第22話

「いらっしゃいませ~」


 私達は4人で駅前にある「レンチンクッキング」というファミレスに入っていった。

 ちょうどお昼時だった為、店内はほぼ満席みたい。


「結構混んでるね」

「お昼時だからね~」

「わたくしこういったお店に入るのは初めてなので楽しみですわ」

「えっファミレスに入った事ないの?」

「ええ。ですのでファミレスのマナーなどを教えてくださったら嬉しいですわ」

「だったら希に任せてよ。実は希このお店は結構常連さんなんだよ」 

「それではよろしくお願いしますね」

「――大丈夫なのかな」


 私達がお店の入り口で待っているとすぐにウェイトレスさんがやってきて席へと案内される。


「何名様ですか?」

「4億人だよ」

「でしたらこちらへどうぞ」


 このウェイトレスさん希ちゃんみたいな子の扱いに慣れてるな~。

 お会計の時に500円を500万円みたいに言うオバチャンとかがよく来たりするのかな?


「あ、そうだ。出来たら個室をお願いしたいのですけど」

「かしこまりました」


 これから洋館を調べる最終会議をするから個室の方が話しやすいよね。

 まあ聞かれてまずいような話はしないんだけど。


「ではこちらになります」

「わ~。広いね~」

「それでは入りましょうか」

「――ちょっと待ったあ!」


 扉の向こうには凄く広い個室があった。

 ――そう向こう側がほとんど見えないほどの個室が。


「ここ本物の4億人用の部屋ですよね? 私達4人しかいませんよ。てか個室と言うよりもはや広場ですよね。そもそも何でこんな部屋があるんですか?」

「ご来店なされた時にお客様がおっしゃっていましたので」

「個室って言ったのは奈央ちゃんだよ?」

「いや何で私が悪いみたいになってるの。そもそもこんな広い部屋使っても席が余るよね?」

「だったら希が4億人に分身するよ」


 希ちゃんは巻物を口に咥えて印を結んだ。

 あ~もう。これ以上面倒になる前になんとかして止めないと。


「希さん。そんな事をしたら迷惑になりますわ」

「やっぱりそうだよね?」

「わたくし達の席が無くなってしまいますので3億9999万9997人に分身していただかないと」

「そっち!?」

「わかったよ」

「ちょうど席が埋まったね~」

「いやいやいやいや」


 それから私達はなんだかんだで6人席へと案内された。


「席が2つ余ってるから希が3人に分身するね」

「いやもう分身はいいから」

「う~ん。せっかく希の分身を披露できる機会だと思ったのにぃ」

「じゃあまた今度見せてね~」

「いや、しなくていいから」

「それではご注文が決まりましたら、お呼びください」


 ウェイトレスさんはメニューを4人分テーブルに置いて仕事に戻っていった。

 あのウェイトレスさんは変な客の扱いに慣れているのか天然なのかどっちなんだろう。


「じゃあ早速どれにするか決めよっか?」

「ここのお店はどう言った料理を出すのですか?」

「レンチンクッキングは本格的な電子レンジ料理が食べれる事で人気なんだよ~」


 電子レンジでチンするのに本格的とかあるの?

 てか店名見た時になんかおかしいと気付くべきだったんじゃないだろうか。


「運ばれてきた料理をテーブルにあるレンジに入れてチンしたら完成の半分セルフサービスみたいなレストランかな」

「そうでしたの。食べた事のないメニューばかりで目移りしてしまいますわ」

「希はもう決まったよ」

「私も~」

「わたくしも決まりましたわ」

「……じゃあ注文するから店員さん呼ぶね」


 私は席に設置されているブザーを押したらピンポーンと店内に音が鳴り響いた後、しばらくしてウエイトレスさんがやってきた。


「ご注文をどうぞ」

「うなぎで」

「ご注文はうなぎですか?」

「はい。うな重で。それと、天津飯のご飯少なめでお願いします」

「かしこまりました。ただいまの時間は無料でご飯大盛りサービスをしていますがどうなさいますか?」

「あっ、無料ならお願いします」

「えっ?」

「あれ? どうかしたの?」

「……いいえ。なんでもありませんわ」

「希はお子様満漢全席ぃ」

「私は冷やし中華で~」

「わたくしはハンバーガーでお願いします」

「かしこまりました。しばらくお待ち下さい」


 ウエイトレスさんは注文を端末に入力した後に料理を取りに厨房へと向かっていった。


「奈津美ちゃんハンバーガーでいいの?」

「わたくしハンバーガーを食べた事が無いんですの」

「そうなんだ~」

「ここのハンバーガーは結構本格的だからオススメだよっ」


 ウエイトレスさんが厨房へと入っていった数分後、トレーに袋を乗せたウエイトレスさんが戻ってきた。


「こちらハンバーガーになります」

「結構早く来るのですね」

「……そりゃあ冷蔵庫から出して持ってくるだけでしょうからね」

「それじゃあ、冷めないうちに食べよ~」

「いやコレ冷めるどころか最初から凍ってるんですけど。まず解凍しないとカチカチで食べられないんですけど」


 奈津美ちゃんはレンジに冷凍ハンバーガーを入れて温めボタンを押した。


「あとは10分待つだけだね~」

「――この店、注文してから料理が運ばれてくるよりレンジで温めてる時間の方が長くないですか?」

「調理に時間をかける所が本格的な証だよ」

「レンジで温めるのは調理じゃない~」


 ――10分後。

 奈津美ちゃんはレンジからハンバーガーを取り出して机の上に置いた。


「これってどうやって食べるんですの?」

「ストローで吸って食べるんだよ」

「コ~ラ、嘘教えない。そのまま手で持ってかぶりついて」

「こ、こうかしら?」


 奈津美ちゃんはガブッとハンバーガーにかぶりついた。

 可愛い子は何をやっても絵になるな~。


「わたくしこんなに美味しい食べ物初めて食べましたわ」


 どうやら味の方はそこそこみたい。


「希。前から思ってたんだけど初めてハンバーガー食べてこんなに美味しいの食べた事無いって言う人って普段何食べてるの?」

「まあハンバーガーも美味しいけどね」

「知りたいですか?」

「やっぱいいや。それより希のお子様満漢全席を温めないと」


 希ちゃんの席には100個以上の袋が積み上がっていて、ぐらぐらと今にも倒れそうだった。

 

「えっと、それ全部食べるの?」

「そうだよ。普通の満漢全席は全部食べるのに2,3日かかるけど、これはお子様サイズだから2,30分で完食できるんだよ」

「いや100種類もあるんだしもっと味わって食べなよ」


 そうこうしている間に美里先輩のレンジが音を鳴らした。


「できた~。私の冷やし中華~」

「いやもうそれただのラーメンですよね? 湯気とか出てますしレンジで温めたら冷やしの部分無くなりますよね?」


 私のレンジも音がなったので中の袋をとりだした。

 そのまま丼に中身を乗せようとした所で何かがおかしい事に気付く。


「あれ? 私ご飯少なめって言ったのに大盛りになってる? これってもしかして今から行く洋館の呪い!?」

「いいえ。奈央さんは大盛りと注文されてましたわ」

「希も聞いてたよ」

「無料って聞いたらお願いしますって言いたくなるよね~」


 私としたことがどうやら失敗してしまったみたい。

 まあ今さら注文を変更する事も出来ないので思いっきり食べる事にしよう。


「――ご飯大盛りだったからご飯だけ少し余っちゃった」

「希は先にご飯だけ全部食べるから上の所だけ余っちゃうよ」

「それもうご飯だけ注文すればいいよね」


 ――数分後。 


「ちょうど皆食べ終わったみたいだし、そろそろ行こっか?」

「あっ、ちょっと待って。希、最後にジュース飲みたい」

「も~。最初から注文しといてよ」

「あ、それじゃあ私もデザート注文しようかな~」

「でしたら、わたくしも最後に紅茶が飲みたいですわ」

「じゃあ次でラストオーダーね」

 

 ついでだし私も何か注文しようかな。

 ベルを押すとまたすぐにウエイトレスさんやってきた。

 ……冷蔵庫から出して運ぶだけなんだし結構暇な仕事なんだろうか?

 

「ご注文は?」

「希は明日葉(あしたば)スカッシュで」

「わたくしは紅茶を」

「私はアイスクリーム~」

「それじゃあ私は羊羹(ようかん)をお願いします」

「あ~。もしかして奈央ちゃん洋館に行くから羊羹とか~?」

「……違います」


 ――少し経ってウエイトレスさんが戻ってきた。

 もしかしてこのファミレスって食事より飲み物やデザートを用意する方が大変なんだろうか?


「きたあああ。希の明日バスカッシュ!」

「今日は?」

「希は毎日バスカッシュだよっ」


 食後の楽しい会話をした後、会計を済ませてから私達は目的地の洋館へと向かっていった。

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