第28話

 一回戦が終わった後、休憩する暇も無くすぐに2回戦が始まりました。


「――次の対戦相手の武器はペンと杖みたいですね」

「ペンで剣に勝てるわけ無いから楽勝だね」

「――それはどうでしょうか。あのペンを投げられて刺さったらかなり痛いと思います」

「それは凄く痛そうだよ。ううっ、遠距離からペンを投げてくる戦い方だったら嫌だなぁ」

「……そんな戦い方はしないから安心しな」


 反対側にいる対戦相手が話しかけてきました。

 ベレー帽を被っていて、美術部のような格好をしているお姉さんです。

 2年生のようですが去年は出場していなかったようでデータが無いので要注意です。


「まあ、遠距離って所は間違って無いけどな」

「だったら希はベンで戦うよ」

「――ベンって何ですか?」

「希のお家のお隣に住んでるベンさんだよ」

「助っ人を呼ぶのは反則なので止めたほうがいいかと思います」

「そうだったぁ。……仕方ないからベンさんには今度手伝ってもらう事にするよ」

「――助っ人を認められている競技は無いと思いますが」


 反則負けになる前に希さんを止める事が出来てよかったです。

 ――けど、相手の方は戦い方を言ってよかったのでしょうか。

 余程自信があるのか、うっかりさんだったのか気になりますね。


「あっ。そろそろ始まるよ」


 希さんの声にハッとなってモニターを見ると、いつの間にかカウントが始まっていた。

 始まる前に考え事なんてしていてはいけませんね。

 私は軽く顔を叩いて試合に集中する事にする。


「今回は相手の出方が解らないので、まずは離れて様子を見ましょう」

「わかったよ」


 今回はコンビネーションが出来そうでよかったです。

 とりあえずカウントが終わったら少し後ろに下がって様子を見ましょう。

 3――2――1――ゼロ。


「希さん。まずは下がって――」

「いっくよぉ。とつげきぃ」

「…………はい?」


 事前に打ち合わせをしたのに希さんは相手に向かって突撃していってしまいました。


「希の辞書には退却という文字なんて無いんだよっ」

「あの――退却では無く待機をお願いしたのですが」

「やる気マックスの希はとりあえず相手に突っ込んで叩く以外の選択肢は無いんだよ」

 ――仕方ありません。

 希さんを1人で戦わせる訳にも行きませんので私も続かなければ。


「――くっ」

 

 私も相手への距離を詰めようと前に進もうとしたら対戦相手の方向から何かが投げられて来たので私はとっさに剣でソレを弾く。

 私の周りをみるとそこには何かが突き刺さっていた。


「――これは――ペンですか?」


 対戦相手の人を見るとペンを両手に5本づつ持って腕をクロスさせて構えていました。


「最初にペンは投げないと言ったね――あれは嘘だ」


 ――これは対戦相手の言う事を真に受けてしまった私のミスですね。

 けれど錬金術で作ったのに床に刺さるだけなんて普通のペンと変わらない気がするのですが。


「――あれ? 何か変な音がするような」


 ジジジと何かが燃えているような音がします。

 これはまるで――。


「いけません!?」


 それが何か認識する前に私は横へと飛んでいた。

 直後、ペンが爆発して爆風が私に襲い掛かる。


「――うっ……かはっ」


 私はリング上を転がりながら地面に剣を突き刺してなんとか落下を免れる事が出来た。

 ……あのままあの場所にいたら間違いなく場外まで吹き飛ばされていましたね。

 そう言えば希さんはどうしたのでしょうか?

 ペンを構えている人から一瞬視線を外して周辺を確認すると、希さんはもう1人の方と戦っているようです。


「いっくよぉ。希インパクトォ」


 希さんは相手の攻撃をハンマーで力任せに粉砕しているようです。

 本能のままにゴリ押しで戦っているようにも見えますが、もしかしたら何か考えがあるのかもしれません。


「――くっ」


 私が一瞬目を離したスキにまたペンを投げつけられた。


「余所見するんじゃないよ」


 余所見するなって言ってから攻撃してくれればいいのに、やっぱりこの人は意地悪さんみたいです。

 ――遠距離だと不利なので何とか近づきたいのですが、不用意に近づくと狙い撃ちされてしまいます。


「――どうしましょう」


 ペンを投げるだけなら単調なので私もなんとか避けられていますが、このままだとお互いにジリ貧なので相手も何かしてくるような予感がします。 


「来ないならこっちから行くよ」


 突然相手の方がペンで空中をなぞりだしました。

 ――あれは。空中に何か書いている?

 そのまま兵隊さんの様な絵が完成したようです。


「さあ行きな!」 

「!?」


 描かれた兵隊さんが実物になって襲ってきた。

 

「えいっ」


 私は兵隊さんを剣で横に斬りつけるとそのまま霧のように消えていった。

 どうやらあまり強い能力では無い――――。

 

「えっ!?」


 私が絵の兵隊さんと戦っている間に相手は数十人の絵を描いていたようです。


「希さん。敵が多すぎます。自動人形(オートマタ)を使えませんか?」

「今は乾電池を充電してるから無理だよぉ」 


 そう言えば途中で電池が無くなる事の対策に単3電池2本で動くように改良してたって先輩方が言ってましたね。

 1回使ったら電池が空になるので予算の都合で充電池を使っていて2回に1回しか使えないのでした。


「でもこんな事もあろうかとスペシャルアイテムは用意してあるよ」


 希さんが何かを私に向けて投げてきたので受け取ってそれを見てみる。


「これは――――巻物――ですか?」 

「分身が出来るアイテムだよ」

「……あの、分身出来るのでしたら自動人形を作らなくてもいいのでは?」

「分身は疲れるからねぇ」

 

 ――そんなにきついのでしょうか?

 けど、相手の軍団が私に迫ってきているので他に選択肢はありません。

 私は巻物を口に咥えて手を合わせて印を結ぶ。

 ドロンという音と共に辺りに煙が立ち込めて、煙が収まった頃にはそこに私が20人くらいいた。


「――くふぅ。――た、確かに――き、きついです」


 あまりの体力の消耗に少しだけ足がガクガクしていますが、なんとか気力で倒れないように体を支える。


「――けど、これなら行けそうです」

 

 私は自分の分身と一緒に相手に向かっていく。

 分身さんが絵の兵士の相手をしている間に私はペンを持っている人をターゲットにして斬りかかる。

 ――キンという金属音の後、大剣が受け止められてしまっていた。


「――えっ? ペンで剣を受け止めた?」

「ペンは剣より強いってね」


 私の大剣も錬金術でかなり強化されているはずなのにそれをペンで受け止めるだなんて、どうやらかなりの錬金術の使い手の様ですね。


「――けど、近距離なら私の方が有利です」 

「ふん。近距離でも絵は書けるんだよ」

  

 近距離からでもお構いなしにペンを投げられたが私はなんとか剣でいなした。

 ――けれど、またもやその瞬間に絵を完成させられてしまった。


「ほら、今度は爆弾だよ」


 爆弾の絵を私に向かって投げてきた。

 私は剣で爆弾を真っ二つにしたけど爆風で吹き飛ばされそうになってしまう。

 そのスキに相手はまた新しい絵を書き終わっている。


「近距離でも厳しいですね」


 希さんもどうやら苦戦を強いられているみたいで少し勢いが無くなっているみたいです。

 それに相手の方は左利きの様なのでちょっとだけ戦いにくそうに思えました。


「左利きの相手ですか――左利き――そうですアレを使えば」


 私はカバンから鏡の形をしたアイテムを取り出して空に掲げた。

 

「反転ミラーです」


 一瞬だけ光がリング全体を包んだ後に消えていく。


「なんだ? 何も起きないじゃないか。驚かせやがって――今から最強爆弾の絵を描いて仕留めてやるよ」


 相手の方は絵を描こうとしましたが何かおかしい事に気が付いたようです。


「ん? 絵が上手くかけない……だと……」

「このアイテムはこの場所にいる皆の持ち物を反転させる物です――つまり貴方は右利きなのに左手にペンを持っているので上手くかけなくなっているのです」

「そんな事なら右手にペンを持ち替えて……何……だと……」

「無駄です。ミラーの効果がある内は全て利き手と反対の手でしか持てなくなっています――そして、私と希さんの大剣とハンマーは両手持ちなので利き手が変わっても何とか扱う事が出来るのです」

「そんな馬鹿な」

「絵を召喚出来ないのなら近距離ではこちらが有利です」


 私は大剣で相手を場外へと吹き飛ばした。

 希さんも何とか相手を撃破したようです。


 ――これで2回戦も突破しました。

 あともう少しです。


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