第33話
会場へ戻った私達が時計を確認するとかなりギリギリの時間だった。
「わ~。いそいで調合にかからないと~」
「私達の協力はここまでって事で、じゃあ後でね」
「うん。またね~」
私は超特急で自分の学校の錬金釜へと向かう。
もうどの学校も調合を開始していて私達が最後だったみたい。
「先輩こっちですわ」
「あっ、奈津美ちゃん。――――わ~。下準備は済ませてくれてたんだね~」
「時間がありません。今作っている物が完成次第メインの調合に入りますわ」
上級のアイテムを作る為には、まず汎用素材で下級アイテムを作ってその下級アイテムとレア素材で中級アイテムを作成みたいな感じでどんどん調合を繰り返して作成するんだけど、奈津美ちゃんは私が素材を取りに行っている間に中級アイテムの作成まで終わらせてくれていた。
「まずは賢者の石を作るんですのね?」
「そうだけど、よく分ったね~」
「わたくしの担当は前回と同じ素材の調達でしたからすぐに分かりましたわ。――あと少しで中級アイテムの作成が終わるので先輩は最上級調合の準備に取り掛かって下さい」
「りょうかいだよ~」
まずはマンドラゴラの葉と竜の牙と溶けない氷を準備して、あとは奈津美ちゃんが今作っているエリキシル剤を素材にして賢者の石を作成する。
「先輩出来ましたわ」
「奈津美ちゃんありがと~。じゃあこの釜の中にお願い」
「了解ですわ」
材料が揃った。
前回はこれを作ろうとして失敗しちゃったけど、今回はなんとしてでも成功させないと。
私は必死で錬金釜をかき混ぜる。
奈津美ちゃんも調合のサポートをしてくれている。
「先輩釜が!」
「大丈夫、任せて」
なんとか賢者の石の調合に成功して――――前回の私を超える。
釜が一瞬まばゆい光に包まれてから収束すると釜の中に賢者の石が完成していた。
「出来……た…?」
……前回の私は超えた。
前回の大会だったら賢者の石を作ってたら優勝してたと思う。
けど今回はそれだと優勝出来ない。
――今回はその先に。
「奈津美ちゃん次――」
「了解ですわ」
ここから先は作った事のない未知の領域だ。
成功する確率も失敗する確率も解らない。
おそらく失敗する確率の方が高いと思うけど今は弱気になってちゃダメだ。
「まずは黄昏の種火と神々の預言書。――そしてさっき作った賢者の石に必死の想いで採ってきたアスフォデルスで材料は全部」
自分でも緊張で手が震えているのがわかる。
震える右手を左手で抑えてから私は軽く深呼吸をする。
「それじゃあ奈津美ちゃん。いっくよ~」
「――これが最後ですわね」
「神話級調合~!」
今までにないくらいのプレッシャーが錬金釜から伝わって来る。
光が迫ってくる感覚と共にザラリとした風が髪の毛を揺らす。
圧倒的な力に吹き飛ばされそうになった時、何かが体を支えてくれた。
「先輩大丈夫ですの?」
「な、なんとか~。奈津美ちゃん、支えてくれてありがと~」
「もう少しで完成です。まだ気を抜いてはいけませんわ」
「うん。もう大丈夫だよ」
今の私には支えてくれる仲間がいる。
応援してくれる部活の皆がいる。
後もうちょっとだけ私に力を貸して。
「あと――もう少し――――」
錬金釜の光が収まっていくのを感じる。
調合を終えた私は恐る恐る釜の中を確認する。
「――おっ、とと」
足が少しふらついている。
かなり体力を消耗しちゃってるみたい。
「先輩。肩を貸しますわ」
「えへへ~。また助けられちゃったね~」
奈津美ちゃんの肩を借りて錬金釜の中を覗き込むと、そこには炎の玉がゆらゆらと燃え盛っていた。
「成功――――したんだよね?」
「――おそらくは」
私がそれを手に取って出来を確認しようとした所で会場にブザーが響き渡って審判員さんが競技の終了を告げた。
「――そこまで。各自調合を終了するように」
会場の生徒は全員手を止めて調合アイテムの採点を待つ事になった。
最後に自分で出来を確認しておきたかったけど時間が来ちゃったら仕方ないね。
――他の学校を確認してみると今回は凄いアイテムを作った所が多いみたい。
けど、凄いのを作ろうとして失敗した学校も同じくらいあるみたい。
今回はかなり荒れそうな予感がする。
「今回は神話級アイテムを作った学校が多いみたいですわね」
「そうだね~。それに調合に成功した学校は高得点ばっかりだしてるね~」
採点はちゃくちゃくと進んでいる。
今のところ最高得点は100点満点中97点。
かなりの激戦が繰り広げられている。
「――次は祈ヶ丘か。さあ出してくれ」
ついに私達の番が回ってきた。
私は錬金釜の中で燃え盛っているラグナロクを取り出して審判員さんに手渡した。
「これです」
「――ほう。ラグナロクを作ったのか。今まで見た中では一番難易度は高いがさて――――」
審判員の人が採点を始める。
手にとって一通り確認した後、ダミー人形に向かってアイテムを使って破壊力を確認する。
「点数を発表する。この学校の得点は100点。よくぞここまで完璧なアイテムを作った」
「……えっ? ま、満点ですか?」
「先輩やりましたわね」
正直実感は沸かなかったけど周りの学校からの歓声を聞いてから少しずつ自分の得点が現実味を帯びてきた。
「や、やった!?」
「ええ、わたくし達が一番ですわ」
「あはは~。――あれ、安心したら気が抜けて」
私はそのまま床に座り込んでしまった。
しばらくは立ち上がれないかもしれないけど、もう私にこの大会中に出来る事は無いししばらくこのままでもいいかな。
――私達はちょっとだけ休憩してから皆の待ってる控室へと帰っていった。
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