第25話

「みんな〜。進級おめでと〜」

「ありがとうございますわ」

「希は余裕だったけどね」


 部室には和気あいあいとするいつもの光景があったんだけど私だけは焦りを感じていた。


「おめでと〜。じゃ無いです。次の大会で優勝出来なかったら部活が無くなってしまうんですよ!」

「あれ? そうなの? 希はそんな事初めて聞いたんだけど」

「わたくしもですわ」

「あ〜。そう言えば二人には言ってなかったね〜」

「――そう言えば私も言うのを忘れていたような」

「奈央ちゃん。うっかりさんだねぇ」

「ともかく。次の大会は必勝です。その為には部員集めを頑張らないと」

「大会は一つの学校につき五人までのチームが認められている訳ですからね」

「その〜。前回はゴメンネ〜。ああっ思い出してら涙が――」

「先輩、過ぎたことはしかたないですし。まずは部員の確保について話し合いましょう」

「そうだね~。まずは人数をあつめないとだね」

「けど前の大会は散々だったねぇ」


 前回の大会は200校中160位とかなり散々な結果で終わってしまった。

 具体的な内容はまず最初の戦術競技は今回も希ちゃん1人で出場したんだけど、前回使用したアイテムは女生徒の大量の抗議によって使用禁止アイテムになってしまい急遽新しい攻撃アイテムを用意しての参戦になってしまう。

 それで、希ちゃんが新しく選んだ武器は自動人形(オートマタ)だ。

 自分は椅子に座ってゲームをしているだけで自動人形が勝手に対戦相手をどんどん倒していってしまいそのまま優勝――――って思ったけど途中で自動人形の電池が切れて動かなくなって途中棄権しちゃって結果は16位。

 前回に引き継ぎ今回も対戦中は自分が何もしない事は変わらなかったってわけね。

 ……最後の大会は本気で戦ってくれるといいな。


 次の調合は美里先輩と奈津美ちゃんの2人で参加したんだけど、他の学校が作る上級アイテムに対抗して自分たちは最上級のアイテムを作ろうと頑張ったんだけどちょっと失敗しちゃってそのまま棄権する事になってしまう。

 最後の私の競技もなんとか頑張ろうとしたんだけど、やる気が空回りしちゃって順位はかなり下の方に。


「それで、部員勧誘の方法なんだけど――」  

「――あの。錬金術部の部室はここでいいですか?」


 私達が入口を向くと小柄で髪の長い少女が立っていた。

 制服がここの生徒のでは無いから他の学校の生徒か中学生だと思う。


「そうだけど貴方は?」

「初めまして。私は、唯(ゆい)と言います。今年からこの学校に通う事になったので手続きのついでに入部予定の部活の見学にきました」

「そうだったんだ。勧誘する前に訪ねてくるなんて、もしかして中学校で錬金術をやってたとか?」

「――はい。少しだけやってました」

「おおっ。これは期待の新人だねぇ」

「あら? この娘どこかで見た事がある気がしますわ」

「そういえば私も見たことがあるような~」

「先輩まで知ってるって事はもしかして錬金術で有名なのかな?」

「ああ~。もしかして去年の中学錬金術大会チャンピオンの唯ちゃんかな?」

「言われてみれば、わたくしも雑誌で見ましたわ。――確か10年に1人の天才少女だとか」

「むむっ。それは希に強力なライバル出現だねぇ」

「……いつから希ちゃんが10年に1人の天才になったの」

「もちろん今からだよっ。しかも希は100年に1人の天才なんだよ」

「わ~。希ちゃんすご~い」

「先輩も悪ノリしないでください。――ほら、唯ちゃんも引いてますよ」

「――でしたら私は1000年に1人です」

「唯ちゃんも乗ってきた!?」

「1000年に1人なんてこれまで錬金術に専念してきたのですね」

「いや、それあんまり上手くないよ?」

「もう希は1000人に1人でいいや」

「……希ちゃんもう飽きちゃったの!?」

「1000人に1人の錬金術仙人ですわね」

「じゃあ私が希ちゃんを錬金術仙人に専任するよ~」

「おおっ。希いつの間にか仙人になってたよ」


 ――数分後。

 なんとか場が収まったので唯ちゃんにここに来た経緯について聞く事にしてみた。


「それにしても何でこの学校を選んだの? 中学チャンピオンなら他の有名校から引く手あまただったんじゃない?」

「――実はこの学校に身内が努めていまして、その人がちゃんと生活出来ているかを確認してくれと家族に頼まれているんです」

「一体誰ですの?」

「――岸野(きしの)先生です」

「あっ。それってもしかしてこの部活の顧問の岸野先生かな~?」

「……この部活って顧問とか居たんですね。てか顧問なんて1度も見たことが無いんですけど」

「美術部と剣術部も掛け持ちで顧問してるからね~。いつもはそのどっちかにいるよ~」

「そもそも美術と剣術と錬金術って全く関係性が無さそうなんですが大丈夫なんですか?」

「わたくしは美術で岸野先生の授業を受けていますけど凄く絵の上手な方ですわ」

「そういや希の受けた格闘技の授業で竹刀二刀流で30人倒してたよ」

「それに錬金術の腕も凄いんだ~」


 ……本当に全部の分野で相当の腕を持ってるみたいね。 


「そういや希ちゃん格闘技の授業なんて受けてたの?」

「そうだよ。希は昔に少し習ってたブーメランと空手を組み合わせた全く新しい格闘技でうおおおおおおお~っ! って言いながら突撃して行ったらしゃがみガードされたんだ。あれは知ってる動きだったねぇ」

「……へ、へえ~。そうなんだ」


 ここはスルーしておこう。


「けど中学生チャンプが入部してくれるだなんて正直かなり心強いですわね」

「これは優勝が見えてきたかも~」

「じゃあ祝勝会(しゅくしょうかい)でどっか行こうよ」

「けど部費が縮小されたのであまり良い場所にはいけませんよ?」

「チクショウ。いつの間にぃ」

「まあ予算は少々余裕があるから大丈夫だよ~」

「そだね。次の大会は楽勝だしね」

「……その確証は一体どこからくるの」

「希。行きたい所があるんだけど一生のお願いだから駅前の喫茶店にしない?」

「しょうがないな~。皆もそこでいいかな?」


 大会での勝利を祈って私達は新しい仲間と一緒に喫茶店へと向かっていった。


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