俺たちは管理されてる その1

「しかし、せっかくこれだけ技術が発達してるんだから、資源化装置でも教室に置いてくれればいいのに……」


 委員長と並んで歩きつつ、独り言のようにハヤトが愚痴る。


「教育のためなんだって、前に先生いってたでしょ。何でもかんでも自動にしたからクリスマスの悲劇が起きたって」

「そうは言うけど委員長、クリスマスの悲劇の原因ってコンピュータウイルスがメイドロイドとかに感染したから起きたんであって、別に自動化そのものが悪って訳じゃ無いと思うぞ。悪いのはコンピュータウイルスを作ったやつじゃないか?」

「ふーん、秋津ってわりとこういう話題には食いついてくるのね」


 委員長がハヤトににやりとした。

 ハヤトは、いつのまにか彼女に熱弁を振るっている自分に気がついて少し恥ずかしくなった。


「べ、別にそういうわけじゃないさ。あ、ないです」

「思い出したようにかしこまらなくてもいいわよ。まあ、きっと国の偉い人もそんなこと考えて、国家管理ネットワーク安全法を作った、ってことかもね……」


 国家管理ネットワーク安全法、それは、国家によるコンピュータ、ネットワークの管理法である。


 そう、今のコンピュータおよびコンピュータが接続されているネットワークは全て国の管理下にあるのだ。


 もう少し難しいことを言うと、オペレーションシステムと呼ばれるコンピュータを動かしているシステム、仕組みそのもの、いわゆる基幹コンピュータシステムも、今は国により管理されている。


 なぜそうなったのか?


 クリスマスの悲劇の原因がコンピュータウイルスであることがわかった後、同じことが繰り返されないようにするため、政府および有識者により事件の分析が様々な角度から行われ、それを元に対策が考案されることとなる。


 その際に重要なポイントの1つとして考えられたのが、この世界的に発生した事件について、そもそもこれほど広範囲にこのウイルスが影響したのはなぜか?ということだった。


 コンピュータウイルスとは、コンピュータシステムに感染し、その上で動作するプログラムである。

 あくまでプログラム。

 そのため、コンピュータシステムがウイルスプログラムを動作させることができなければ当然何もできない、起こらない。


 歴史的に見ると、コンピュータが開発された初期には、様々なコンピュータシステム(オペレーティングシステム)が乱立していたため、同じプログラムがA社のシステムでは動作するが、B社のシステムでは動作しないというのが普通のことだったらしい。


 コンピュータウイルスでも同じであり、ある意味その動作環境に制限があったとも言える。中国で日本語を話しても通じない、といった感じだろうか。


 しかし、このシステム乱立の状態は、プログラム開発者にはシステムごとにプログラムを作成しなければならず、利用者にとっても様々なシステムの操作方法を学ばねばならない、などの問題があり、これも時代の要請というものか、いつしかシステムは淘汰とうたされ、ほぼ1社のシステムが市場を独占する事態となっていたのだ。


 世界は1つになった、これが真のグローバル化だと、問題が解消した人々は喜んだ。当然メイドロイドのシステム等もこれにならって同じように統一化されることとなった。


 もうおわかりだろうか。


 世界中で同じプログラムが動く状態になっていたということは、イコール、コンピュータウイルスが動かないコンピュータも無かったということだ。


 その結果として、クリスマスの悲劇ではコンピュータウイルスが世界中で猛威を振るうことになった。


 そう結論づけられた。


 かくして、各国政府の苦慮の末、各国のコンピュータおよびネットワークはそれぞれの国の政府の支配下に置かれることになった。


 各家庭、企業のコンピュータは全て回収され、代わりに国家からコンピュータが支給された。各国国民の一部にはこの国家の支配に反対するものもいなくはなかったが、クリスマスの悲劇という大きすぎる犠牲の前にはその声はかき消されてしまう。

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