第16話

「さて、今日も部活に行きますか」


 放課後になり鞄に教科書を詰め込んでいると隣の席から声がかけられる。


「いつも楽しそうに出かけているようですが、どちらに行ってますの?」

「部活だよ。私、今錬金術を頑張ってるんだ」

「なんですのそれ? わたくし凄く興味が湧いてきましたわ」


 この娘は私のクラスメイトで隣の席の奈津美(なつみ)ちゃん。

 帰国子女で何にでも興味を持つ凄く明るい娘だ。

 初対面でもグイグイと話しかけて来られて最初は苦手だったけど、今では仲の良い話し相手の一人だ。


「奈津美ちゃんって部活とかって入って無かったっけ? 良かったら見学に来る?」

「いいんですの? わたくし部活とかはしてなくて授業が終わったらいつも暇でしたの」 

「そうなんだ。じゃあ今から向かうから私についてきて。その……ちょっと変わった部活かもしれないけど引かないでね。危ない事も無いから――たぶん」

「ふふ、楽しみですわ」


 私は奈津美ちゃんを連れて部室棟へと案内する。

 もしかしたら新入部員になってくれるかもしれないって淡い期待も抱いてみる。


「あら? 文化部の部室棟って他の建物より新しいのですね。なぜなのかしら?」

「あはは〜。なんでだろうね〜」


 部室棟の事は深く追求される前に中に入ってしまおう。

 見学する前に変なイメージを持たれる訳にもいかないしね。

 

 部室棟の中に入ってから通路を真っ直ぐに進む。

 静かな通路に私達二人だけの靴音がコツコツと響き渡る。

 

「随分と静かなのですね。――まるで他に誰もいないみたい」

「まあこの辺は読書してる文芸部や野外でニワトリの飼育をしてる黒魔術部の部室があるから静かだね~」

「それは素晴らしいですね」


 ――そう。

 この辺は静かなのだ。


 通路を奥に進むに連れて騒がしい音が聴こえてきた。


「あら? これは何の音なのかしら?」

「あ〜。これは多分けいおん部がおしゃべりしてる声だね」

「軽音と言うと楽器の演奏では無いでしょうか?」

「この学校のけいおん部は練習しないでお菓子食べて雑談してるだけの部活なんだって」

「それは楽しそうですわね。後でそちらにも行ってみようかしら」

「さ、さあ早く錬金術部に向かおう」

「あ、奈央さんちょっと待ってください」


 私は少しだけ早足で通路を進んで行く。

 ――他の部活に興味を持たれる前に早く部室に連れ込まないと。

 私達の実力を上げる事も必要だけど、部員の確保は最重要ミッションなのだ。


 そこから更に進んで、やっと一番奥にある錬金術部の部室に辿り着いた。

 ――いくら問題があるからって入り口から遠過ぎでしょ。

 今度入り口付近に部室へ直通のワープホールでも作ってみるべきなんだろうか。

 まあ、今の部活にそんな道具を作れるような人がいないのが悲しい事実なんだけど。


「さっ、どうぞ入って」


 私は中に入ろうとドアノブに手を伸ばす。

 

「なんだか中の様子がおかしくありませんか?」

「――えっ?」


 扉を開けた瞬間、中から吹き出してきた爆風に私と奈津美ちゃんは吹き飛ばされた。


「――ケホッ、ケホッ。一体何が起こったんですの?」

「……よりによってこんな時に」

 

 私はもう慣れっこなので、すぐに立ち上がりスカートホコリを手で軽くパッパッと払い奈津美ちゃんに手を貸して立ち上がらせた。


「ありがとうございます――その、これは一体何が起こったのですか?」

「えっと、爆発するのは偶にだからね? ――ちょっと待ってて」


 私は恐る恐る部屋の中を覗き込むと、そこには希ちゃんが逆さまになって地面に埋まっていた。

 

「誰か助けてぇ。起き上がれないよぉ」

「――たいへん。ちょっと待ってて」


 私は希ちゃんを持ち上げて反転させてその場に下ろした。


「ふぅ。助かったよっ」

「先輩はまだ来てないの?」

「あぁ。先輩ならあっちだよ」


 希ちゃんが指を指した方向を見ると先輩も地面に倒れていた。


「先輩!? 大丈夫ですか?」

「う〜ん。なんとか〜」


 私は大惨事になっている部室から先輩の元に駆け寄って起こした。


「まったく、また無理な調合をしていたんですか?」

「今回は希ちゃんだよ〜」

「う〜ん。いきなり合体変形ロボを作るのは無理があったよ」

「そんなの作って一体何と戦う気なの……」

「それはそうと、外にいる娘はだぁれ?」


 奈津美ちゃんが部室の外からどうした物かと中を伺っていた。


「ごめん、忘れてた」


 私は奈津美ちゃんの元に駆け寄って皆に紹介をする。

 奈津美ちゃんは散らかりすぎて足場のほとんどない部室の中に入ってきてスカートの端を両手で持ち上げながら二人に一礼した。



「えっと、同じクラスの奈津美ちゃんです」

「皆さん初めまして奈津美と申します。皆さんのやっている部活動に興味が沸きましたので見学しにきました」

「わ〜。うちの部活は誰でも大歓迎だよ〜」

「この部活は結構緩めだから好きに活動してもいいんだよ」

「――希ちゃんは好きに活動しすぎだと思うんだけど」


 それから私は先輩達と共に奈津美ちゃんに錬金術の概要などを説明するのであった。

 



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