ああでもない、こうでもない
「……あれ、どうしたの?」
サクラのその声に応えるものは誰もいなかった。
その一部始終を目の当たりにしていたハヤトもタマコも声をあげることができないでいた。
さっきまでは確かにUNKNOWNのエラー表示だったのだ。
それが今見ると秋津サクラと書いてある。
これが意味することは……2人とも恐ろしかったのだ、その事実を認めることが、そしてサクラに対しても言い知れぬ恐怖のようなものを感じてしまったというのも完全に否定はできない。
こうした場合、人は他の人に状況の確認を求めるものだ。どちらからともなく2人は顔を見合わせた。
口を開いたのは例によってタマコからだった。
「ハヤトこれって……」
「うん、姉さん……今、目の前で、サクラが、変えたんだ」
「実は、さっきはネットワークの接続が上手く出来て無くて、今度は成功っていうことはないの?」
ハヤトは、自分に知識が無い分野であっても、客観的論理的に推論・思考することができるタマコに心の中で人生何度目かの賛辞を送った。
ざっくばらんのようで、実は鋭い、あの祖父にしてこの娘なのかもしれない。
情報工学系の知識のある自分としては、その考えを否定するのが若干ためらわれた程だった。
「姉さん、残念だけどそれはないよ。」
「どうして?」
「ネットワーク接続が問題だとUNKNOWNのエラーにはならないんだよ。」
「どうなるの?」
「『接続できなかった』って別のエラーになる。表示されてたUNKNOWNのエラーは、GENEのマザーデータベースに対象者の
そうなのだ、全く不可解の状況ではあるが、エラーから言えることはそうなのだ。
「そうかー、それは確かに残念。でもさすが情報工学系、よく知ってる。姉さん一本とられたわ」
「アハハ、これ、でも高校入った初めの頃にならう基本なんだよ」
「せっかくお姉ちゃんが褒めてるんだから、そんなこと言わずに子供らしく喜んでほしいのに」
「ごめん、ごめん」
「じゃあ、サクラの
タマコは、悔しかったのか、再度別の角度からの考えを述べた。
「それもUNKNOWNのエラーにはならないんだよ。姉さん風に言うと『対象の
「わかりやすい解説ありがと。実は細かいやつだなーGENE。……でもね、だとすると、言いにくいんだけど、やっぱり……」
途切れ途切れつぶやくタマコ。
ここにきて、ハヤトは、タマコがサクラのことを悪者にしたくなくて頑張って他の可能性を提示していることに気がついたのだった。
途切れ途切れの、その間にはタマコのためらいがあった。
ハヤトはタマコの優しさを思いつつ、決意して、自分及びタマコの考えをまとめた。
「うん、さっき言ったとおり、サクラが書き換えた、としか思えない」
サクラはと見ると、2人が難しそうな顔をして話している有様を、不思議そうな顔をして見ている。タマコは何とはなしにその頭をなでた。
「事実を認めるしかないってことか。でもどうなっちゃうのかなー私達。
「うーん、学校の授業でもこんな事例聞いたことないけど、国家管理ネットワーク安全法の『何人も、自分の
ハヤトが懸命に頭の中にある受験知識を総動員してタマコの疑問に答える。
「故意にっていうのは、『操作間違っちゃいましたー』なら許されるのかな?」
「いやいや姉さん、
「そっかー、明らかに無理か……。じゃあ、不正利用してはならない、ってのは『正常に
そう言って彼女はスクリーンに表示された、秋津サクラの文字を指さした。
「最終的にはそうかもしれないけど、
「はあ……そうよねそうよね。じゃあじゃあ、もう決めるしか無いわね」
タマコは大きく息をすって長く息を吐き、少し間をとってからこう言った。
「サクラを匿いましょう」
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