第0話 猫型よりも女性型?
開発者達の苦悩と成果
これは今より少し未来のお話。
コンピュータとネットワークの技術が今よりも格段に高度化した世界のお話。
そんなデジタルな世界における、人及び、人によって人に似せて作り出されたモノ、が繰り広げられる愛だとか恋だとか勇気だとか恐怖だとかアナログな人間らしい活動がこれから語られる。きっと……多分、語られる。
それらを語るにあたり、これだけは伝えておかなければならないことをまずはここに記す。物語の背景なんぞに興味はない、という方々は飛ばして次に行かれたし。
……ああ、そうだ。後で、「何があったんだ?一体」と思われたときに戻って読んでいただければ何か発見があるかもしれないことは付け加えておく。記憶にとどめておいていただきたい。
では、早速始めよう。
人類が生み出した最高の発明の一つ、AI。
AIとは、人工知能のことであり、自立して思考するコンピュータプログラムと定義される。
自立して思考する、というと何だか難しそうだが、つまり、人に指示・命令されることなく、自ら経験により学び、自ら判断し動作することができる、ということである。
石器時代の道具の発明以降、コンピュータの開発に至るまで、歴史的にこれまで様々な発明があったが、いずれも利用する人が、自分で考え動作させるものであったことを思えば、その素晴らしさは理解できるだろう。
そう、人が、人の代わりを作り出すことができるようになったということだ。
当然のことながら、AIは人の代わりとして社会のあらゆるところで利用されることになる。
部屋の温度調節、車の自動運転など、生活の周辺から始まり、徐々にその利用の範囲は拡大されてゆく。
しかし、住宅にしろ自動車にしろ、それはまだ既に存在するハードウェアに組み込まれたに過ぎず、AIはまだ人の代わりとして、その形を得ていなかった。
それが、時代の要請により人の形を得ることになった。
メイドロイドの誕生である。
時代の要請とは何だったのか?
言うまでもない、少子高齢化である。
人口の内訳として、老人が増え、若者が減るということは、経済を支える労働力が減少するとともに、老人の介護の問題が発生する。
足りない労働力を補うため、子育て中の女性までかり出される事態となるが、今度は彼女らが働いてる間の育児をどうするのか?というさらなる問題が提起された。
あちらを立てればこちらが立たず、これらの問題解決のため、人手の足りなさを補う何かが求められている状況だったのだ。
一方、ちょうどその頃、人の形をしたロボット、アンドロイドの技術が高度化していた。
こちらについては、漫画などで昔から出番はあったものの、現実としては「人の形をすることに何の意味があるのか?」とそもそもの疑問を呈されることや、「人の形って気持ち悪い。それに女性型って何考えてるのよ?!」「開発者の趣味だろ」という偏見、いや意見が多かったものである。
人型であることについては、人がアンドロイドと自然にコミュニケーションをとることができるようにするため、という説明でまだ理解されていた。
しかし、後者の疑問については、確かに、そういった漫画では猫型などの一部の動物型を除くと、女性型が多いこともあり、アンドロイドの開発者は余計な誤解を招かぬよう、いらぬ苦労を重ねていた。
女性型であっても、自分の意思に反して「これが女性型?女性馬鹿にしてるの?」と女性に言われるレベルの不細工な外見としたり、男性型としたり……。
全ては人と共生するアンドロイドを開発するために!
彼らのその苦労には頭が下がる思いであるが、とにかくその努力が報われる時がやってきたのだ。
最初は、老人介護を目的とした女性型アンドロイド、次いで子育てを目的とした女性型アンドロイドが市場に投入された。
もちろん、これらのアンドロイドにはAIが搭載されており、AIにより最適に人の世話をすることができた、老若男女を問わず。
これらが女性型であるのは、開発者やメーカーの趣味ではなく、実は、男性型よりも作成にかかる資材が少ないというのが一番の理由であったが、例によってやはり、女性型であることに反感を抱かれる懸念が多分にあったせいか、「人は女性から生まれ、女性に抱かれて生涯を終える」をスローガンとする母性重視キャンペーンが同時に政府主導により行われた。
政府的には、少子高齢化の打開策として必死であったのだ。
しかし、これは杞憂だったろう。今となっては笑える話の一つである。
そもそも、実は最も初期には男性型アンドロイドも生産されていたのだが、「男性型は力がありそうでなんだか怖い」などの考えで女性型が選択されることが圧倒的に多く、結果として女性型が占めることになったというのが事実であった。
もっとも人々が、その判断に当たり過去のアンドロイドが戦うような映画による男性型のマイナスイメージに影響されたことも否定はできない。
ともかく、人々の選択の結果であったのは間違いない。
そうそう、この、家庭で介護・育児を助けるもの、という当初の目的から、女性型アンドロイドは、メイドロイドと命名されたらしい。らしいというのは、いつ誰に命名されたのかについて諸説あるからだが、世間に広まったのは、先に述べた政府のキャンペーンであるという説が有力である。
こうしてAIの搭載された女性型アンドロイドは世間に好意的に受け入れられてゆき、ついには介護・育児だけでなく、人の代わりとして、企業・学校などで働くこととなったが、名称は変わらずメイドロイドと呼ばれていた。
人間に変わって自立して思考するメイドロイドの普及により、世界的に長年の課題となっていた高齢化に伴う課題が、ほぼ解消したと考えられるに至った。
「もうメイドロイドに全てを任せれば、働かなくてもいいんじゃないか?」などと、皆が楽観的な明るい未来を描いていた。この時点では、明るい未来を描いていたのだ……。
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