第1話 聖夜の悪戯
プレゼント・フォーユー
「どうしようかなあ?」
ここは小物ショップ。今日はクリスマスイブ。
彼女は夜までになにがしか納得のいくプレゼントを選ばなければならないのであった。中学生の彼女の、限られた予算の中で得られる最高の一品を。
幸運にも今日は学校は休みだったが、朝から何件かお店を回っているにも関わらず、まだこれといったものに出会えていなかった。
「クリスマスプレゼントでお悩みですか?」
急な横からの声に少しドキドキしつつ振り向くと、店員メイドロイドだった。
なぜか、ちょっと安心する。人、ではないからだろうか?
「うん。ちょっとね」
「プレゼントのお相手は男性ですか?女性ですか?」
「おにい……男性です。えーっと年は20代前半!」
そうなのだ。プレゼントを贈る相手は兄である。
しかし、なんとなく気恥ずかしく、意を決してここは男性と言っておいた。
兄と男性に本質的な違いはないのであるし、彼の年を言っておけばそれなりにAIは考えてくれると期待している。
「20代前半……男性……」
つぶやきながら検索しているのか、少し考え込むそぶりをした後、店員のメイドロイドが「お待ちください」と言い残すと、コーナーの角を回って姿を消した。
5分も立たないうちに彼女は戻ってきたが、その手に提示したのはマフラーであった。綺麗な青い色。
「こちらなどいかがでしょうか?」
「うーん、少し重いかなぁ……」
きっと恋人や旦那様向けの品なのだろう。
冬であるし季節的にもマッチしているが、なんというかいつも一緒にいてほしいという自分願望がそのまま露骨に現れているようで、妹が兄に贈るにはちょっと……、と思う自分がいる。
まあ、兄向けとは言ってないからAI的には仕方ないのだろうけれど。
「でしたらこちらはいかがですか?」
その言葉とともに現れたのは、今度は、時計だった。銀のフレームにアナログな文字盤。男性用だがそれほどフレームは大きくはなく、華奢な体型の兄の腕にも似合いそうである。
何より、首に巻くマフラーよりは、敷居が低い、気がする。
予算も……ギリギリオーケー。
よし、これだ!テルは、ほっとしつつ、やるじゃない、と声には出さないものの、心からの最大の賛辞を送りつつ言った。
「これ、ください!」
レジを済ませてお店を出る。
お兄ちゃんは喜んでくれるだろうか?きっと喜んでくれる、喜んでくれないわけが無い!とひとりで三段活用しながら。こういった気持ちはこういうときにしか味わえないものだし、バチはあたらない。
そういえば兄もよく、「全ては
そんなことを考えつつ、時間を見ると丁度15時。確か兄の職場では休憩の時間のはずである。
「お兄ちゃんに電話してみようかな」
迷わずポケットから携帯端末を取り出し、兄の番号を押した。
電話、コンピュータの発明以降その技術は進歩したものの、ここ数十年の間は特にこういった端末の大きさにさほど変化はみられていない。
それは、使う人間の大きさを考慮すると適度なサイズがあること、要するに、最適なサイズは利用する人間の指の大きさや文字・記号の表示を見る視力に依存するからだと学校の教科書には書いてあるが、今のテルにはそんなことはどうでもいいことだった。
むしろ、ボタンを押してから、通信がつながるまでの時間がいつもより長いことが気になっていた。いつもならすぐに出てくれるのに……。
「テルか?どうした?」
電話に出た兄の、いつもどおりちょっと言い方はぶっきらぼうだけど、なんだか優しさを感じる、そんな口調に安心する。
「ああ、お兄ちゃん……今日は何時に帰ってこれそうなの?ケーキも私も準備万全だよ」
今の気持ちをそのまま口にしてしまって、テルは少し後悔した。私も、は余計だったろうか……。
「うーん、そっか今日はクリスマスだったな。ちょっと今日も仕事が長引きそうなんだ……また連絡するよ。せっかく準備してくれてるのに、すまない」
そうなのだ、彼女の最愛の兄はここ1週間以上帰るのが遅かったり、帰ってこなかったりな状況だった。予想はしていたものの、その兄の言葉に落胆を覚えずにはいられない。だが、テルはめげずに言うのだった。
「うん、わかった。待ってるから、お仕事がんばってね」
「ああ、サンキュ……そうだ、俺も一応準備はしてるからな、楽しみにしてろよ。じゃあな」
「うん、お兄ちゃん」
兄の通信が切れたのを確認してから、テルは自分の端末の通信を切った。
いつもながらこの瞬間はなんともいえない寂しさがある。
以前、彼女の同級生にこの気持ちについて話してみたら、「それならメッセージにすればいいじゃない。文字なら相手の言葉も残るでしょ」とざっくり言われてしまったが、そういう問題ではないのだ。
彼女は兄の声が聞きたいのだから。
常に兄の側の通信が切れるまで待つのは少しでも長く通信したいという心の表れだった。
ともかく、テルとしては兄の、準備をしている、という言葉を頼みに家に帰るしかなかった。
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