第32話

「ゼェ……ゼェ……な、なんとか助かった」

「――全く。私達まで巻き込まれる所だったじゃない」

「だっ、だってあの場合は仕方ないじゃない~」


 崩れてしまった遺跡の入り口の前で私達はお互いの無事を確認してみる。

 みんな制服がちょっとだけ汚れちゃったけど怪我は無いみたいで安心したよ~。

 ……けど。


「うわ~ん。遺跡壊しちゃったけどどうしよ~」

「ええい、落ち着きなさい。古代錬金術の特性は知ってるでしょ?」

「え~と……え~と……わあ~。どんな特性だか思い出せない~」

「古代錬金術で作られた建物には自己修復機能が備わっているのよ」

「あ~。そう言えばそんな特性があったような~」

「だから時間が経てば元通りに直るってわけ」

「そう言えば建物の時間を進めるアイテムを持ってたんだった、ちょっと待ってね~」

「――なんでそんなピンポイントで古代錬金術にしか使えないようなアイテムを持っているのよ」

「えへへ~。この前、偶然できちゃったんだよ~」


 私はカバンの中からアイテムを探す。

 けど結構いろいろ詰め込んでいるせいか中々目当ての物が見つからない。


「あれれ。どこにしまったかな~」

「別に一週間くらいで直るんだしほっといてもいいんじゃない? 私達も大会の途中なんだし急がないと間に合わなくなるわよ」

「えっと、もうちょっとだけ……あ、あった~」

 

 私はカバンから時を進めるアイテムを取り出して遺跡に使う。

 遺跡周辺の時間が加速してどんどん元通りの姿に修復されていく。


「よ~し。完成だよ~」

「――私も本で見ただけだったから半信半疑だったけど本当に元通りになるのね――――って、あらっ? 入り口が閉じているみたいだけど貴方どうやって入ったの?」

 

 私も入り口を見てみると確かに扉が閉じていて入れそうにないみたい。

 試しに押してみたけど全くびくともしないよ~。


「う~っ。――はぁはぁ、びくともしないよ~」

「――私が来た時は開いてたんだけどなんでだろ?」

「気にはなるけどこれ以上ここで考えても意味が無さそうね。貴方も素材を探しに来たようだけど、この辺りで探すの?」

「そうだけど、そっちも?」

「私達はもうちょっと奥まで行くんだよ~」

「――そっか。じゃあここでお別れか」

「それじゃあね~」

「もう1人で遺跡に入ったりするんじゃないわよ。さて、私達は行きましょう――って何?」

「わああああ~。地震だよ~」

「落ち着きなさい。どうやらこれは地震では無いみたいよ――遺跡の扉を見て」

「ええ~?」


 突然、遺跡全体が光りだしたと思ったらゆっくりと扉が開いていった。

 どうして急に動き出したんだろ?


「これは――何かに共鳴しているのかしら?」

「何かって地下にいたゴーレムとか?」

「どちらかと言うとゴーレムも何かに反応して起動してる感じだったかな~」

「――確か古代錬金術は周辺のエネルギーを取り込んで性質を変える特性もあったわね」

「そうなの? 物知りだね~」

「これは基礎なんだけど……まあいいわ。ともかくこの周辺に膨大なエネルギーを発生させている何かがあるかもしれないって事よ」

「何かって?」

「そんなの知らないわよ。ともかくこの周辺は何があるか解らないから注意はしないとね」


 う~ん。気になるな~。怖いものじゃないといいんだけど。

 ――私は何気なく遺跡の横を見てみたらそこには何処かで見たような花が咲いていた。


「――ねえ。あれってアスフォデルスの花じゃない?」

「えっ。どこ?」

「ほら遺跡の右にある木の根本だよ~」

「ほんとね。しかもかなり状態もいいみたい――けど一輪しか咲いていないようね」

「――えっと、どうする?」

「私達は巨大樹の所で採取する予定だから採っていいよ~」

「そうね。私の調合も1つあればじゅうぶんだし今回は譲るわ」

「二人共ありがと。じゃあ遠慮なく貰ってくね」

「貴方も大会頑張ってね」

「――その。色々と助けて貰っちゃったけど負けないからね!」

「こっちも負けないよ~」


 私達は遺跡で出会った娘と別れて道を更に進んでいく。

 ――そして、ついに巨大樹のふもとへと辿り着いた。


「わ~。大きいね~」

「この森の最初の木って言われているわね」

 

 巨大樹がこの周辺のフタをしているように茂っている為、上を向いても葉っぱしか見えない。

 そして、風が軽く揺らすだけで巨大樹の枝がガサガサと揺れて心地よい音をかもしだしていた。

 木が揺れる音しか聴こえない本当に静かな巨大樹の根本に私達の探している花がいくつか咲き誇っている。


「見て、あそこ!」

「――ふぅ。咲いてて良かったわね。」

「時間も無いし早く採取して帰らないと」

「そうね。急ぎましょう」


 私達は急いで花の元に駆けていった。


「――危ないっ! 下がって!」

「わ~。何かでた~」


 花が咲いている前に突然魔法陣が現れて、そこから何かが浮かび上がってくる。

 浮かび上がってきたそれは、ローブを身に纏って右手に杖を持った骸骨のような怪物だった。


「これは――――魔物?」

「――えっ? 何でそんなのがここにいるの~」

「解らないわよ。――けどさっきの遺跡が反応してたのはどうやらこいつのせいだったみたいね」

「わ~ん。早く逃げないと~」

「こんなのをほったらかしにして行けるわけ無いでしょ。私達でなんとかするわよ。それに遺跡にあった花はあげちゃったし、今の私達はこいつを何とかして木のふもとにあるのを手に入れるしか無いわ」

「うう~っ。仕方ないか。――けど、本当に危なかったら2人で逃げるからね?」

「わかってる。――来るわよ!」


 魔物は杖を上に掲げると頭上に火の玉が現れた。


「させないわ」


 女の子はポケットから避雷針のような物を取り出して魔物に投げつけると、雷が魔物に直撃して少しだけひるんだ。

 相手が攻撃してくる前に攻撃する為に威力より速さ重視のアイテムを使ったみたい。

 けれど、ひるんだだけでそのまま頭上の火の玉を投げつけてくる。


「これに入って!」


 私はカバンから盾を出現させるアイテムを取り出して私達の前に展開させる。

 何とか火の玉が直撃する直前に展開できたから攻撃を防ぐ事に成功した。

 相手が一瞬でもひるまなかったら直撃してたかもしれない。


「な、なんとか助かった〜」 

「まだ来るわよ」


 魔物は今度は巨大な氷柱を作り出して私達へ投げつけた。

 

「こ、こんな大きいの耐えられないよ〜」


 前に展開している盾がミシミシと音を立てながら少しずつひび割れていく。

 ――このままだと壊われちゃう。

   

「仕方ない。とりあえず盾は放棄しましょう」

「そうだね。じゃあ右に逃げよ――せ〜のっ」


 私達が横に飛んだと同時に盾が粉々に砕けてそのまま地面に突き刺さった。


「いてて。凄い威力だね。こんな時に使える道具何かあったかな」


 私がカバンの中を確認した一瞬のスキに魔物は私の下に魔法陣を出現させた。

 なんだか凄く嫌なプレッシャーを感じる。


「えっ、なにこれ?」

「――危ないっ」 


 私は突然横から来た何かに弾き飛ばされて魔物の攻撃を回避する事が出来た。

 ――けど。


「――きゃああああああっ」


 私を助けてくれた娘が代わりに攻撃を受けてしまった。

 完成した魔法陣からは電撃が発生して全身に襲いかかる。


「だ、大丈夫!?」

「え、ええ。――かなり厳しいけどなんとか生きてるわ」

「――け、けど」


 少し見ただけでも電撃に焼かれて服がボロボロになって体からかなり体力が奪われているのが解る。


「大丈夫よ。この前作ったエリクサーを使えばね。――私のカバンに入っているから出してくれる?」


 私はカバンの中を必死になって探してエリクサーを見つけ出してその娘に使った。

 使った瞬間みるみる傷が塞がっていき即座に全快したみたい。


「わ~。すご~い」

「でもいくら回復手段があってもこのままじゃジリ貧ね」

「わ、また攻撃してきた」


 今度の攻撃も私を狙ってきて、私は必死に避けようとしたけど今回は直撃してしまった。


「ぐへぇ~。痛いよ~」

「ほら、予備をあげるからしっかりなさい」

「ありがと~」


 私は渡されたエリクサーを使って傷を治した。


「わ~。凄い効き目だね~。――ってあれ? 中身が減ってない?」

「改良して無限に使えるようにしたから使っても減らないわ。だからそれを持ってれば即死でもしない限り平気なはずよ」


 やられはしないけど魔物に攻撃されてエリクサーを使うのを繰り返してる状況が続いて全く活路が見いだせないよ~。


「――何か。何かこの状況を打破出来るアイテムがあれば」

「早く回復しないと危ないわよ」

「……あれ。なんだっけこれ? あっ、そういえば」


 私は砂時計の形をしたアイテムを取り出して掲げた。

 私の中の時間が加速していくのを感じる。


「え~いっ」


 私は即座にエリクサーを2回使って体力を回復する。

 体力が回復するのを感じた後、何も効果が無いのも感じた。


「え? 貴方一体何をしたの?」

「えへへ~。建物の時間を早めるアイテムを作った時に1度に3回行動出来るようになるアイテムもできちゃったんだよ~」

「なかなかのアイテムを持っているのね。これでなんとかなりそうだけど何で2回も回復したのよ?」

「えっと。それが攻撃出来るアイテムを持って来て無くて……」

「なら何でも良いから持ってる物でも投げなさいよ」

「そんな事言われても~」


 爆弾なんて持ってきてないし、回復薬を投げたら回復させちゃうし何にも無いよ~。

 

「――あれ? 何か黒いのが入ってる」


 私はカバンの中から真っ黒の物体を取り出す。


「ああ~。私のお昼ご飯に持ってきた黒パンがカチコチに固くなってるよ~」

「どうやら速度が加速した事によってカバンの中のアイテムの時間も進んで黒パンが乾燥して固くなってしまったみたいね」

「こんなの食べられないよ~」


 私は魔物に黒パンを投げつける。

 魔物に当たった瞬間、黒パンは大爆発を起こして魔物にかなりのダメージを与えられちゃったみたい。


「あ、効いてる?」

「攻撃アイテム持ってきてるじゃない」

「えっと……これは攻撃アイテムじゃないんだけど」


 まあこうなったら仕方ないか。

 私は3回行動出来るアイテムを使う。無限エリクサーで回復する。黒パンを投げつける。の順番で魔物にダメージを与えていく。


「これが最後のいっこ。え~い」

 

 カバンの中に入れてある黒パンを投げ尽くしてやっと魔物をやっつける事が出来た。

 

「ふぅ。なんとかなったみたいね」

「私のお昼ごはんが~」

「後で私のを分けてあげるから早く花を採取して戻るわよ」

「わ~ありがと~。楽しみだな~」

「いいから早くして。大会に間に合わなくなるわよ」

「そうだった~。急いで戻らないと~」


 私達は巨大樹の根本に駆けつけて花を確認する。

 流石に一番深い場所にある為か、品質の良いのしか無いね~。

 採取を終わった私達は会場へと帰っていった。


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