マイ・フェア・レディ
「やっぱり女の子はいいわー。あ、ハヤトも小さい頃は、本当に可愛かったけど、これは別腹だから問題ないのよ。さあ、サクラ、入って」
しばらく経ってからすっかりいつもの調子になったタマコだった。
彼女に促されて、サクラがリビングに姿を表す。
「おお……」
サクラは水色のワンピースを着せられていた。
サクラのピンク色の髪とよく調和している。やや丈が短いようではあるが、そこまでギリギリというほどではない。
てっきり間に合わせのTシャツか何かだと考えていたところだったので、ハヤトはとても意外に思った。サクラはくるくる回ってワンピースがひらひらするのを楽しんでいるようだ。
「可愛いだろー。見違えただろー」
「姉さん、よくこんなのあったね。これ姉さんのお古?」
「そうそう気に入ってたんだよ、これ。あ、手入れはいいんだぞ。本当はハヤトにいつか着せようと狙って準備してたんだけど、すぐ大きく、男らしくなっちゃったからさー。その無念は今果たされた」
さりげなくとんでもないことを言っている。ハヤトは気にしたら負けだと思って、スルーを決め込んだ。
「まったく姉さんは……よかったなサクラ」
「うん、お兄ちゃん。サクラ可愛い?」
「ああ、可愛い可愛い。さて……と」
タマコが真剣な顔になると、ハヤトに目配せした。2人は向かい合ってリビングのテーブルに座る。
サクラは「んー」と考えた後、ちょこんと、ハヤトの隣に座った。タマコがクッキーの入ったボウルを差し出すと喜んで食べている。
「では、話の続きをしましょうか。もちろん、この子、サクラについてよ」
「……そうだね、姉さん」
「まずは、私からいこうか。父さんはハヤトの妹だって言ってたみたいだけど、私が知ってる範囲では、姉さんたちの子供はハヤトだけのはずなのよ」
「そうだね……、俺もそう思う。『知り合いに頼まれた』ってじいちゃん言ってたからじいちゃんの知り合いの子供、てことかな」
「そうね、そうなるわね。だから父さんがどこかから誘拐してきたとか犯罪的なことではないということは言えると信じたい、とても信じたい」
「姉さん、そこは嘘でも信じてよ……」
「ハヤト、こういうときは日頃の行いと、特に娘に対する態度がものを言うのよ……では信じるとして次。この子、父さんの研究室のあの箱に入ってたっていってたわよね」
「うん、はじめて見たとき、箱の中で眠ってるみたいだった」
「さっきもう一度見てきたんだけど、あの箱、私見覚えあるのよ」
「えっ?」
「私の記憶だと、少なくとも5年以上前からあの部屋にあったはず。学生時代にちょっと父さんに用事があって入ったときに、あの箱に触ろうとして私怒られたことあるから、間違いない」
「5年……」
ハヤトがごくりと唾を飲み込んだ。
タマコの記憶が正しければ、サクラは5年あの箱の中にいたことになる。
気になって隣を見ると、サクラはクッキーを頬張りながらにっこりハヤトにむかって微笑んだ。
「……あの箱が何の装置かはわからないから断定はできないけど、とにかく、この子、というかこの子が置かれている状況は普通じゃないってこと、それはわかるわよね」
「……じゃあどうするのさ、警察につれていくの?」
「そうね、それも一つの方法かもしてないけれど、その前に確かめておくべきことがあるかな」
「?」
「ハヤト、情報工学系の学生さんでしょ。ほらほらほらほら」
この口調は、タマコがハヤトに勉強を教えるときに、自分が教えたことを思い出させようとするときのお決まりのものである。
ほらほら言われているとなぜか自然と重要なことを思い出す。
ハヤトにとっては魔法の言葉であり、この今も、効果はあったようだった。
「GENEの
「あったりー。この子がネイキッドなのか、イクイップドなのかはわからないけど、
GENEの
制度が始まった当初は、法律により、
この、肉体に
肉体に埋め込むというととても大変で苦痛を伴いそうに聞こえるが、医療技術の向上で歯医者で歯が抜けた後に義歯を埋め込む、いわゆるインプラントする程度の簡単な手術でできるようになっており、今はほとんどの国民がイクイップドとなっている。
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