秋津家の食卓 その2
「いただきます!!!」
3人で合掌した。
タマコもサクラもそれから外見を気にせずむさぼるようにスプーンですくったカレーを口に運ぶのを、時間を惜しむかのように、素早く繰り返した。
「タマコ姉さん、あんまり一気に食べると喉につまるよ……」
「何いってんのハヤトそんなこ・・・ごほっ」
「ほらほらいわんこっちゃない。ああ、サクラも、服につくと取れにくいから気をつけろよ」
2人の世話を焼きながら、自分もひとすくいして口に運ぶ。
うん、出来は悪くない。
ハヤトは満足感に浸りながら、ふと気がついたようにテレビをつけた。例の件が何だかんだ気になっていたのだ。
折良く、喫茶店で委員長と一緒に見た例のニュースがやっていた。どうやら自分が思った以上に世間でも問題になっているようだ。
「ハヤト、そういえば、今日は何かあったの?」
ふいにタマコが切り出してきた。
ざっくばらんな性格の彼女ではあるが、こういうときはごまかしはきかない。
ハヤトは喫茶店の時と同じように言葉を選びつつ、今日モールであったことを彼女に語った。
「この黒い服のやつらが……?」
「何かの間違いだとは思いたいけど、明らかにサクラ狙いだったと思う」
「サクラ狙いねえ……」
食事を中断し、まだ嬉しそうにカレーをかきこんでいるサクラをじっと見るとタマコは考え込み、そして言った。
「もしかして、どこかからバレたのかしら?」
「俺が普段気をつけているからそれはないと思いたいけど、学校にいる間とかはそうもいかないから、なんともいえないな」
「……おじいちゃんがいなくなってから1年たつってことは、サクラがここに来てからそのくらいよね。やっぱりそろそろこの状況には無理があるのかもね」
「タマコ姉さん、でもサクラは……」
「ハヤトの言いたいことはわかってる。その気持ちを大事にしてあげたいって姉さんとしては思うんだけど、思うんだけどやっぱりハヤトを心配するほうが先立っちゃうのよ。悪く思わないでね」
2人の会話を気にしていないのか、あるいはわからないのか、おそらくは後者であると考えるが、カレーのお皿を綺麗にしたサクラが元気よく「オカワリ!」というので、ハヤトはその元気さに微笑みながらカレーをよそった。
「やっぱり一旦うちに来る?ひょっとするとこの家の場所も特定されているかもしれないし」
「……姉さんも心配だと思うけど、サクラがこの家の中にいる限りは、大丈夫だと思うから。それにここが特定されてるんだったら姉さんの家にいっても奴ら追ってくるかもしれないし」
「逆に私がハヤトに心配されるとわね。姉さん一本とられましたわ」
「ふふふ、姉さん」
そんなやりとりを何度か繰り返した後、食事を終えた叔母は後ろ髪をひかれつつも、きっぱりとしたハヤトの態度を尊重し、「今日のところは家に帰る。明日もまた来るから」といつもの決まり文句を残して帰っていった。
「さて、姉さんも帰ったし、……どうするかな」
いつもであれば、学校の課題をするか、ゲームをするか、の2択であるが、今日はモールの件でいささか疲れている。
ハヤトはリビングでだらしなくぐたりとする、という第3の選択肢を選ぶことにした。
サクラはというと、テレビのお笑い番組をおとなしくじっと見ている。
妹は、お笑いを理解しているのだろうか?そんな疑問がわいてきたが、それに勝る睡眠欲求にハヤトはあらがえず、いつのまにか眠りに落ちてしまった。
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