レッツ・ショッピング

 ショッピングセンターは学校から少し歩いたところにある。

 ハヤトはその道すがら自分が来ない間に何かなかったかをサクラにそれとなく確認しておこうと思った。


「サクラ、ヒミコさんはいい人みたいだからよかったけど、知らない人には気をつけるんだぞ。そういえば、他の人からは何か話しかけられたとかはなかったか?うちの生徒とか」

「そうそう、ミコトさんが来たよ」

「ミコト……」


 考えてみると、ハヤトが委員長に捕まってからそれなりの時間がたつ。ミコトが帰りがけに校門にいるサクラと出会っても不思議はなかった。


「あんまりミコトには会わせたくないんだがな。何もされてないよな?」


 さんざんな言いようであるが、とくに彼は危険人物なのでしょうがない。


「んー、最初ね、『サクラちゃんは今日も可愛いねー』て言ったの。えへへ、サクラ可愛いかな」

「アイツ……」

「それからね、『お兄ちゃんまだまだ時間かかるから、でもお兄ちゃんは悪くないから怒っちゃだめだよ』て言ってたかな」

「すまないミコト……」


 ハヤトの心はミコトへの罪悪感に覆われた。


「その後ね、『お兄ちゃん遅いかもだから、俺と一緒に先にいこうか。』て言うから、サクラはお兄ちゃん待ってる!て断ったの。そしたらね、『お兄ちゃん思いだな、サクラちゃんは。しかたない、今日は独りで帰るぜ。今度はデートしような、サクラちゃん!』って行っちゃったの」

「はは、何だか損した気分だな」

「損した、の?」

「いや何でもない、こっちのことだ。気にするなサクラ。しかし、デートとは気が早いぞミコト、兄として断固阻止する!」


 こんな自分は、過保護すぎるかもしれないだろうか?

 しかし、サクラの性格を考えると、そうも言っていられない……ハヤトは天を仰ぎながら嘆息した。

 そんな彼の心配など全く解さず、横から心底嬉しそうな声が響く。


「お兄ちゃん、ふれあいモールついたよー」


 サクラの指さす先にあるのは、このあたり随一のショッピングセンター「ふれあいモール」だ。

 1Fから8Fまであり、食品、日用品、衣服、概ね生活に必要な全てがそこにあると言って良い。もっとも、食品については、近所のスーパーで買うことが多いので、秋津家の場合は、食品以外を購入する目的で来ることがほとんどである。

 今日は、サクラが新しい服が欲しいといってきかないので来たのだ。


 モールのエントランスから中にはいると、そこには案内所があり、ガイドのメイドロイドがお客の対応をしていた。


 クリスマスの悲劇後、メイドロイドの使用は一時一切禁止されたが、既にメイドロイド無しには成り立たない世界となっていたため、GENEをメインシステムとして動作する、いわゆる新型メイドロイドが開発されることとなった。

 現在稼働しているメイドロイドは全てその新型である。


 GENEで稼働する以外の過去のメイドロイドとの大きな違いとしては、その顔を覆うバイザーだ。

 クリスマスの悲劇の際、メイドロイドが人間に似すぎていて見分けがつかないため、暴走メイドロイドの対応の際、少なからぬ犠牲者が出たのだ。

 そのため、人間と見分けがつくようにと、新型メイドロイドの頭部を覆うように、バイザーの装備が義務づけられた。完全に人間と似つかないものにしてしまうと、それはそれで使いづらい、なかなか複雑な事情がそこにあった。


 そういえば前にじっとメイドロイドを見ていたサクラが「何であんなゴーグルしてるの?あの子たちみんな見づらかったり邪魔だったりしないのかな?」と言っていた気がする。


 彼女たちの気持ちがサクラにはわかったのだろうか?


 そもそもメイドロイドに思考や気持ちがあるのかどうかというと哲学的な議論が始まってしまいそうであるが、などとハヤトが物思いにふけっていると、その当人が催促してきた。


「お兄ちゃん、よんかい、だよー」

「はい、はい。あ、こら、サクラ、そんなに走っちゃ……」


 わかってはいたものの無駄であった。

 馬でいえば目の前にぶら下げたニンジンを食べないでいなさいというようなものであるから。

 あっというまに、サクラはエスカレーターを駆け足で登り、ハヤトの視界から消えていた。それにしても足の早いことよ、我が妹。


「そんなに嬉しかったのかなぁ。……最近家ばっかりに居させすぎたかもな」


 ハヤトとしてはサクラが家にいてくれたほうが安心なのであるが、サクラとしてはもっと外に出たいだろう。


 そう思って今日は一緒にモールに来ることにしたのだ。


 正直子供向けとはいえ女性服コーナーに行くことについて男子としては抵抗があったが、サクラのことを思うとそうも言っていられなかった。

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