コンビニエンス・ストア

「さて、じゃあ俺たちも帰るかな。そうだ、帰る前にコンビニでも寄って何か買っていこうか」

「コンビニー」


 サクラの機嫌はすっかりよくなっていた。

 ハヤトはそれを確認すると、公園の近くにあるコンビニを目指して2人で歩いた。


 コンビニとは、もちろんコンビニエンスストアの略称である。


 メイドロイドが生まれる遙か前からある、この24時間開いている身近な店舗の形態には、変わらぬ一定の需要があり、街の中におおよそ一定の間隔でお店が存在する状態なのはずっと変わらない。


 もっとも、メイドロイド店員による24時間スーパーなるものが開店した時には、コンビニの存続が危ぶまれた。


 しかし、夜間は人は基本的に寝るものであり、そのため想定するほど売り上げは無く、コストが割に合わないと、どこのスーパーもやめてしまい、結局夜は今でもコンビニの天下となっている。


 店舗を維持するための店員の確保が難しい時代もあったというが、現在ではメイドロイドによりその問題も無くなっている。


「いらっしゃいませー」


 コンビニに入ると、カウンターのメイドロイドからお決まりの言葉をかけられた。


 ハヤトはモールの時のようなことがないように、入り口からずっと、堅くサクラの手を握っていた。

 意識しているわけではないが、ハヤトには女の子の手をここまで握った経験はそうそう無く、やや緊張気味ではあった。そのため、店内に、どうやら自分達以外の人影はいないことにほっとしていた。


 サクラはというと、ハヤトの様子にはとくに気にせずにやはりここでも全て初めて見るかのようにキョロキョロしている。


「ここならそんなに値段高いものないから、欲しいものがあったら買ってやれるぞ」

「ほんとー?」


 ハヤトが握った手を離すと、サクラは嬉しそうに、ガム、飴、チョコレートなど両手にとっては、じいっと見てどれにするか悩んでもどし、を繰り返した。


 「たくさん買うことになりそうだな」と考え、観念してハヤトはその隙に入り口にかごをとりに戻りにいった。


 丁度そのとき、入り口から中年くらいの男が入ってくるのに出くわしたので何とは無しにハヤトは軽く会釈をしたが、その直後、違和感に二度見してしまった。

 マスクにサングラスに帽子、とんでもない怪しい服装だったからだ。


 なんとなく、いけない、と目をそらす。男はじろりとハヤトを見たように感じられたが、幸運なことにすっと視線をそらしてカウンターのほうに向かってくれた。


 ハヤトはかごをとると、サクラのところに戻った。サクラはしゃがんだまま、まだあれでもない、これでもないと商品を比べ続けていた。


「ほら、このかごに入れて。5つまでならいいから」


 それを言ったか言わないかのうちに、カウンターのほうから、バンッという大きな音がした。


「いったい何が……、!」


 視線をカウンターに向けると、メイドロイドが頭から煙を吹いていた。制御を失ったせいか、両手をあげたり下げたりを繰り返している。

 その手前では、さっきの男性がこちらに背を向けた状態で銃のようなものを構えていた。


 ハヤトは、昨日の夜、タマコが帰る前に言っていたことを思い出した。


「そうそう、ハヤト、最近コンビニ強盗が流行ってるらしいから、コンビニにはいかないように」

「コンビニ強盗?」

「コンビニのメイドロイドが銃か何かで破壊されてお店にある現金が盗まれた、っていう事件が何件か連続で起きててね。まだ犯人が捕まってないって」

「このご時世監視カメラとかメイドロイドの記録ですぐに捕まりそうなもんなのに」

「んー何だったかな、その度に映っている人物が別人だとかで犯人の特定ができないとかどうとか?」


 ハヤトは今目の前で起きている状況が聞いていたこの内容とまさに一致することを確認し震えた。

 逃げなければ、とその思いだけが頭をめぐり、サクラのほうにもどるために一歩下がった。しかし、運の悪いことに、商品棚の何かにひっかかってしまい、商品がいくつか転がり落ちる。


「誰かいるのかっ!」


 物音がした方に振り向いた中年男性は、ハヤトの姿を認めると、銃を手に近づいてきた。


「何だ、お前、帰ったんじゃ無かったのか」

「……」


 どうやら相手は、さっきかごをとりにいったことを店を出て行ったのだと勘違いしたらしかった。


 ハヤトはこの場を離れるべくかけだそうとしたが、焦ったせいか足が上手く動かず、からんだあげくに転んでしまった。

 懸命に立ち上がろうとする、その彼の目の前に、二本の足が……。

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