第29話
それから私達は勝ち続けて、とうとう決勝戦まで来ていました。
「――最後の相手はどちらも杖の様ですね。二人共オーソドックスな錬金術師タイプだと思われます」
「杖なら特に対策とか必要無いねぇ」
「そうとは限りません。杖で叩かれたら結構痛いと思います」
「それは凄く痛そうだよ。どうやって対策しよっか?」
「まずは杖に仕込み武器が隠されている事を考えた方が良いと思います」
「もしかしたら杖から火が出てくるかもしれないよ!」
「――杖から火が出るのは結構普通だと思いますが、注意しておいたほうがいいですね」
「希もマジックの練習しとくんだったよ」
「――相手はマジシャンではなくて錬金術師なんですが」
ともかく相手も決勝まで勝ち残った人達なのでかなりの強敵なのは間違い無さそうです。
今回の作戦はどうしましょう。
「…………希さん。今回は好きに戦って下さい」
「わかったよっ」
正確には今回もなんですが、思えば結局1度も作戦通りに事が進んだことは無かったですね。
……自分でもお互いに近接武器でコンビネーション攻撃なども特にしないでよく勝ち残れてこれたなと思います。
それでも決勝まで進んでこれたって事はもしかして相性が凄く良かったのでしょうか。
――私達の最後の試合がもうすぐ始まります。
私は1年生で希さんは2年生なので一応まだ来年も組めるのですが、今年で最後にしない為にも何としても勝って次につなげませんと。
――試合開始のカウントが始まった。
相手はどう動くのか解らないけれど、まずは希さんの行動に合わせて私も動いてみよう。
――3――2――1――ゼロ。
最後の試合が始まった。
希さんはどう動いたのでしょうか。
私は希さんの行動を確認してみたけど。
希さんはその場に立ったまま動こうとはしていなかった。
「――あの。どうして立ったままなんでしょうか?」
「やっぱり最後くらいは唯ちゃんの作戦通りに動こうかと思ったんだよ。さあ、何でも言っていいよっ」
……最後まで予定とは違ったスタートになってしまいました。
「とりあえず相手に攻撃してください」
「わかったよ――って、わわっ」
「――えっ?」
突然私達を炎が包み込む。
まずいです。このままだと開始早々いきなり負けてしまうかもしれません。
「――さすがに一瞬の油断を見逃してくれるような相手ではないようですね」
「わぁ~っ。このままだと落ちちゃうよぉ」
炎の勢いで私達はじりじりと後ろへ押されてしまっている。
「――セイッ」
私は剣で炎を横に斬りつける。
炎は真ん中から2つに斬られて空中へと発散していった。
「希さん大丈夫ですか?」
「大丈夫だよっ」
「それは良かったで――――あの、あまり大丈夫では無い気がするのですが」
「ほえ?」
希さんの衣装が相手の炎で少しだけ燃え落ちてしまっています。
「あの――希さんの服が――」
「ああ、これくらいならまだ動けるから大丈夫だよっ」
ダメージ的な事を言っているのでは無くて羞恥心的な事を言っているのですが、希さんには恥じらいと言う物が無いのでしょうか。
それとも試合に集中してそんな事を気にしている場合ではないのか。
そうでしたら私も見習わなければいけませんね。
「俺の炎を防ぐなんて中々やるじゃないか」
対戦相手の人は赤い液体の入った試験管を持って私達を見ています。
あれを使って先程の炎を発生させたのでしょうか?
炎使いとは結構やっかいな相手です。
――といっても、まだ相手の情報が少ないので断定するのは危険ですね。
「とりゃああああああああ」
「あっ希さん。迂闊に近づいては――」
希さんは相手に向かって走っていってしまいました。
相手の方が赤い液体の入った試験管を握り潰すと手に火の玉が握られてそれを希さん目掛けて投げつけてきます。
「とっときな」
「お返しするよっ」
希さんは自分に向かってきた火の玉を手に持っているハンマーで打ち返しながら進んでいっています。
さっきは不意を疲れたので直撃されてしまいましたが、見えているのならそんなに簡単には当たりません。
「いっくよぉ。希クラーッシュ」
「――チィッ」
希さんは相手に向かってハンマーを横に振り払った。
相手の人は杖でガードしようとしましたが、希さんの走る勢いの乗ったハンマーの攻撃を防ぐことは出来ずにそのままクリーンヒットしてエリアの外へと飛んで行きました。
「まずは1人だねっ」
「――希さん。まだです」
相手は会場の壁に激突する前に空中でくるりと向きを変えて足を壁側に向けた。
そしてその状態のまま壁を蹴ってリングへとジャンプして復帰しようとしています。
ルールでは床に足を付けたら場外となるので壁は空中セーフと書いてありました。
「――けどあの距離から戻ってくるのは無理じゃない?」
壁からリングまでは30メートルはあるので幅跳びの世界チャンピオンでもなければ難しそうです。
「こうやるのさ!」
相手はポケットから緑色の液体が入っている試験管を取り出して握り潰すと、会場内に突如風が吹き荒れた。
そして風の力を利用して大ジャンプを繰り出してきました。
――炎だけではなく風も使えるなんて。
「――やらせません!」
私はカバンから飛び道具の風車を取り出して相手に投げつけた。
相手を絶対にリングに戻してはいけない。
「こっちもやらせないわ」
――しまった。
相手がもう1人いた事を失念していました。
私の風車はもう1人の杖で全て叩き落されてしまった。
「希じゃ~んぷっ」
希さんは相手を復帰させまいと自分も風を利用して大ジャンプして、復帰を目論む相手の頭上からハンマーを真下に振り落としました。
――そして、そのまま2人は場外へと落下していきます。
「ちっ。こんなすぐ退場してたまるかっての」
相手は落下しながら今度は白の液体の入った試験管を下に向かって投げつけました。
直後、急に会場全体を冷気が襲い私は身震いしてしまう。
「これは――雪?」
突如会場に雪が降り始めてどんどん積もっていきました。
そして数秒後にはリングの場外が全て雪で埋まる状況になってしまいました。
その後、希さんと相手は雪の上に思いっきり着地をしたようです。
更に着地と同時に爆発がおきて希さんが私の方に飛んできて私に直撃しました。
「――がふっ」
「唯ちゃん大丈夫?」
「……は、はい何とか」
「地面には足がついてないからセーフだよな?」
雪の上にいるわけなので場外の床には足がついていないのでセーフという事ですか。
――そんな事よりも。
「……希さん。相手と一緒に場外負けになる所でしたよ」
「あっ。言われてみればそうだったね。うっかりだよ」
「――ですが、これで場外負けは無くなってしまいましたね」
「そうだね。じゃあ観客席まで飛ばすしかないねっ」
「――どうやらそれしか無さそうですね。とりあえず相手をする方の役割を決めましょう。私が試験管で様々な属性の攻撃をしてくる短髪の方で、希さんはもう1人の長髪の方の相手をお願いします」
「わかったよっ」
「……今回は本当に解ってますよね?」
「ほ、本当だよ」
「――作戦は決まったか?」
短髪の人は結構余裕そうです。
「――いろんな属性の攻撃を使えるのですね。まだ他にも使えるのですか?」
「さあどうだろうな」
これは絶対にまだ何か隠してそうですね。
私は大剣を握り直して向き直る。
「今度は私が相手です」
「いいぜ、かかってきな」
私は相手に向かって走っていくと、今度は水色の試験管で氷の剣を作って投げつけてきた。
「マトが大きければこんなもの」
私は氷の剣を砕きながら距離を詰める。
当たったらダメージは大きそうですけど、その分防ぐのは簡単です。
そして、スキを見て風車を投げつける。
一応、風車にも当たったら風属性のダメージを与える効果があるのですが色んな属性を使える相手にはあまり効果は無さそうなのが心配です。
けれど私はこれしか遠距離武器を用意して来なかったので、少しでも削る事が出来ればと手持ちがある内は投げていくしかないです。
「これは風か? ならこっちは土で行くぞ」
相手は風に強い土属性に切り替えて攻撃を繰り出してきました。
お互いの攻撃がぶつかった場合、弱点属性の攻撃は基本的にかき消されてしまうので私は土で作られた大岩を交わしながら大岩に当たらないように風車を投げなければいけなくなりました。
「――やっかいですね」
こうなったら私も手段を選んではいられませんね。
私は対戦前に希さんから借りていた分身アイテムを取り出して口に咥える。
「――ひぎっ」
私の体から体力がすごい勢いで削られていくのを感じる。
けど、これくらい耐えないとここは乗り切れないから頑張らなくちゃ。
分身した事で何人かは大岩を避ける事が出来たので、そのまま風車を取り出して投げつけた。
――風車は相手に当たる事無く地面に突き刺さった。
「なんだ当たらないじゃないか」
「これでいいんです――希さん出来ました!」
「わかったよ」
私は風車を相手に当てるのではなく魔法陣を描く為に投げたのだ。
風車同士を風が結んでリングに魔法陣が描かれ希さんは詠唱を始める。
「水底の音色よ我に届け
水紋の波紋が雷紋となり汝現れよ
カモン! 来るんだよっ! タツオロボぉおおおおお」
――風で召喚したのに何故か水属性のロボを召喚しようとしています。それにカモンって行ってから来いって何で2回も呼ぶんですか。それにタツオって誰なんです。
「なんだ? 何が起こってるんだ?」
「――これが希達の秘密兵器の巨大ロボだよっ」
魔法陣から少しずつロボットが浮かび上がってきました。
ちなみに一応大会の運営さんに事前確認した所、ちゃんと錬金術で作ったロボを錬金術で作ったアイテムで呼び出すのは問題無いとのことでした。
「希さん。ロボには10秒以内に乗り込まないと消えてしまいます。急いで下さい」
「わかってるよ~」
希さんはいつの間にか50メートルくらいの高さの雪山の頂上に瞬間移動して片手にソリを持っていた。
「ここからスキージャンプすれば10秒で乗れるよ」
「……瞬間移動出来るアイテム持ってるなら直接乗り込んで下さい。それにソリだとスキージャンプでは無いと思うのですが」
「やっぱりロボにはジャンプして乗り込まないとね――それじゃあ、いっくよぉ」
希さんは私の言う事など気にしないで山頂からソリで滑り出した。
かなりの高さと急な角度からソリは凄いスピードを出してロボへと向かっていきます。
「とおおおおおおおっ。希じゃ~~んぷっ」
希さんはソリに乗ったままジャンプして凄い勢いでロボに向かって行った。
――そして、頭からロボに突き刺さってしまいました。
「わああああああん。スピード出しすぎてコックピットが開く前にぶつかっちゃったよぉ」
「……希さん。せっかくの秘密兵器をどうするんですか」
「大丈夫だよ。なんとかレバーに手が届くからこのまま操縦するよ」
「え、大丈夫って。希さん!?」
そのまま希さんが突き刺さったままロボットは動き出した。
「けど希さんそのままだと相手の姿が見えないんじゃ……」
「そこはカンでなんとかするよ」
「そんな事出来るんですか?」
「今から初めてやるからわかんないよ」
「え……」
これは多分何も考えずに暴れる気がします。
私に出来る事はロボの攻撃にあたって同士討ちになるのを避ける事くらいでしょうか。
「そうだ。そういえばこのタツオロボには特殊能力があったんだったよ」
「あの――私はそんな能力聞いてないんですがいつの間に付けたんですか?」
「試合が始まる前だよ」
「急ごしらえすぎます」
「いっけぇ。血液型ビームっ」
ロボの両手からビームが放たれて希さんの対戦相手の長髪の方に命中しました。
けど、特にダメージを受けている気配がないのですが。
「きゃあああ。――って、何よこれ。なんともないんですけど?」
「このビームは相手の血液型がわかるビームなんだよ」
「――相手の血液型が解ってどうなるんですか」
「わかったよ。貴方の血液型はO型だねっ」
「ふふ、凄いわ良くわかったのね」
「あの――適当に言っても4分の1で当たるのでそんなに凄い事ではないと思うのですが」
「そうよ。私の名前は緒方よ」
「血液型じゃなくて名字を当てちゃってます。というか名前を当てるって結構凄い気がします」
「えへへっ。まあ対戦前に名前をみたんだけどね」
「……しかもズルしてます。それに相手の名前より相手の能力を見てほしかったです」
「ノゾミロボいっけえぇ。ノゾミパ~ンチ」
「いつの間にか名前が変わってます」
希さんはロボを操縦して攻撃を繰り出した。
相手の方は攻撃アイテムを使って破壊しようとしましたが、全て弾かれてしまっています。
「――ダメッ。こうなったら防御に集中しなくちゃ」
相手の方は巨大な盾を展開するアイテムを使って希さんの攻撃に備えましたが、希さんの攻撃はそんな盾など物ともせずに壊して相手を観客席まで飛ばしてしまいました。
「やったぁ。――ってわわっ」
「え、ちょっと――希さん!?」
ノゾミロボは勢い良くパンチを繰り出しすぎたせいか体勢を崩して私の方へと倒れてきてしまいました。
「――痛いです」
私は何とか無事ですが、希さんは体勢を崩してしまってもう動けなく無さそうになってしまいました。
「こうなったら後は私が――あっ」
私は大剣を構えると、大剣は真ん中から折れてしまっています。
「どうやらさっきので折れてしまったようだな? もうロボットも動けない様だし後はお前を倒したら俺達の勝ちか。一時はどうなるかと思ったが最後は俺達に運が味方したみたいだな」
「――それはどうでしょう」
「なに!?」
大会での使用を認められている武器は錬金術で作られた物のみ。
――そう、武器は。
私は大剣を投げ捨てて、相手に向かって走り出す。
「何をする気だ」
相手は全ての属性の攻撃を繰り返して来たけど大剣の重さが無くなった私にそれを避けるのは造作もなかった。
「これで終わりです」
「――ひっ」
相手の目の前に到達した私は拳に力を込めて足を思いっきり地面に踏み込んだ。
「正義の鉄拳ジャスティスインパクトです!」
ありったけの気合を込めた私の拳は相手の腹部にめり込んで相手の意識が飛ぶのを確認した。
「――かはっ。なん……だ……これ」
相手がバタンと床に倒れたと同時に試合終了のブザーが鳴って私達の勝利が決まりました。
しばらくしてロボから抜け出した希さんが駆け寄ってきます。
「やったぁ。優勝だよぉ」
「――はい。何とかなりましたね」
「けど最後のアレはなぁに?」
「私の奥の手です。実は昔格闘技を少しやっていまして――けれど、錬金術の大会なので本当は錬金術で勝ちたかったのですが今回だけはどうしても勝ちたかったので」
「そうなんだ。じゃあ今度希がやってるビール瓶相撲と対戦しようよ」
「はい、機会があればお願いします」
ともかくこれで先輩達につなげる事が出来ました。
今後私達は応援する事しか出来ませんが、精一杯応援しませんと。
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