第17話
「――なるほど、概ね理解出来ました」
錬金術の説明を聞き終わった奈津美ちゃんは少しだけ興味を持ってくれたみたい。
さっそく何かを調合したそうな顔をしている。
「じゃあ何か作ってみる?」
「いいんですの?」
「簡単な物なら危険は少ないから大丈夫だよ」
「――まぁ、危険が少ないだけで爆発する可能性がゼロって訳じゃないけどねっ」
「そこっ、余計な事を言わない」
希ちゃんの茶々を制して初心者向けのレシピを本をパラパラとめくりながら探していくと先輩が何かを思い出したように手をポンと叩いた。
「あっ、それならちょうど日用品を作ってくれって依頼が来てるから簡単な日用品を作ってくれないかな〜」
「日用品って言うと大工道具かしら?」
「……それは日用品じゃなくてお父さんが日曜日に使う日曜日ね。傷薬――バンドエイドとかでいいんじゃない?」
「それじゃあ、希はゆで卵を持って来るよっ」
「……それはバンドウエイジね。あんまり似てないからね」
「――え〜っと、それじゃあ」
「それはハンドメイドだから!」
「希。まだ何も言って無いのにぃ」
これ以上悪ノリについていく訳にもいかないので、さっさと打ち切って調合を始める準備をする。
「さっ、やってみて。基本は混ぜてるだけでいいから」
「解りました。――それでは行きます!」
「あっ、閃いた。ちょっとコレも入れてみて」
希ちゃんは何処からか持ってきたスーパーボールをボトボトと鍋の中へと落とした。
「あ、ちょっと希ちゃん勝手にレシピに書いてないの混ぜたら駄目だって」
「あ〜それ入れるならコレも入れたら面白くなるんじゃないかな〜」
希ちゃんに続いて美里先輩は使わなかった七夕の短冊を入れこんだ。
「先輩まで……。もうどうなっても知りませんよ」
「あらっ? 何だか変な煙が出てきましたわ」
「えっと、何か鎮火できそうな物は――ちょっと勿体無いけどコレっ」
私は龍のヒゲを入れて中和をはかる。
これ以上部室を爆発させたら、また生徒会から警告が来そうなので調合の成功率が上がるレアな素材を入れるしか選択肢は無かった。
「奈津美ちゃん。そのまま混ぜ続けて」
「了解しましたわ」
――数分後、いろいろ大騒ぎになったけど何とか調合は成功してバンドエイドが完成したみたい。
「えっと……完成……した?」
私は錬金釜の中からバンドエイドを取り出して皆に見せてみる。
「普通のバンドエイドですわね」
「それじゃあ、試しに貼ってみよっか〜」
「誰も怪我をしてないのに貼るんですか?」
「ちょっと待って。希の計算ではこれは人に使う物じゃないよっ」
「えっ? じゃあ何に使うの?」
「え〜っと、まあこれでいっか。ちょっと貸して」
私は希ちゃんにバンドエイドを貸すと希ちゃんは錬金釜にバンドエイドを貼り付けた。
「何も起こりませんわね」
「う〜ん。失敗しちゃったのかな〜」
「待ってください。何だか変な音がしませんか?」
直後、錬金釜は黒いオーラに包まれて8つの光に分裂してから窓を割って何処かへと飛んでいってしまった。
「え? わ〜っ。部活で使う錬金釜があああ」
「お、落ち着いて下さい先輩」
「一体どこに消えたんですの?」
「ふっふっふ。やっぱり調合は成功したみたいだね」
希ちゃんが何やら悪い顔をしていて、嫌な予感がする。
「えっと、さっきのは何なの?」
「さっき調合したアイテムは名付けてバンドエイト。貼った物が8人グループのバンドに変わって市内に飛び散るんだよ。そして8人集めたら傷だらけのバンドが演奏してくれるんだよっ」
「――その傷って窓を割って飛び散るときに出来た傷だよね? 半分は室内で使った希ちゃんのせいだよね?」
「そして、ガラスの修理代と貼った物の合計金額と同じお金をライブで稼いでくれるんだよっ」
「そんな物より元通りに戻して欲しいんだけど……」
「ガラスの修理代も稼いでくれるのは嬉しいね〜」
「いえ、そもそも希ちゃんがこのアイテムを使わなかったらガラスも割れなかったんですけど。手間がかかるだけでプラマイゼロなんですけど……」
「とりあえず皆さん。ここはバンドのメンバーを探しに向かいませんか?」
――奈津美ちゃんが手伝いを申し出てくれたけど、まだ部員じゃないのに手伝ってもらっていいのかなぁ。
「えっと、奈津美ちゃんはまだ部員じゃ無いんだし今回は私達3人で向かおうかと思ってるんだけど」
「いえ、わたくしが調合したんですもの。ここは一緒に探しますわ。それに何だか楽しそうですし」
「う〜ん。まあ人手は多い方がいいし、ここは頼んじゃおうかな」
「そんな事より、早くしないと音楽性の違いでバンドが解散しちゃうかもしれないよっ」
「なんで、そんな面倒な設定があるの……」
「ま〜ま〜。希ちゃんも悪気があってしたんじゃ無いんだし。ここは早めに探しに向かおうよ」
「そうですね、錬金釜が1つ無いのにこのまま部活を続けるわけにもいきませんしね」
「そんじゃ行こっか」
私達は街中に散らばったバンドメンバーを探すために学校を出て駅へと向かって行った。
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