第27話

 なんだかんだで最後の大会の日がやってきた。

 部活を廃部にさせないために何としても優勝しないと。


「今回が最後の大会だよ。部活を廃部にさせない為にも絶対に優勝しようね~」

「今回の希はやる気に溢れてるから期待してていいよ」

「今回こそ見てるだけじゃなくて自分で戦うのよね?」

「――今回は私も一緒に希さんと秘密兵器を作成したので期待しててください」

「今回の皆さん今回って言いすぎですわ」

「そうだ、唯ちゃんの衣装もちゃんと可愛いの用意してるから期待しててね~」

「――それは楽しみです」

「それじゃあ会場に入りますか」


 私達は5人で会場へと入っていく。

 唯ちゃんの加入で他の学校との参加人数の差は無くなったし今回こそは行けるはず。

 私達は会場へと入っていくと中にいる人数に圧倒された。


「何か前より多くない?」

「最近は大会をする度に参加者が増えていっているようですわね」

「そうなの?」  

「そういえば先週の週刊錬金術に書いてあったよ~」

「――最近は中学から始める人も増えているようです」

「そうなんだ。でも今年は中学で一番だった唯ちゃんがいるから心強いね」

「――そうとも言えません。中学生の大会はまだ参加人数がすくないので個人戦でしたから総合力が重要でした。けれど高校の大会では団体戦で自分の得意分野を選んで参加する事が出来るので、その分野に特化した人が活躍する事が多いようです。中学の時も特定の分野に限定すると私より上位の成績を出してた人も何人かいました」

「……つまり、唯ちゃんより凄い娘と対戦する事があるかもしれないって事?」

「――はい。錬金術は練習も大事ですがいくら練習しても才能の壁を超える事は難しいです。なので生徒が沢山いる学校でも一年生でレギュラーになる事も珍しくありません」

「ちなみに去年の大会も私が一年生の時とくらべると半分くらい出場者の顔ぶれが違ってたよ~」

「そんなに変わる物なんですか?」

「途中で何が掴んで急激に伸びる人もいるからね~」


 これは一年生が相手でも気を抜けないって事ですか。

 まあ最初から手を抜くつもりなんて無いんだけどね。

 ――私達は受付の列に並び、しばらく待つとエントリーをする順番がまわってきた。


「今回の大会は戦術競技2人、調合2人、シークレット1人です」

「シークレットって何ですか?」

「今回から最後の競技は始まる時に発表になります」

「じゃあ希がシークレットやるよ」

「――希さん。希さんがいないと例のアイテムが使えないのですが」

「あっ、そういえばそうだったね。気になるけど今回は他の人に任せる事にするよ」

「――ですので私も希さんと一緒に戦術競技に出場します」


 戦術競技は希ちゃんと唯ちゃんに決まった。

 なんか秘策も用意しているみたいだし期待できそう。


「その~。だったら私は調合がいいな。前回の雪辱を果たしたいし」

「先輩は調合ですか」

「でしたらわたくしも前回の汚名返上の為にサポートいたしますわ」


 調合は美里先輩と奈津美ちゃんと。

 ……あれ、という事は。


「……あの。私が最後の競技で大丈夫なんでしょうか? その……先輩か唯ちゃんの方がいい気もするんですが」


 競技内容が不明なんだし何が来ても大丈夫な唯ちゃんか一番大会出場経験のある先輩が適任かなとも思うんだけど。


「ううん。奈央ちゃんでいいと思う。私はどうしても調合で勝ちたい相手がいるから」

「――私も希さんとのコンビネーションの練習をしていたので奈央さんが最適かと思います」

「そうかな? ううん。そうだね。最後は任されたから皆も頑張ってね」

「任せてよ」

「1位で奈央さんに繋ぎますわ」

「皆さんならきっと出来ます」

「それじゃあいくよ~。祈ヶ丘~」

「お~っ」


 出場種目を決めた私達は控え室へと向かって行く。

 

 

「じゃあ2人共頑張ってきてね」

「任せてよ」

「――最善を尽くします」

「ファイトですわ」

「いってらっしゃ~い」


 二人はお互いに目配せをして控室から会場へと向かっていった。

 私達も観客席へ行って応援しなきゃ。


「私は会場で観戦しますが、二人はどうしますか?」

「わたくしもお供いたしますわ」

「私はちょっとやる事があるからモニターで見てるね~」

「そうですか。じゃあ奈津美ちゃん行こっか」

「そうですわね」

「それでは先輩。私達は行きますね」

「私の分まで応援してきてね~」


 ――数分後。

 会場のリングには希と唯が対戦相手と対峙していた。


「一回戦ですが相手は中々の強豪です。油断しないで行きましょう」

「今回の希は最初から全力だよっ」


 希さんは武器を構えたようです。

 それに続いて私も武器を構えました。

 今回、希さんはハンマーで私は大剣を使います。

 お互い身長があまり高くは無いので大きめの武器を使ってリーチの差をカバーする感じにしました。

 二人とも近接武器を使うのはあまりバランスが良くないのですがアイテムでカバーしていく作戦です。


「ん? 初戦の相手は随分と小さいんだな」

「これは楽勝ね」


 相手の武器は魔力を撃ち出す銃と杖のようですね。

 ――いきなり相性が良くない相手とあたってしまったようです。


「――希さん。相手は遠距離なので開始と同時に距離を詰めましょう」

「わかったよっ」


 もうすぐ私の高校での初戦が始まります。

 チームで戦う為か中学の時の大会とは少し空気感が違う気がする。

 会場も大きいし見ている人も中学の時より凄く多い。

 そして、皆さんから期待の眼差しを向けられているのを感じる。

 そう言えば大会の始まる数週間前に雑誌の記者さんからインタビューを受けたのでした。

 ――そのせいで変に期待をされているのでしょうか。

 中学チャンプと言っても高校ではまだ何も結果を出していないので、あまり期待をされても困るのですが……。

 希さんは大丈夫なんだろうか?

 私は横目でチラリと希さんを確認したら、希さんと目があってしまった。


「あれ? どったの急に? そういえばこの前のインタビューは楽しかったねぇ。希はインタビューとか受けたの初めてだったよ」


 ――記者さんは私のインタビューだけ聞いてすぐ帰る予定だったみたいですか、希さんがインタビュー中に乱入してきてそのままなし崩し的に部員全員でインタビューに答える感じになったのでした。

 希さんと一緒なら緊張などしないで自分の全力を出せそうですね。

 希さんと一緒に出場出来てよかったです。


「――次は優勝インタビューを一緒に受けましょうね」

「そうだね。また記者さんに3時間くらいお話を聞いてもらうよ」


 記者さんも大変な事になりそうです。

 ――そうこうしている間に会場の画面にカウントが表示された。

 最初に数字の10が表示されていて周りのゲージが一周する度に数字が減っていく。

 10秒後に始まるのになんだか凄く長い気がします。

 3――2――1――今っ!。


「――行きます」


 私はカバンから煙幕弾を取り出して前方に投げつけた。

 錬金術で作った物だから普通の物より煙が勢い良く広範囲に広がっていく。

 そのまま私は前方へと走っていった。


「これで、相手の銃は当たらないはずです希さ――――えっ?」


 開始と同時に一緒に走って距離を詰める予定だったのに希さんの姿がそこには無かった。

 後ろを向くと希さんは開始地点にいるみたいです。

 私はリングの丁度真ん中あたりで希さんは一番端にいる。

 私は煙に隠れているけど希さんは相手から丸見えだ。


「希さん。その場所だと狙われてしまいます。早くこっちに――」

「いっくよぉ。希分身の術!」


 希さんは床から煙を出した後、その場で自分そっくりの自動人形(オートマタ)を20体展開した。

 希さんは自動人形の作成が得意で普段は錬金術を代わりにやってもらっているようです。

 本人が練習しないと錬金術は上達はしないと思うのですが、自分が楽をする為に全力で自動人形を作っているようで腕前はどんどん上達していると先輩方が言ってました。

 本当に不思議な人です。


「とつげきぃ」

「くっ。こしゃくな真似を――」

「とりあえず攻撃するわよ」


 相手は銃を希さんに向けて撃ち出したけど自動人形は銃弾を全て弾き返している。

 自動人形と希さんはそのまま相手に向かって突撃していったけど相手は1人ずつに的を絞って攻撃していってる。


「――希さん。このままだとどれが本人かバレてしまいます。ここは一旦引きましょう」


 希さんは私の声が聴こえないのか足を止める素振りなど見せずに相手に向かっている。

 相手もどんどん偽物を判別していって、残るは後1人だ。


「最後の1人まで外れるとは運がいいみたいだね」

「けれど、これで最後よ」

「希さん!?」


 相手の銃弾が最後に残った希さんへと向かっていった。

 ――カン。

 

「――え?」


 本物だと思ってた希さんも銃弾を弾き返して、そのまま勢いに乗って希さん軍団は対戦相手を場外へと押し流して行きました。

 その結果、対戦相手は場外負けになって私達の勝利のようです。

 ……私の高校デビュー戦は何もしないで勝利してしまいました。


「――あっ。 もう終わったの?」

「希さん?」


 後ろの方から希さんの声がする。

 私は振り向くと、匍匐前進のような体勢でスマホで遊んでいる希さんが見えた。

 希さんは小柄なので地面に寝転がると相手からは見えにくかったのでしょうか。


「――もしかしてさっき突撃していったのは全部自動人形で希さんはずっとそこにいたんですか?」

「そうだよ。ちょっとフレンドに呼ばれちゃったから助けに行ってたんだ」


 ……最初に打ち合わせと違う行動をしたのはそういう事でしたか。

 まあ勝てたのですし、ここは結果オーライと言う事にしておきましょう。

 ちょっとだけ今後の事も心配ですが、とりあえずは次の対戦に向けて頑張らなくては。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る