第30話

「みんな、ただいまぁ」

「――ただ今戻りました」

「あっ。2人共おつかれ。1番なんて凄いじゃない」

「まあ希が本気出したらこんなもんだよっ。会場にビール瓶が落ちてたらもっと活躍できたんだけどねっ」

「――希さんそれは反則です」

「そういえば錬金術で作った物以外の武器の使用は禁止だったね。やっぱり錬金術で作ったビール瓶を持っていくべきだったよ」


 ……それも問題無いんだろうか。


「それにしても最後のロボットには驚きましたわ」

「あれは、希さんがロボット部から設計図を強奪――――お借りして来て作った物です」

「そうだったんだ~。後でロボット部の人達にお礼言わないとね~」

「……いや、さっき明らかに強奪を言い直したよね? 後でクレームとか来ないよね?」

「ちゃんと合意してレフェリーを呼んでからロボバトルで決着を付けたから問題ないよ」

「――希さんが設計図を金庫から盗み出したのを見つかって、返してほしければロボバトルで勝負をするといった流れになった感じでした。一応後で私が謝りに行ったらロボット部の人もいつもの事なので気にしないでくれと言ってました」

「希はたまにロボットの操縦をしに遊びに行ってるんだよ」

「普段から交流があったのですね」

「だからロボットの操縦が出来たんだね~」

「――それって希ちゃんが勝手に乗り込んで暴れてるだけじゃないの?」


 なにはともあれ、これで総合優勝への道が見えてきた。

 しがみついたこの手を絶対に離してはしけない。

 喜び合う暇も与えないまま、控室のスピーカーからアナウンスが流れる。


「――次の競技が始まります。参加する選手の方は会場にお集まり下さい」

「あっ、私達はそろそろ行かないとだね~」

「先輩達も頑張ってきて下さいね」

「もちろんですわ」


 美里先輩と奈津美ちゃんは控室を出て会場へと向かっていく。


「私は観客席に行くけど2人はどうする?」

「希は疲れたからちょっと休憩するねぇ」


 希ちゃんは部屋に置いてあるクッションに顔からポムっと倒れ込んでそのまま眠ってしまった。


「唯ちゃんはどうする?」

「私も疲れてしまったので、ここで希さんと一緒に休憩してます。先輩方の試合はモニターで応援していますね」

「そっか。じゃあ私は席を確保したいからもう行くね」

「――はい。私と希さんの分の声援を届けてきてください」

「了解。それじゃ後でね」

「――はい。いってらっしゃいです」


 ――そうして控室には希と唯の2人だけになった。


「――ふう。なんだか私も眠くなってきちゃいました。応援をしなくてはいけないのですが、ちょっとだけ横になるとしましょう――――希さん。お隣失礼します」


 そして控室には幸せそうに寝息を立てている2人の少女だけが残った。


 ――いっぽう調合競技の会場では。


「今回は前回の雪辱を晴らしますわ」

「そうだね今回は慎重にいかないとだね~」 


 ――けどあまり慎重に行っても良い順位にはなれないから、それなりに難しい物を作らないとだね。

 せっかく希ちゃんと唯ちゃんが一番を取ってくれたんだし私達も5位以内に――――ううん。今回は1位になる気持ちで行かないと。


「奈津美ちゃん。やっぱり一番を目指そうね」

「わたくしは最初からそのつもりですわ」

「そうだったね~」


 奈津美ちゃんはいつも全力で心強いな~。

 私も頑張ってついていかないと。


「――あら? 一番を取るつもりなの?」

「あっ、久しぶりだね~」


 前々回の大会で隣同士で戦って僅差で私の負け。前回の大会では見事1位を取った娘だ。


「貴方との対決も今回で決着がつくのね」

「決着って言われても私の2連敗じゃないかな~」

「一年生の時は2連勝したじゃない」

「あれは先輩がメインで私は手伝ってただけだし勝ったってわけじゃ……」

「ともかく。私の気がすまないから今回こそ勝負よ。それに前々回の大会では貴方は1人だったし前回は無理をしすぎて未完成。――これでは勝った気がしないわ」


 う~ん。私自身は勝ってる気はしてないんだけど最後の勝負なんだし私も全力で答えないとだね。


「そうだね、私達も絶対凄いの作るから勝負だよ。それに今回私達の学校は優勝を狙ってるからね~」

「そういえば戦術競技では1位を取ったみたいね。私達の学校は5位だったからここで巻き返しをさせてもらうわ」

「――お二人とも、お話もいいですがそろそろ始まるみたいですわよ」


 会場の前にある高台を見ると審判員さんがそこへと歩いている途中だった。


「ほんとだ。それじゃあまた後でね~」

「ええ、また後で」


 しばらくして定位置に立った審判員さんが試合の説明を始める。

 一応お題に何を出されてもそこそこの物を作れるくらいの練習はしてきた。

 ――けどさっきの娘は間違いなく最上級アイテムを作ってくると思う。

 中途半端な物を作ったら絶対に負けちゃう。

 お願い、なんとか私の得意な種類で――――。


「今回の試合で調合してもらうアイテムを発表する。――――今回の題材は爆弾とする」


 爆弾か――――これはなんとかなりそうかな。

 これまでも色々と作ってきたんだし、今まで培ってきた物を全て出し切れば絶対にいい結果につながるはず。


「――そして、今回は倉庫だけでなく会場横の森での材料調達が許可される。各自の判断で向かうように。――――それでは開始」


 ――えっ。横の森での材料調達ってそれってもしかして。


「――先輩どうしたのですか?」

「――あっ――うん。今回作る物が決まったよ。黄昏の炎ラグナロクを作ろうと思ってるんだけど……どうかな?」

「それは――最上級アイテムではなく更に上の神話級アイテムですわね。けど失敗してしまう可能性もかなり高くなりませんか?」

「ううん。今日は丁度月蝕(げっしょく)の日だから隣の森で今日しか咲かないアスフォデルスって花が咲くの。多分何人かはそれを使った神話級のアイテムを作ってくると思う。だから今回は私達も神話級のアイテムを作らないと上位に入ることすら難しいと思う」

「そうでしたの…………わかりましたわ。では、わたくしも全力でサポートいたしますわ」

「奈津美ちゃんありがと~」

「それで。わたしくは何をすればいいんですの?」

「あっ、ちょっと待っててね~」


 私はメモを取り出して材料を書き記していく。

 えっと、あれとこれと……あっ、あとこれも必要だった。

 私は書き終わったメモを奈津美ちゃんに手渡した。


「はい。ここに書いてあるのを倉庫からお願いね~」

「わかりましたわ――――えっ、これって前回の?」

「うん。じゃあ私は隣の森に急ぐから頼むね~」


 私は超特急で森へと走っていく。

 周りを確認すると、もうすでに役割を決めて素材調達に向かっている学校もちょくちょくいるみたいだった。


「これはちょっと急がないときついかな~」

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