第24話

 私と奈津美ちゃんは一刻も早く洋館の確認と脱出をする為に1階の右側の通路に入って壁沿いに歩いていると何処からが音が聞こえてきた。


「これは――時計の音?」

「――なんだか不気味ですわね」

「なんでこんな場所に時計なんてあるんだろ」


 静かな広間には大きなテーブルと20個くらいの椅子が並んでいた。

 そして大時計の音がゴーンゴーンと不気味に鳴り響いている。


「そう言えば外からの音が聴こえなくなりましたわね」

「言われてみれば希ちゃんが暴れてる音が聴こえなくなってる」


 耳を済ましてみたけど大時計の音しか聴こえない。

 廊下に出てみたけど、ここも静まり返っているみたい。


「1回入り口に戻ってみる?」

「いえ、ここは一旦この場所を調べてみませんか? それにあの2人がそう簡単に危険な目に会うとも思えませんし」

「そうだね。まずはこの部屋を調べてみよっか」


 でも、どう見てもここは食事をするだけの場所なような。

 時計の他には机と椅子くらいしかないし。

 ――ん? 椅子?


「奈津美ちゃん。私、脱出する方法見つけちゃったかも」

「どうするんですの?」

「――こうするの」


 私は置いてある椅子を1つ持ち上げて思いっきり窓に向かって投げつける。

 ガシャンという音と共にそれは粉々に砕け散った。 


「駄目みたいですわね」

「う~ん。やっぱり窓も入り口のドアくらい頑丈か~」

「ロケットランチャーで壊れないような物が椅子で壊れてしまったら簡単に脱出出来てしまいますからね。なので、この建物から無理やり外に出る事は難しいと思いますわ」

「なんとかして閉じ込めている原因を突き止めないと駄目かもね」


 時計は相変わらずゴーンゴーンと大きな音をだして鳴っている。


「あ~もう。うるさいわね」

「奈央さん。どうやら時計の針が止まっているみたいですわ」

「そうなの? え~っとどれどれ」


 あれ? なんだろこれ? どうやら針の間に何かが挟まっていて時間が進んでいなかったみたい。

 挟まっていた物を取り除くと、時計の針が進んで時間を刻みだした。

 そして、時計の音も次第に小さくなっていく。


 ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ペタ、ペタ、ペタ。

 ――ペタ?


「何か変な音が聴こえない?」

「時計の音で気付きませんでしたが、何かが歩いている音でしょうか?」

 

 時計の音の代わりにペタペタという音がどんどんと大きくなっていく。

 何者かが近付いて来ているんだろうか。


「この洋館は何かおかしい様ですわね」

「まあ壊れない扉がある時点で何かおかしかったんだけど」

「――あっちですわ!」


 音は私達が入ってきた扉のちょうど反対側から聴こえてきているみたい。

 

「あれ。音が止まった?」


 私は様子を確かめる為に扉に近付いていく。

 

「奈央さんいけません。扉から離れてください」

「――くっ」


 突然勢い良く扉が開いて、扉の向こうから何かが突撃して来た。

 私はすんでの所で横に飛んでかわしたけど、それはそのまま壁に凄い勢いで衝突して周りに轟音が鳴り響いた。


「ンゴー」

「えっ。何あれ?」 


 壁に衝突した時に出来た土煙が晴れていくとそこには2メートルくらいの土で作られたようなゴーレムが立ち上がってきた。


「ななな、何でこんなのがいるの!?」

「奈央さん。まずは何とかしてこの場を切り抜けませんと」

「そうは言っても、あんなのどうやって足止めしよう」

「こうするのですわ」


 奈津美ちゃんはカバンから火炎爆弾を取り出してゴーレムに投げつけた。

 火炎の柱がゴーレムを包み込んで燃え盛る。

 ――けど室内でそんなの使ったら火事になっちゃうんじゃ。

 

「奈津美ちゃん。早くこの部屋から出ないと火事にな―――って無い?」

「やはり建物の中も炎は燃え広がらないようですわね」

「って火事にならなかったから良かったけど、もし燃えてたらどうしてたの?」

「その時はその時ですわ」


 ……ま、まあ今回は結果オーライって事にしておこう。

 ――あれ? まだ何か音がしているような。


「ンガー」


 炎の中からゴーレムが飛び出して向かってきた。

 少しだけ焦げてるみたいだけどあまりダメージは与えられていないみたい。


「わっ、まだ倒れてないの!?」

「もしかして建物と同じようにゴーレムにも攻撃が効かないのでしょうか?」

「そんな。一体どうしたら……」


 けど炎で少しだけ怯んだし少し焦げたみたいだし無敵って事はないんだろうけど。

 

「もしかして炎に耐性があるだけで他の属性の攻撃だったら効果があるのかも」

「ゴーレムの弱点属性ってなんですの?」

「土っぽいから多分これで行けるはず」


 私はカバンから水属性の爆弾を取り出して投げつけた。

 爆弾はゴーレムに当たった瞬間、爆発して辺りに水流を撒き散らしながらゴーレムを壁へと押し流す。

 そのまま壁にぶつかったゴーレムはその場に崩れていった。


「なんとかなった――――よね?」  

「ええ、どうやらもう動かないようですわ」

「けど、どうしてこんなのが建物の中にいたんだろ? どう見ても幽霊――では無いと思うんだけど」

「まあここで考えても答えは出ないと思いますわ」

「そうだね。――またこんなのが出てくるかもしれないし注意して進もっか」

「では、ひとまずゴーレムが出てきた扉の先へと進みませんか?」

「――やっぱりそこに行くの?」

「当然ですわ。写真部の方にお願いされた依頼は全部の部屋の確認ですもの」

「――気は進まないけど行くしかないか。もうさっきの出てきませんように」

「出てきたらまたやっつければいいですわ」

「私はもう戦いは避けたいんだけどなぁ」


 私達は慎重に奥の扉へと入っていく。


 ――扉の先は長い一本道が続いていて、しばらく進むと突き当りに扉がみえた。

 

「入る――しかないよね?」

「もちろんですわ」


 私はまず扉に耳を当てて中から音がしないか確認した。

 

「――あれ?」

「何か聴こえましたか?」

「音は聴こえるんだけど、さっきの奴とは違う何かこう機械音みたいなのが聴こえてくるだけど」

「では3つ数えてから一気に突入しましょう」

「オッケー」


 私と奈津美ちゃんはカバンから杖を取り出して突入と同時に攻撃できるよう装備を整えた。

 私はドアノブに手をかけると無言で目配せをして合図を送る。


「じゃあ行くよ1、2~の3」 


 私は扉を勢い良く開けて中になだれ込んだ。

 そのまま音のした方向に杖を向ける。


「な、なにこれ?」

「何かの装置でしょうか?」


 私達の目の前には何かの機械が駆動している。

 この部屋は少しだけ小奇麗になっているみたい。


「もしかして誰かがここに入ってきてるのかな?」

「――どうでしょうか。入り口はホコリで埋め尽くされていて、わたくし達の足跡しかなかったはずですが」

「って事はやっぱり入ってきた入り口以外にも外に出れる出入り口があるのかな? それとも何処かに開く窓があったりするとか」

「一通り回って外に出る手段が見つからなければ窓をさ1個づつ確認して行きましょうか。それはそうとこの機械はどうしますか?」

「壊す――――訳にもいかないよね?」

「何が起こるかわかりませんし、この場はそっとしておきましょう」

「そだね」


 ――今回は希ちゃんがいなくて良かったかも。

 あの娘がいたらノータイムで爆弾を投げつけていたかもしれないし。

 まあ、あの行動力のおかげで助かった場面も多いんだけどね。


「他には何も無さそうだし出よっか?」

「そうですわね」


 私達が部屋を出ようとすると急に機械が激しい音を出して画面についているメーターのような物が上昇していくのが見えた。

 メーターがいっぱいになると横に設置されている鉄の棺桶のような物の扉が真ん中からゴゴゴと音を出しながら開いていく。

「な、なにこれ」

「さっきのゴーレムのようですわね」

「もしかして、ここで作られてたって事?」

「そのようですわね。――来ますわ」


 飛び出してきたゴーレムは再び私達を襲ってきた。

 まあ扉の先にある部屋はここしか無いわけだし、ここで作られててもおかしくは無いんだけどね。

 

「けど、もう弱点は解ってるのよね」


 私は水属性の爆弾を取り出してゴーレムに投げつけた。


「奈央さん。いけませんわ」

「――えっ? これが弱点のはずだけど?」

「それはそうなのですが――」


 投げる動作に入っていた私は静止を呼びかけてくれた奈津美ちゃんの言葉で止まる事が出来ずにそのまま爆弾を投げつけてしまった。

 そのままゴーレムは倒すことは出来たんだけど――。


「――機械が水浸しになっちゃったね」

「どうやらもう壊れてしまったみたいですわね」

「……ごめん、私がもうちょっと考えて行動してたら」

「過ぎたことを言っても仕方ありませんわ。それにもうゴーレムが出てこない事を良しといたしましょう」 

「そうだね。――けどこれ作った人に怒られないかな」

「襲われたのですし、こんな装置を作る方が悪いですわ」

「そだね。とりあえず他の部屋も見て周ろっか」

「ええ、行きましょう」


 私達は入ってきた扉を戻って再び洋館の探索を始めた。

 洋館の右側はこれ以上何も無いみたいで私達は外から入ってきた入り口の前へと来ていた。


「――お二人は居ないようですわね」

「多分建物の裏側を調べてくれてるんじゃないのかな?」

「わたくし達も内部の調査を続けましょう」

「そうだね」


 私達が建物の反対側を探索しようと左側の道に入ろうとすると、突然サイレンのような音が建物中に鳴り響いた。 


「な、なに?」

「侵入者に対する警報でしょうか?」

「警報って言われても、さっき襲われたゴーレムは勝手に徘徊して勝手に襲ってくる感じじゃなかった?」

「お忘れですか? ゴーレムと一緒にゴーレムを作成する機械を壊したではありませんか」

「もしかして、定期的にゴーレムが作られなくなったから侵入者に気が付いて警報が鳴ってるのかな?」

「たぶんそうだと思いますわ」

「も~。何なのよこの建物は」


 ――幽霊屋敷だと思ってたのに何でこんなハイテク機器ばっかりあるのよ。

 ここは絶対人の出入りがあるわね。


「奈央さん。上から何か来ます」

「上っ?」

 

 天井が開いて上からゆっくりと二足歩行のロボットがリフトに乗って降りて来る。


「な、何あれ?」

「警備ロボットでしょうか?」


 リフトはそのまま床付近でガシャンと音を立てて止まりロボットは大地に立ってそのまま私達へと襲い掛かっきた。

 

「ロボットならさっきの機械みたいに水が弱点だよね」

 

 私は水属性の爆弾を投げつけた。

 水流がロボットを包み込むように襲い掛かったけどあまり効いていないみたい。


「あれ、何で?」

「防水機能があるのでしょうか?」


 ロボットはそのまま手を振りかぶって私達にパンチを繰り出してきた。

 少しぎこちないながらも力任せな一撃が飛んでくるのをギリギリの所でかわして私達は反撃の手段を考える。


「ええい、とりあえず持ってるの全部投げちゃえ」

「そうですわね。何か効けばいいのですが」


 私達はカバンの中にある攻撃アイテムをありったけ投げつけた。

 火もダメ、水も土もダメでえ~っともう雷しか残ってないよ。


「これで最後、お願いだから効果があって」


 私が雷属性の攻撃アイテムを投げつけるとロボットが少し後ずさった。

 もしかして効いてる?


「奈津美ちゃん!」

「どうやら雷が効果的みたいですわね」

「よし、これで攻撃しちゃおう」

「了解ですわ」


 私達は雷属性の爆弾を投げ続けて何とかロボットを撃退する事が出来た。


「ふ~なんとかなったかな」

「警報の音も止まったようですわね」

「――おい、お前達何をしている」


 私達以外に誰もいないと思ってた洋館から知らない人の声が聴こえてくる。

 階段の上の2階には見たことの無い人物が立っていた。


「貴方誰? どうして私達を閉じ込めたの?」

「勝手に入ってきたのはお前達の方だろうが。ここは我が科学部の所有地だ」

「わたくし達は写真部の依頼で来たのですが、ここは写真部の所有地ではないのですか?」

「そんな事は知らん。さっさと此処から出ていくんだな」


 ――何か言ってる事が噛み合わないような。

 てか、ここから出れるんなら出して欲しいくらいなんですけど。

 まずは奈津美ちゃんと相談してみますか。


「どうする? あの人は話を聞いてくれなさそうだけど」

「でしたら捕まえて無理やり話し合いをするだけですわ」

「――あんまり気は進まないけど、ここから脱出する為にはそうするしか無いか」 


 私は少し前に調合した自動で相手を縛ってくれる縄を取り出して二階にいる科学部の人に向かって投げつけた。

 縄は科学部の人を察知して、その人へと向かって行きあっという間に縛り上げた。


「えっ……なにこれ……な、縄が…食い込ん……ひぎぃ……」

「見事な亀甲縛りですわね」

「何でこの縄ってこの縛り方しか出来ないんだろ」

「そんな事より話を聞いてもらいますわよ」


 ――数分後、私達は洋館の外へと出ていた。

 私は緊張がほぐれたので軽く伸びをしてみる


「う~っ、やっとでれた~」

「まさか報告が行き違いになってたとは思いませんでしたわ」

「――あっ、二人共出られたんだ」


 ちょうど先輩と希ちゃんが私達を出迎えてくれた。


「それで調査は終わったの?」

「はい、問題なく終わりました。まあ、少し問題はありましたけど依頼は達成です」


 この建物はずっと前から科学部が使ってて、あまり使われていなかった1階部分を写真部が使うことになったんだけどここにいる科学部はいつもここで実験をしているから生徒会からの連絡が付きにくくて私達を勝手に入ってきた侵入者と勘違いしちゃったみたい。

 ゴーレムは科学部が実験で作ってるんだけど外に出ないように中からは簡単に開かない仕掛けになってるんだって。

 だから扉や窓があんなに丈夫だったって訳。

 ちなみに写真に写ってた幽霊みたいなのは白衣を来てる科学部の部員だったみたい。

 私達が壊しちゃったゴーレムを作る機械も不慮の事故って事で許してもらえそう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る