成敗

「お兄ちゃん……大丈夫?」


 手にたくさんお菓子を抱えている。

 うん、選べなかったのだろう。

 最終的な選択は、全部買う。

 確かに間違っていない。

 間違っていない?


 でもちょっと待て、今はそれどころではない。


「女の子もいるのか、人は殺したくないんだがなあ。見られちまったからにはしかたないか」


 男が手に持つ銃をいきなりサクラに向け、バンッと音が鳴る。


 その台詞から音が鳴るまでの時間はとても短く、ハヤトは反応できない。


 衝撃でサクラがその手に抱えていたお菓子の山がはじけ飛ぶのを見ていることしかできなかった。


 サクラの体がぐらっと傾く。


「サクラっ!」

「安心しろ、次はお前だ……何?」


 男は視界の片隅に異変を感じた。


 通常、銃で撃たれれば、傷にもよるが、人はそのまま立ってなどいられない、いられないはずだ。


 しかし、先ほど明らかに手応えがあったはずで、もう地面に横たわってもいいはずの、はずの女の子、サクラがまだそこに立ったままでいた。


 しかも、何かしきりにブツブツ言っている。


「お菓子……」

「何だと?」

「お菓子……」

「……」


 男は無言で今度は彼女の頭を狙ってもう一度銃の引き金を弾いた。

 バンッという先ほどと同じ銃声、命中、しかし今度は、直後にカチッと音がして、弾がコンビニの床にドリブルした。


「な、なんだコイツ」

「お菓子ィィィィィーーーーーーー!!!」


 男は次の瞬間、息ができなかった。


 みぞおちに女の子の手がめりこむ。

 そして、体が軽くなり、0コンマ何秒後かにはカウンターの壁に叩きつけられていた。

 男の記憶はそこまでだっただろう。


「サ、サクラ……」


 ようやく力の抜けた状態から解放されて立ち上がったハヤトは、サクラのもとに駆け寄った。


「サクラ、怪我は無いか?」


 男に銃で撃たれたと思われるお腹と頭のあたりを見てみるが、怪我をしている様子はなかった。ハヤトはほっとした。


「お兄ちゃん、お菓子が……」

「よしよし、また別のところで買ってあげるから、……そうだサクラ」


 少し悩んだが、この際やむを得ないとハヤトは考えた。このコンビニでのサクラに関する記録は残してはならないと。


「ここのお店にあるカメラの記録、俺たちが映っている分を消すことってできるか?」

「消せばいいの?」


 こともなげにサクラはハヤトにきく。


「ああ、できれば、俺達が帰るまで映らないように……そうだな、後30分くらいはカメラに何も映らないようにもしておいてくれ。それから、サクラがやったってことわからないようにも……できるか?」


 ハヤトが注文を加えると、彼女は「うんっ」と軽く頷き、カウンターのところに行った。


 破壊されているアンドロイドを見て、その姿を見かねたのか一瞬立ち止まるが、そのままカウンターの認証ログインエリアに手をかざすと、あの時のように手が光はじめる。


「……接続完了……プロテクト解除……ファイルスキャン……編集完了……コマンド発行……ロギングクリアー……回線切断……」


 光が消える。サクラはトコトコとハヤトのところに駆け寄ってきた。


「お兄ちゃん、できたよ」

「よしよし、上出来だ。ちょっと待ってろよ」


 ハヤトは念のため、コンビニにあった荷造り用の紐で、気を失っている男の両手、両足を厳重に縛った。


 そして、これもお店にあったペンと紙を使って「私が犯人です」と書いて、男の背中に張っておく。

 よしよし、ここまでやっておけば、警察が後はなんとかしてくれるだろうことは疑いない。


「よし、じゃあとっとと帰ろう」

「とっととー」


 長いは無用である。

 ハヤトは、何だか自分たちのほうが悪者のようだな、と思いながら、サクラの手をとり、一目散にかけだした。


 帰り道どこをどう通ったかは、覚えていない。

 サクラに記録を消去させてバレることは無いとは思いつつも、きっと、必死だったのだと思う。家につくころには、空が暗かったことしか覚えていないのだから。

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