話せば長いことになる その2
ケーキを食べ終わり、テレビのクリスマス番組をみながら2人はハヤトの両親を待ったがなかなか帰ってこない。
叔母は、中学生なりにいろいろ考えてくれて、一緒にゲームをしてくれたり、漫画の本を呼んでくれたりしたが、そろそろ彼女の場をもたせるネタにも限界が来ようとしていた。
そんな時だ、例の停電が起こった。
叔母はそれまでの気丈さ、自信満々さとは一転し、ハヤトを抱き寄せ震えていた。よくよく考えると、中学生の女子である、無理もない。
ハヤトは、そんな彼女の様子を見て、一緒に怖がると言うよりはむしろ彼女を支えなければと逆にいろいろ頑張った。
そのせいか、停電が終わった時、叔母がバツが悪そうにしていたような気がする。
停電が終わった後、それでもハヤトの両親が帰ってこないので、痺れを切らした叔母は、ハヤトの母に通信しようとした。
しかし、つながらなかった。
さらに彼女は、自宅に電話するがつながらない。
ここにきて2人は世界の異変に気がつくことになる。テレビをつけるがスクリーンには砂嵐しか映らない。
どうしたらよいのか?
残念ながら小学校にも通っていない子供と中学生である、良い考えが浮かぶはずもない。
もっとも叔母の脳裏には一度自宅に戻るという選択肢が浮かばないでもなかったが、意外に責任感ある彼女には、ハヤトを置いてゆくというリスクのある方法をとることはできなかったのだ。
しかし、その停滞はいつまでも続かなかった。
家の扉を叩く音、それも扉の金属がきしむほどの音がしはじめた。
叔母は、ハヤトを抱き寄せた。不思議なことにこの時彼女は、あの停電のときのように震えてはおらず、そのおかげかハヤトも恐怖というよりは何か来たるべきものが来たのだという冷静さが頭にあった。
扉が文字通り崩れ落ちた、そこにいたのは人影だった。言うまでもない、暴走したメイドロイドである。
「……それで、ここにこうしているってことは無事だったのだろうけれど、どうやって助かったの?」
「叔母が守ってくれたというのが一番ですが、祖父が家にしかけておいてくれた侵入者撃退用の装置みたいなのが起動してメイドロイドの動作が止まったんです。そのおかげで自衛隊の救助の方が到着するまでは持ちこたえることができました」
「秋津……秋津……」
記者がつぶやくように何度か繰り返し、ハッとした顔をするとハヤトに尋ねた。
「ハヤト君のお祖父様って、もしかして秋津博士?……現在行方不明だっていう……あっ」
「気になさらないでください。そうです、秋津マサカツが僕の祖父です」
記者が口ごもったのは、もちろん、ハヤトの祖父、その道では高名な秋津マサカツ博士が行方不明だからではあるが、その行方不明となった事件がテロリストによる爆破というとても陰惨なものであり、遺体が見つかっていないだけで生存はほぼ無いだろうと世間で言われていることも影響している。
「ありがとう。そう言ってもらえると助かるわ。なるほど、秋津博士のお孫さんか……うーん、でもちょっといいかしら」
「……何です?」
続く言葉を予想して、ハヤトは警戒する。
見た目は優しそうな女性ではあるが、今日はじめて会ったばかりの人だ。信用できない、信用しきれない。
「サクラちゃんは、その時一緒じゃなかったの?ああ、差し支えなければだけれど」
やはり、こうきたか。
ハヤトは少し間を置いて深呼吸すると、こう答えたのだった。
「……サクラは……その時は、別の場所にいたんです……ああ、そうそう確か当時体が弱くて入院していたとかで」
「……入院?病院にいたから助かったのね」
なぜか当時病院のメイドロイドはほとんど暴走しなかったという。
記者はその事実から、ハヤトの説明に納得していた。
「……この後用事もあるのでもういいでしょうか?……サクラ、ヒミコさんの迷惑になっちゃいけないから、そろそろいこう」
「うん、わかったよ、お兄ちゃん!」
「妹が申し訳ありませんでした」
「申し訳ないなんてそんな。何て言うのかな。そうね、妹さんには元気をいただいたわ。ハヤト君もありがとう。話しづらいことだったわよね、ごめんなさい」
「いえ、お気になさらないでください。では失礼します」
「失礼しまーす!」
ハヤトは妹と一緒に、彼女におじぎをした。そして、街に向かって歩き出した。
そんな2人の姿を軽く手を振り微笑しながら見送る新聞記者。
彼女は2人の姿が角の向こうに消えると、手元の端末を何やら操作して通信し始めた。
「……
通信を着ると、彼女はそばに止めてあった車に乗り、いずこへと去っていった。
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