NG

「彼女?」

「この子だよ。決まってんだろ。可愛いじゃんか」


 サクラのことを勘違いしているらしい。

 困った。


 ミコトは悪いやつではないが、わりと口は軽い方だ。

 クラスメートに変な噂をされても困る。


 これ以上変な誤解を生まないように何と言ったものかと、その瞬間ハヤトはあれこれ考えはしたが、相手は他でもない親友、ミコトである。ここは正攻法でいくことにした。


「ああ、勘違いするな。この子は妹だよ」

「妹!?」

「事情で今まで別々に暮らしてたんだ。……ほら、ちょっと体が弱くって」

「なるほど」


 ちょっと苦しいかと思ったが、すんなり受け入れてくれた。しかし油断はするものではなかった。


「妹……ってことは俺にもチャンスがあるってことだな」

「な、何だとミコト?」


 髪をさらっと書き上げると、おそらく自分の最も格好いいと考えている角度でサクラの真っ正面に立ったミコト。その挙動を関知したサクラのアイスクリームをほうばる手が一瞬止まる。


「お嬢さん、俺は内海ミコトって言います。お名前は?」

「……サクラ」

「サクラか、いい名前だ」

「ありが、と……?」

「俺、君のお兄さんの友達なんだ」

「友達?」

「そうそう友達、マブダチといってもいい。嘘じゃ無い。だからそんなに警戒しないでほしい」

「おー、お兄ちゃんの友達!」


 サクラは最初こそ目をぱちくりしていた感じであったが、ミコトの話というかその柔らかすぎる物腰に自然と警戒を解いていった、ように見えた。


「ちょっと待てーい!!!」


 ハヤトは思わず割り込んだ。そしてサクラをガバッと両手で抱くと、ミコトから遠ざける。


「何だよ、今いいところなのに。ここからが肝心だぞ、女の子との関係を深めるのは」

「深めんでいい!サクラに……い、妹に手を出すなー」

「ったく、過保護な兄貴だな」

「そう言う問題じゃないぞ」


 ハヤトとミコトが正面に向き合う。目と目が合う。しかし、そこに火花が散ることはなかった。


「ハハハ、悪かったよ。学校から即帰ったから心配してたんだけど、問題ないな」

「お前そう言ってごまかしたけど、今本気だったろ」

「当然だ、俺はいつも女の子には本気だからな」

「……とりあれず座れよ」


 ハヤトは、サクラをベンチの左側に、ミコトを右側に座らせると、その間に座った。


「これ、まだ警戒してる?」

「当たり前だろ」

「仕方ないか、これも兄の愛ってやつだ。サクラちゃん、大事にされてよかったな」


 サクラはニコニコしている。大事にされて、のフレーズが嬉しかったのか?


「しかし可愛い子だな」

「まだ言ってるのかよ」

「なんていうか、まるでお人形さんみたいだ」

「人形……嫌……」

「えっ?サクラちゃん?」

「サクラ?」

「人形、嫌ーーーーー!!!!」


 ミコトの何気ない言葉、そこには全く悪意は無かったが、サクラは明らかにその、「人形」と言う言葉に反応し、叫ぶと、ハヤトの腕をつかんで激しく震えだした。


「サクラ?」

「悪かった、サクラちゃん、もう言わないから」

「すまん、ミコト、俺も気を遣わないといけなかったらしい」

「気にするな、誰しもNGワードってのはあるさ」


 ミコトがとても心配そうな顔をしている。彼は何だかんだでいいやつなのだ。

 そして、ハヤトに申し訳なくなったのか、サクラが落ち着いたのを確認すると、再度2人に詫びを入れて、「またな」と去っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る