、タマコの目はごまかせないようだ。
というか彼女とハヤトは運命共同体なのだから、そもそもそういう考えはいけない。ハヤトは、帰宅してからこれまでのことをタマコに話して聞かせた。
「コンビニ行っちゃ駄目って言ったじゃない」
「姉さん本当にごめん」
「それに、いくら待たせとくのがかわいそうだからって、サクラを連れ出すなんて……」
そこまで言うと、ハヤトの顔をじいっと見た。そして難しい顔をして続けた。
「まあ、そういうところがハヤトのいいところでもあるから、難しいんだけどね、お姉さんとしては」
「姉さん……」
「聞いた分だと、そこまでやってれば今頃犯人は警察に捕まってると思うし、サクラの力ならきっと記録も残らないでしょうね。よし、今回だけはオーケー。でも、もう約束やぶるのはだめだからね」
「……」
「だから、サクラを外に連れて行く予定をちゃんと立てること。行き先もお姉さんにしっかり言うこと、わかった」
「……ありがとう、姉さん」
「サクラも……あれ?」
2人が想定している位置にサクラがいなかった。
さっきまでは、コンビニでの鬱憤を晴らすように、タマコが持ってきてくれたお菓子を口いっぱいにほうばっていたのに。
視線を下に向けるとサクラは、リビングの床に横たわっていた。
「サクラ、寝てるのか?」
ハヤトが顔をのぞくと、いつもと違い目が見開かれたままだった。
「サクラ!」呼びかけても、目の前で手を振ってみても返事をしない。サクラと出会ってからこの方遭遇したことの無い事態に、ハヤトは言葉を失った。
こういうときに頼りになるのはやはりタマコだった。
ハヤトの背中を軽くたたき、気合いを入れると、ハヤトにサクラを彼女の寝室まで運ばせた。そして、「女の子がこういうとき顔を見られるのは嫌でしょ」とタマコの配慮で、壁側に向けてベッドの上に横たわらせる。
「サクラ、どうしちゃったのかしらねえ」
「やっぱり銃で撃たれた時にどこか悪いところにあたってて……俺が俺がしっかりしてれば……」
「ハヤト……」
ハヤトの頬を何かがつたってゆく、タマコはそれを手でふくと、ハヤトの肩を抱いた。
「ハヤトは悪くない。悪くないから」
言い聞かせるように2度繰り返す。タマコは、普段サクラにしているよりも優しくハヤトの頭をなでた。その時だった。
ピーピーピーピー。
突如始まった異音に2人はその源を探した。それはどうやら信じられないことにサクラの方、サクラそのものから発せられているようだった。
「サクラ……」
「まって、ハヤト、あれは……」
壁に何かが浮かんでいる。
ぼおっとした像が段々鮮明になっていく。やや無造作な白髪に、丸眼鏡……。
「おじいちゃん」
「お父さん」
2人は同時に叫んでいた。
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