第23話

「ここが写真部に依頼されたメゾンね」

「写真で見た通り何か出そうな雰囲気ですわね」

「んじゃ頑張ってきてね~」

「奈央ちゃん。やっぱり私達も何か手伝おうか?」

「では先輩たちは外で待機しててくれませんか? しばらくしても私達が戻ってこなかったら先輩達も来てくれると助かります」

「そうだね。何かあったら私達が駆けつけるから安心して探索してきてね」

「あっ、希あそこのケーキバイキングで待ってるよ」

「あ~。あそこのお店1回行ってみたかった所だ~」

「わたくしも行ってみたいですわ」

「いやいや。流石に奈津美ちゃんには手伝って欲しいんだけど」

「それじゃあ私達はケーキバイキングで待ってるから後でね~」

「――もうそれでいいです」


 私は中に入る為に洋館の扉を押してみた。

 扉はゆっくりと開きだして、扉の向こう側は昼だと言うのに真っ暗な空間が広がっている。

 私はカバンから懐中電灯を取り出して中を照らしてみると蜘蛛の巣が所々に張っていた。


「服が汚れてしまいそうですわね」

「ずっと使ってなかったみたいだしホコリも結構溜まっているみたいね」

「ついでに掃除でもしてきたら?」

「かなり広いから大変そうだね~」

「……一通り部屋を回るだけでいって言われたので掃除はしませんよ」

「こんな所で長話するのも何ですし早く確認だけして帰りませんか?」

「そうだね。それじゃあ2人共行ってくるね」

「頑張ってきてね~」

「希達もケーキバイキング頑張ってくるからねっ」


 私は洋館の中へと足を進めた。

 一歩足を進める度に床からはギイギイと木材の軋む音が聞こえてくる。

 

「このホコリのたまり具合から見てどうやら人が入った形成はないようですわね」

「まあ空を飛びながら移動でもすれば足跡は付かないと思うけどそんな人なんているわけ――」


 入り口の希ちゃんと目があった。

 この娘なら風船で浮かんだりとかやりかねないけど。


「いるわけないよね」

「あー。今、奈央ちゃん失礼な事考えたでしょぉ」


 入り口からの聞こえる抗議の声は聞かない事にした。


「あっ。奈央ちゃん扉が」

「えっ!?」

 

 後ろの扉が突然バタンと閉じてしまった。

 古いから開閉のネジがおかしいのかな?

 私は扉に戻ってもう1回開けようとしたけど。


「ふ~ん。あれ、おかしいな? う~ん」


 木材の扉が急に鋼鉄に変わったと思えるくらい急に重くなった感じがする。


「奈津美ちゃん。ちょっと手伝って」

「ガッテンですわ」


 今度は二人で押してみたけど、びくともしないみたい。


「――困りましたわね」

「奈央ち~ゃん。だいじょうぶ~?」

「ひとまず中を周りながら他に出口が無いか探してみます」

「そうですわね。他に裏口があるかもしれませんし、そうした方がいいと思いますわ」

「先輩達は外から他に入れる場所があるか探してくれませんか?」  

「わかった~。それじゃあ希ちゃん行こっか」

「わかったよ」

「私達はまず1階を周ってみよっか?」

「そうですわね。では参りましょう」


 入り口にある大広間からは左右に道が伸びていて、真ん中には2階に登る階段があった。

 階段の下に隠れるような扉もあってここもどこかに通じてるのかな?

 私達はとりあえず右の道を進む事にした。


「――ちょっと待って」


 扉の向こう側から希ちゃんの呼び止める声が聞こえてきた。


「希ちゃん。どうかした?」

「扉を開ける方法を思いついたからちょっと待っててよ」

「まあ、それは頼もしいですわ」


 ――洋館の扉の前で、希はカバンの中をガサゴソと何かを探していた。


「え~と、え~と――――あったぁ」

「希ちゃん。それなあに?」

「この前、錬金術で作ったガソリンだよ。こんな事もあろうかと持ってきててよかったよ」

「それをどうするの?」

「もちろん周辺にまくんだよ」

「――あの。希ちゃん? 何か変な臭いがしてるんだけど」

「奈央ちゃん? もうちょっとで助かるから待っててよ」

 

 扉の周辺からは油のような臭いが漂ってきた。

 もう危険な予感しかしない。


「あっ。燃やす道具持ってくるの忘れちゃったよ」

「安心して希ちゃん。私この前作った火炎放射器持ってきてるから」

「先輩、火炎放射器って何ですか? いつの間にそんな物作ってたんですか? 何に使う予定だったんですか?」

「奈央さん。扉から離れないと危険ですわ」

「それじゃあ行くよ~。ファイアー」

「わわっ。凄く燃えてるよ」

「これ放火ですよね? 中の私達まで燃えちゃいますよね?」


 建物が燃えてしまう前に何とかして出口を探さないと。

 

「奈津美ちゃん。こっち、早く」

「――いいえ。その必要は無さそうですわ」

「えっ!?」


 扉を見ると声臭い臭いと隙間から入ってくる煙はあるけど、扉自体は全く燃えている形跡が見当たらない。


「わ~。燃えちゃうよ。早く消さないと」

「希ちゃん。消化器持ってきて」

「わかったよ」


 ……外は大惨事になってるみたいだけど。 


「奈央ちゃん大丈夫~?」

「いや先輩達の方こそ大丈夫なんですか?」

「こっちはちょっと草に火が燃え移っちゃったけど大丈夫だよ~」

「どうやら燃やしたくらいじゃ駄目みたいだねぇ」


 ちょっと心配したけど2人とも無事みたいんでよかった。


「あんまり無茶しないでくださいね~」

「そうだ。この前、作ったロケットランチャーもあるんだった。今から扉を吹き飛ばすから離れててよ」

「え、ちょっと希ちゃん?」

「ファイアー」

「奈央さん。こっちですわ」

 

 奈津美ちゃんの声に導かれるまま、私は中に置いてあったテーブルを盾にして身を隠した。

 凄い轟音を響かせた後、扉の方を見ると相変わらず扉は無傷みたい。


「ロケットランチャーでもだめか~」

「こうなったら戦車を錬金術で作るから待っててよ」

「いやもう扉の破壊は諦めていいから」


 私は奈津美ちゃんの手を取って急いで右の道に入っていく。

 早く脱出しないと希ちゃんに洋館どころか街が破壊されちゃいそうだ。

 あ~もう。自分の心配より街の心配をしないといけないだなんて、これからどうすればいいの……。

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