第26話

「いらっしゃいませ~」


 私達は唯ちゃんの入部祝と大会への景気づけを込めて喫茶店へと部員全員で入っていった。

 喫茶店の中に入ったら可愛いウエイトレスさんが出迎えてくれた。


「ご注文はどうされますか?」

「希はブラックがいいな」


 子供っぽいから砂糖とクリームたっぷりのが好きだと思ってたからちょっと意外かも。


「あれ? 希ちゃんブラックが好きなの?」

「そうだよ。希は特にバイオが好きなんだよ」

「……何の事なの?」

「あっ、お姉さん。後ミルクをたっぷりお願いするよ」

「もしかしてブラックって言いたかっただけ!?」

「私は栗ジュースお願いしま~す」

「わたくしはリンゴジュースをお願いしますわ」

「――それでは私はココアをお願いします」

「最後は私か。えっとアメリカンコーヒーでお願いします」

「かしこまりました。ブラック、栗、リンゴ、ココア、アメリカンですね」

「奈央ちゃんの負けだね」

「……注文で遊ばないの」

「それではしばらくお待ち下さい」


 注文が来るまでの間しばらく雑談に花を咲かせる事になった。


「あっ。この喫茶店、机がゲーム機になってるよ。これは絶対にプレイしないと」


 希ちゃんは財布から100円玉を取り出して親指でピーンと上に弾くとそのままコイン投入口に吸い込まれちゃった。

  

「よいしょっと」

「あらっ? ――急に立ち上がってどうかされましたか?」

「もちろん逆立ちしてゲームをやるんだよ」

「……いろいろ見えちゃうから止めなさい」

「じゃあ普通にやるよ。――いくよっ、これが名古屋撃ちだぎゃあ」


 希ちゃんは1人でゲームを始めてしまった。


「――あれ? 先輩は何処かにいったの?」


 希ちゃんに気を取られている内にいつの間にか先輩の姿が消えちゃってる。


「先輩は希ちゃんに頼まれたウインナーを取りに行きましたわよ」

「またそんなベタベタなネタを」

「希ちゃ~ん。サービスでフランクフルトにしてもらったよ~」

「先輩ありがと。じゃあコーヒーが来たら入れよっか」

「いや大きすぎて入らないでしょ」

「先輩やっぱりこれを入れるのちょっとキツイかもしれないよ」

「ほら、今回は希ちゃんも無理だって言ってますよ」

「希マスタード苦手だからケチャップだけが良かったよ」

「ケチャップだけならそのままコーヒーに入れてたの!?」

「う~ん。仕方ないからこれはそのまま食べる事にするよ」

「ごめ~ん。じゃあケチャップだけのを貰ってこよっか?」

「いやケチャップも無しでサイズも普通のソーセージでいいと思いますが」

「奈央ちゃんそれじゃあウインナーコーヒーじゃなくてソーセージコーヒーになっちゃうよ?」

「フランクフルトコーヒーはいいの!?」


 それからしばらくして、ウエイトレスさんがオボンに注文した飲み物を乗せてやってきた。

 

「お待たせいたしました――コーヒーのお客様は?」

「あ、私です」


 ウエイトレスさんは私の前にコトンとコーヒーを置いた。

 

「あぁ、ゲームの画面がぁ。これは心眼で攻撃を避けるしか――」

「……注文が来たんだしもう止めなさい。それにみんなの頼んだのが置けないでしょ?」


 ウエイトレスさんはそのまま皆の前にそれぞれのジュースを置いていったけど、希ちゃんは画面の大半が飲み物で隠されたままゲームを続けてる。

 しばらくして何かが爆発する音と共に画面の中央にゲームオーバーの文字が現れた。


「うぅ。やっぱり画面が見えないからやられちゃったよぉ」

「……当たり前でしょうが」

「錬金術の道具でこんな時に使えるアイテムなどは無いのでしょうか?」

「そういえば特定の物を透視して見る事が出来るのがあったような~」

「――それでしたら丁度持っていますので使いますか?」

「いや、まずはゲームから離れようよ」

「ゲームは遊びじゃないのにぃ」

「じゃあ何なの?」

「生活だよっ」

「生活の一部になってるって事ですか?」

「日常生活を削るって意味だよ。希はこの前ネットゲームのギルドに入る為に徹夜で面接と筆記試験の対策をしたんだよ」

「ゲームの筆記試験ってなんなのよ……」


 まあ、希ちゃんのゲームも終わった事だし乾杯をしますか。

  

「じゃあ唯ちゃんの入部を歓迎して乾杯を――」

「ちょっと待っていただけませんか?」

「どったの?」


 全員が奈津美ちゃんの方を注目すると、奈津美ちゃんの前にはリンゴが1個置いてあった。


「確かここはセルフサービスだからリンゴは自分で搾るみたいだよ」

「困りましたわね。わたくしリンゴを搾る事なんて出来ませんわ」

「奈津美ちゃんじゃなくても搾る事は難しいと思うんだけど、このままだと乾杯出来ないしどうしよっか?」

「――でしたら私が作った筋力が強くなる薬があるので、これを使ってリンゴジュースを作りませんか?」

「わ~。それって結構作るの難しいんだけどやっぱり唯ちゃん凄いね~」

「――いえ、それ程でもありません」

「では、それをいただきますわ。――皆さん失礼します」


 奈津美ちゃんは唯ちゃんの作った薬をゴクゴクと飲んだんだけど……。


「見た目は変わってないね?」

「――はい。筋力が上がるだけで見た目の変化などはありません」

「じゃあ早速やってみてよ」

「それでは――行きますわ」


 奈津美ちゃんはリンゴを手にしてグラスの上で握ると、ジュースがグラスに満ちていく。


「わ~。奈津美ちゃんすご~い」

「……なんだが褒められてもあまり嬉しくありませんわね」

「その薬あとで希にもくれない?」

「――はい。了解しました」


 奈津美ちゃんのジュースも出来上がった事で後は乾杯するだけだ。


「それじゃあ改めて。――カンパーイ」

「カンパーイ」


 ――パリン。


「あれ? 今何か変な音がしたような?」


 奈津美ちゃんの方を見ると、そこには制服がリンゴジュースでぐしょぐしょになってしまっている奈津美ちゃんがいた。


「……グラスが砕けてしまいましたわ」

「そういやリンゴを握りつぶせる位の力でグラスを握ったんだっけ……」

「――ごめんなさい。力を元に戻す薬を渡すのを忘れていました」

「わたくしは大丈夫ですし構いませんわ」


 ――パリン。

 また何か不穏な音がした気がする。

 私が音のした方を見てみると。


「わわっ。希のミルクの入ってる瓶も割れちゃったよ」


 希ちゃんも制服がミルクでビショビショになっていた。


「もしかして希ちゃんもさっきの薬を飲んだの?」

「うん。待ちきれなかったからね」

「希ちゃんは食いしん坊だね〜」

「――いつの間にか取られていました」


 せっかくの歓迎会なのにいつもみたいにめちゃくちゃになっちゃってる……。




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