第31話
――数分後、私は会場のとなりに茂っている森の入口へとたどり着いた。
「あら。やっぱり貴方も来たのね」
「うん。そっちも神話級のアイテムを作るの?」
「そりゃあ、あんな条件を出されたらそうするしかないでしょ。見た感じ全体の3割くらいが気が付いたって感じね」
「そうだね~」
やっぱり全国大会だけあって素材の知識がある人は結構いるみたい。
それに、いい素材を使っていいアイテムを作るって事は難易度も跳ね上がるわけで、あえて安定を取って倉庫の素材だけで作る学校もあるような気もする。
――けど、私達の目標はあくまでも優勝。
妥協をして順位を下げるわけにもいかないから全力で最高のアイテムを作らないと!
「せっかくだし一緒に探す?」
「いいの? それじゃあ一緒に探そっか~」
これは思わぬ助っ人が現れちゃったかも。
試合で戦うライバル同士だけど、協力できる所は助け合わないとだね~。
「それじゃあ行きましょうか」
「あっ、ちょっと待って。えっと――目的地は何処にしよっか?」
私はカバンから森の地図を取り出して広げると、相手はある1点を指で指し示した。
「この森の一番奥に巨大樹があるのは知ってる? その木の根本に行こうかと思ってるのだけど、どうかしら?」
「そうだね~。私もそこがいいと思うかな」
一応森の入口に入ってすぐの河下でも採取する事は出来るんだけど、それだと花の品質があまり良くないんだよね。
奥に進めば進む程、品質の高い花が咲くようになって森のちょうど真ん中にある大樹の根本に最高品質の花が咲くと言われている。
少しでも良いアイテムを作る為にも少しでもいい素材を集めないとだね。
「じゃあ、改めて行きましょう」
「森の深い所は危険もあるから注意して行こうね」
私達は森の中へと足を踏み入れた。
普段は静かな森だけど、今日は大会で何人かが入っているから少しだけ騒がしい。
周辺からは大会出場者達の声が聴こえる。
「こっちにあったぞ」
「なにこれ枯れてるじゃないの」
「これは違うやつなんだけど」
いろんな声が飛び交う中、私達は声のする方向とは違う道へと入っていった。
「近くで済ませる人も結構いるみたいだね~」
「そのようね」
奥まで取り行くとそれだけ時間がかかるので、調合に時間を割くために近場で済ませる事も間違いとは言え無い。
それに奥まで辿り付けたとしてもそこに必ず咲いているという保証は無いので、結構運要素も絡んでくる。
奥への道を軽く見てみると真新しい足跡が何個か確認できた。
「奥に向かってる人も結構いるみたいね」
「少しでも高得点を取るためには行くしかないからね~」
「ところで貴方はこの森に材料を取りに来た事はあるの?」
「何回か来た事があるよ~。けど月蝕の日には来た事が無いし奥にも行った事は無いかな~」
「私は1回だけ巨大樹まで行ったことはあるわ。けど月蝕の日に入るのは初めてだから実際に咲いている所は見たことが無いの」
「そうなんだ。けど巨大樹までの道が解るだけで心強いよ~」
「そう言ってもらえるのは嬉しいんだけど、あまり期待はしないでね? ――――まあ他にも向かってる人がいるみたいだし私達も進みましょう」
――私達は森をしばらく進む。
さっきより人が減っているためか少しだけ静かになったみたい。
「あれっ。何か見えて来たよ~」
「あれは――遺跡かしら?」
木々の影から遺跡の様な建物の入り口が顔をだした。
建物にはツタが絡まっていてかなり古い建物みたいだけど、入り口の所のツタが排除されていて誰かが入っていった形跡があるみたい。
「確か遺跡の周辺でも咲いていたわよね?」
「そうだね~。ここの辺りだと品質はそこそこ良いのが咲いてるはずだけど、どうしよっか?」
「私は最高のアイテムを作るつもりだから最高品質の花が咲いている場所まで行くわ」
「私も同じかな~。じゃあここは無視して先に進もっか」
「そうね。時間も無いしこのまま先に――――」
「きゃーっ。誰か助けてぇえええええ」
「あれ? どこかから声が聴こえてこない?」
「遺跡の中――からかしら?」
遺跡の中に耳をすますと、奥の方から女の子の悲鳴とガシャンガシャンと何かがが動いている音が風に乗ってかすかに聴こえてくる。
「えっと――ちょっと様子を見に行ってみない?」
「あまり寄り道をしていたら時間的にかなりギリギリにならないかしら?」
「それでもちょっと気になるというか。――それにもしトラブルが起きてたら誰かが助けないと大変な事になるかもしれないよ?」
「――そうね。それじゃあ様子だけ見に行って必要なら助けるって感じでいいかしら?」
「うん。私達も先を急がないとだし大丈夫そうなら本人に任せていいと思う」
「じゃあパパっと行きましょ」
――私達は遺跡の中へと入っていく事に決めて入り口の階段をコツコツと下って行く。
なぜだか中は思ったよりも明るくて暗くて先に進めないって事は無さそう。
「これは――――壁が発光しているのかしら?」
「何で光ってるんだろうね~」
私は青白く光っている壁を右手でコンコンと叩いてみるとよく知っている手触りがする。
「あれ? この建物ってもしかして錬金術で作られた物かも」
「そうなの? ――――あら。確かにこれはそうかもしれないわね」
「この発光色は――古代錬金術かな? 博物館で見たのと似てる気がする」
「私も本で見たことがあるわね。これは近代錬金術では絶対に発現しない色――いったいここは何なの?」
「あ、もうすぐ下に着くみたいだよ~」
階段の下にある部屋も青白い光に包まれているみたいだし明かりは必要なさそうかな。
けど、何かが動いている音もどんどん大きくなってるし、ここからは少し注意して行かないとだね。
――私達は地下へと到着して部屋の中を確認すると、巨大な何かから逃げまとう女の子が視界に入ってきた。
「えっと、あれはゴーレム――――なのかな?」
「ただのゴーレムでは無さそうね。古代の技術で作られてたこの遺跡のガーディアンって感じかしら」
ゴーレムも体から遺跡と同じように青白い光を発光していて動きも結構機敏な気がする。
私達がゴーレムに気を取られていると、襲われている女の子がこっちに気が付いて声をあげて助けを求めてきた。
「お~い。そこのひと~見てないで助けて~」
「――って、言われてるけどあんなのどうやって止めればいいのかな?」
「――仕方ないわね。ここは私にまかせて」
私は言われるまま後ろに下がると、その娘はスカートを軽くめくってその中に両手を入れて太ももに付けてあるホルスターの様な物から球体の物体を両手に4つづつ取り出した。
「水晶玉? ――にしてはちょっと小さいような」
「宝玉(オーブ)よ」
そして、取り出したオーブをゴーレムに向けて投げつけるとオーブはゴーレムの周辺を取り囲むように周りだした。
「あ、でも弱点属性とかじゃないとダメージを与えられないかも」
「大丈夫よ」
そのままゴーレムに向けて指をパチンと鳴らすと、オーブはゴーレムに向かって収束していって小さな爆発を起こした後にゴーレムは粉々に砕け散った。
「私のオーブはそれぞれに違う属性が入っているの。だからいちいち弱点属性を調べたりする必要は無いってわけ」
「すごいね~」
八属性同時攻撃なんて凄いな~。
ってもしかしてこの娘凄く強いんじゃ。
戦術競技に出てたら1人で優勝できちゃうかもしれないくらいの実力なのに何で調合に出場してるんだろ?
――まあ、理由は人それぞれなんだし聞くのも失礼だよね。
「いや~助かったよ」
「大丈夫ですか~?」
先程までゴーレムに追いかけられていた女の子がこっちへと歩いてきた。
見た感じ怪我とかはしてなそうでよかったな。
「どうしてこんな所にいるの?」
「それがさ、私はこの森によく材料を探しに来てるからこの辺のことは詳しいんだけど。普段は閉じていたこの遺跡の扉が開いてたからどうしたんだろ~って確認しに中に入ったらちょうどそこのゴーレムが起動して襲われたってわけ」
「――全く。大会そっちのけで遺跡探索なんて余裕があるのね」
「いや~ちょっと好奇心が勝っちゃってさ~」
「あれ? 普段はこの遺跡って入れないの?」
「そだよ。なぜか今日は扉が開いてたんだ」
「一体何があったのかしら。――もしかして月蝕と何かが関係してるとか?」
「そんなことより早くここからでない? 私襲われて早く安全な場所に行きたいんだけど」
「そうだね~。じゃあとりあえず上に戻ろっか」
私達が外に出ようとすると周りに地響きが鳴って壁に立てられている棺桶の様な物の扉が開きだした。
「な、なんの音?」
「そ、そう言えば私が襲われる前にもこんな音がしたような」
「部屋中にある箱の扉が開いてるみたいね」
扉が完全に開いた所で音は鳴り止んだみたい。
なんとか助かった――かな?
「ふ~。びっくりだよ~」
「なにか出てくるわ」
「あれはさっきのゴーレムじゃ」
さっき倒したのと同じゴーレムが部屋中から出てきて私達は囲まれてしまった。
「――さすがにこの数はまずいわね」
「さっきのでやっつけられないの?」
「私のオーブはあくまで単体用で複数での戦いには向かないのよ」
「そ、そんな。せっかく助かったと思ったのに――」
「大丈夫。今度は私にまかせてよ」
「何か作戦でもあるの?」
「作戦というか複数用のアイテムがね~」
私はカバンから大型の火炎爆弾を取り出した。
このアイテムは複数をまとめて攻撃出来るアイテムだし火力も申し分ないからこの場で使うには良さそうだ。
「じゃあいくよ~」
「――あ、ちょっとそれは止めなさい」
「――ほえ?」
私はそのまま爆弾をゴーレムの中心へと投げつけたら床に着弾した瞬間にゴーレム全てを巻き込んだ大爆発を起こして、ゴーレムを一掃する事に成功した。
「ふう。何とかなっ――――」
「て無いわよ」
「え?」
「こんな場所で火力の高い爆弾なんて使ったら……」
「――そう言えば何か変な音がするような」
「みんな外に逃げるわよ。急いで」
「これは崩れちゃうね」
「わ~。二人共まってえ~」
私達は崩壊を始める遺跡の階段を必死になって登っていった。
そして、私達が脱出したと同時に遺跡はガラガラと音を立てながら崩れちゃった。
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