第34話
「先輩達やりましたね!」
「えへへ~。なんとかね~」
「後は奈央さんだけですわ。頑張ってください」
「そういえば希ちゃん達はどうしたの~?」
「さっきジュースを買いに出かけたのでもうすぐ帰ってくると思います」
「――たっだいまぁ」
私達が話していると突然控室のドアが開いて希ちゃんと唯ちゃんが部屋の中に入ってきた。
二人共手にはジュースの缶を持っている。
「――お二人共お見事でした」
帰ってきた唯ちゃんが先輩達に軽く微笑む。
普段クールな唯ちゃんが笑顔を見せるのは久しぶりだ。
先輩達の活躍がよっぽど嬉しかったんだろうな。
「あれ? 先輩達の試合ってもう終わったの?」
……こっちは何も見てなかったみたいだけど。
「――希さん。さっきまで控室のモニターで先輩達を応援してたではないですか」
「ん~。希は途中で飽きてゲームしてたからねぇ」
「と、とにかく。今は私達の学校が暫定1位です。それでは私も頑張ってきますね」
「うん。奈央ちゃんが頑張って来てくれたら優勝だね~」
「わたくし達も応援していますので頑張ってくださいね」
「――先輩ならきっと勝てます」
「最後くらい希も応援するよ」
「うん、皆ありがと。それじゃあ行ってきます」
私は控室を出て会場へと向かう。
私の結果次第で優勝が決まるから正直プレッシャーが半端じゃないけど応援してくれる皆の期待に答える為に自分と何とか奮い立たせて会場の入り口をくぐった。
最後の種目だけあって他の学校も凄く気合が入っているのが会場の空気から伝わってくる。
「――そう言えば最後の種目ってなんだっけ」
何か今年は直前まで秘密って言われたけど、まあそっちのほうが盛り上がるとかなのかな。
しばらくして今回の審判員の人が会場に入ってきた。
ざわついていた会場が急に静かになって審判員の高台に登る足音だけが今ここにある唯一の音のように思えた。
「最後の種目を発表する。最後の種目は強敵撃破、こちらの用意した強敵を撃破した速さで順位を決定する。使用アイテムは各校5つまで準備時間は2時間――――それでは開始」
静寂に包まれていた会場が一瞬にして大騒ぎに包まれた。
「…………えっ。2時間以内にアイテムを5つ? 強敵が何なのかも教えてもらってないしどうすればいいの」
「――奈央ちゃ~ん。ひとまず控室まで来て~」
観客席から先輩の声が聴こえてきた。
一人で悩むより皆で相談した方がいいかもしれない。
「わかりました~」
どうやら他の学校も自校の生徒と相談するみたい。
私は大急ぎで控室まで走っていく。
――控室の扉を開けると先程まで観客席にいた部員全員が控室に戻ってきていた。
「奈央ちゃん。大変な事になっちゃったみたいだね~」
「先輩。どどど、どうしましょう?」
「奈央ちゃん、まずは落ち着いて。――えっと、アイテムの持ち込みは5個までだっけ?」
「ええ、そのように言ってましたが私何を用意すればいいのか解らなくて……」
「大丈夫ですわ。何か必要な物があれば、わたくし達も手伝いますから」
「――私もお手伝いしますので何でも言って下さい」
「んじゃ。みんな頑張ってねぇ」
「――希さんも手伝って下さい」
「しょうがないなぁ」
「みんな、ありがとう」
みんなとの絆を感じる。
みんなと一緒ならどんな困難も乗り越えられる気がする。
「それじゃあここの部員はちょうど5人なんだしそれぞれが奈央ちゃんの為にアイテムを作ろっか~」
「それは良い考えですわね」
「――今の私に作れる精一杯の物を作ります」
「希も取っておきのを作ってあげるよ」
「それじゃ時間も無いし、みんな始めよっか~」
「お~」
最後の競技が始まるまでに用意された時間は2時間。
私も悔いの残らない様に今作れる最高のアイテムを作ろう。
――1時間半を回った辺りで各々のアイテムが完成した。
「そろそろ会場に戻らないと」
「わたくし達に出来る事はここまでですわ」
「――奈央さんならきっと優勝出来ます」
「希も最後くらいは応援するよ」
「私達が応援してる事を忘れないでね」
「はい。行ってきます」
――私が会場に戻ると他の学校の生徒も何人か戻ってきているみたいだけど、出て行った時には無かった物が会場中に設置されていた。
「……何……これ?」
会場にはいくつかの鏡が置かれていた。
大きさは2メートルくらいで私の全身が鏡に写っている。
鏡に向かって手を振ってみると鏡の向こうの私も全く同じ行動を返す。
「普通の鏡? ……な訳ないよね」
けど今のところどう見ても普通の鏡にしか見えない。
他の学校の生徒も困惑している中、審判員の人が会場に入ってきて説明を始めた。
「それぞれ自分の学校名が書いてある鏡の前に行くように」
よく見ると鏡の下の方に学校名が書いてある。
どうやらここは私の学校じゃないみたい。
――私は自分の学校名を探して鏡の前に立った。
「それでは最終競技を開始する。各自、目の前の強敵を倒すように」
――審判員さんの言葉が終わると同時に鏡から光が溢れ出してきて私を包みこむ。
そして、気付いた時には周りを壁に囲まれた場所に私は立っていた。
外の音は聴こえない。
部活の皆は私が見えているんだろうか?
その場で軽く足踏みをしてみると、私の足音だけが周りに響き渡った。
多分今この場所には私しかいないと思う。
「目の前の強敵を倒せって言ってたけど…………えっ!?」
突然、私の前にある床から黒いモヤのような物が湧き出した。
そして、それはどんどん吹き出して人のような形に変わっていく。
「これは……私?」
私そっくりのそれは私を確認すると同時に攻撃をしかけてきた。
「えっ……ちょ、ちょっと待って」
とっさの出来事に対応出来なかった私は攻撃をまともに食らってしまい壁に吹き飛ばされてしまう。
「―――かは」
いきなりかなりのダメージを受けてしまった。
このままだと倒すどころか私がやられてしまうかも。
「奈津美ちゃん使わせてもらうよ」
私はカバンから奈津美ちゃんが作ってくれたエリクサーを取り出して飲み干した。
瓶が床に落ちるよりも早くさっき吹き飛ばされた時のダメージが一瞬で無くなったのを感じる。
「これが無かったら危なかったかな」
私はカバンから雷属性で攻撃出来る雷の石を取り出した。
ちなみにこれは自分で作った物だ。
「今度はこっちの番」
私が石を掲げると上空から雷が敵を直撃する。
――が、あまり効いていないみたい。
「もしかして雷耐性があるの!?」
――けど、こんな時に使えるアイテムも渡されている。
「希ちゃんがいてくれてよかった」
私は希ちゃんが作ってくれた暗黒の水を相手に投げつける。
暗黒の水は相手の属性耐性を全て無効化して弱点に変えるアイテムだ。
――ちなみにこのアイテムはいちいち攻撃アイテムを使う時に相手の属性を調べるのが面倒だから作ったらしい。
暗黒の水が当たった相手の周りにはどんよりとしたオーラが広がった。
これはアイテムが効いたって証明だ。
「よし、これで攻撃が効くはず――――ってまた!?」
私がアイテムを使う前に敵は2回目の攻撃を繰り出してきた。
暗黒の水は耐性を下げるだけのデバフアイテムなのでダメージを与えて怯ませるとかは出来ないのだ。
「――ここは唯ちゃんにもらったこれで!」
私は唯ちゃんが作ってくれた龍人の秘薬を使う。
龍の力を手に入れる事が出来るアイテムで私の全ての属性攻撃への耐性がアップして防御力も若干増える。
「――くっ」
何とか攻撃を耐えきった私はもう一度、雷の石を天に掲げて雷属性の攻撃を繰り出した。
「効いてる!」
相手は少しだけ怯んだ。
雷属性のアイテムは素早く使う事が可能なので相手の攻撃の前にもう1回使えそうだ。
「もう1回。それっ!」
雷撃を2度受けて相手は大きく怯んだ。
そのスキを私は見逃さない。
「最後は先輩の作った黄昏の炎ラグナロク」
私はカバンから火の玉を取り出して投げつける。
相手に当たった瞬間、数本の火柱が現れて相手を包み込む。
先輩が調合の種目の時に作った物と同じだけど、私が使いやすい様に少しだけ改良してくれたものだ。
強い攻撃アイテムは相手に当てづらいし、扱いに慣れてない人が使うと使う前に爆発したりする事もあるけど先輩がうまく調節してくれた事で私はこれを初めて使ったけど問題なく使う事が出来た。
――炎が収まった瞬間、私はここに来た時と同じ様な光に包まれていった。
数秒後、目の前には見覚えのある光景が広がっていた。
「ここは――会場?」
どうやらアレを倒したので会場に戻ってこれたみたい。
周りを見回してみたけど会場に私以外の生徒の姿は見当たらない。
「もしかして――私が一番最初?」
突然、観客席から歓声が聴こえてきた。
どうやら本当に私が一番みたい。
――それからしばらくして他の生徒も鏡の世界から戻って来る。
審判員さんは戻ってきた順番を紙にメモしている。
そして、終了のブザーが鳴ると同時に審判員さんがパチンと指を鳴らしたら戻ってきていなかった生徒も全員会場に現れた。
時間以内に倒せなかったって事なんだろうか。
――ともかく。
「みんな。私やったよ」
部活のみんなが会場になだれ込んで来て全員で抱き合った。
それからの事はよく覚えていないけど、確かな事がひとつだけある。
私達、祈ヶ丘高校錬金術部は今回の大会で優勝したのだ。
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