第15話
駅から数分の間、理沙ちゃんの案内に続いて歩くと中学校が見えてきた。
特にこれといった特徴の無いどこにでもあるような平凡で普通な見た目の建物の中学校がそこに立っている。
「――なんかつまらなそうな学校だねぇ。学校が変形したりプールからロボットが発進するような機能とか付いてないの?」
「……そんな学校がその辺にポンポンあっても困るんだけど」
「あはは〜」
「許可は取っているので、皆さん入って下さい」
「――それでは入りますか」
「希は置き物探してるね〜」
「迷子にならないように気を付けてね〜」
「いや、希ちゃんにも依頼の手伝いをしてほしいんだけど」
「……こっちです」
学校の中に入っていったのだが他に部活をしている生徒はいなかった。
「今日は部活は休みなの?」
「はい。と言ってもこの学校はそんなに部活に力を入れているわけでも無いので普段もそんなにいるわけじゃ無いんですけどね」
「ふ〜ん」
グラウンドの端に部室棟が立っていて、そのうちの1つに入っていく。
「何かショボくない? かなりボロボロでちっちゃいんだけど全員入れるの?」
「希ちゃん、失礼でしょ。こういうのは風情があるって言うの」
「う〜ん。希はボロボロのを何でも風情があるって言うのはどうかと思うんだけど」
「――その、たぶん大丈夫だと思うのでどうぞ」
部室の中は狭いながらもかなり整頓されていて思ってたよりも窮屈さは感じられなかった。
ひと目部室を観ただけで部員がしっかりしている事が伺える。
……常に足の置き場を探しているようなウチの部室とは大違いだ。
「これなんですが、直せそうですか?」
理沙ちゃんは部室の奥に置いてある棚から壊れたスターターを取り出した。
「うん。たぶん数時間もあれば大丈夫だよ〜」
「けど随分と使い込んでる感じだね?」
「はい。もうすぐ訓練校の入学試験なので最近は練習でよく使っているので消耗も激しくなってるんだと思います」
「他のもだいぶ消耗してるみたいだし、全部直しますか?」
「まあせっかく来たんだしそうしよっか」
「待ってるだけなのも退屈だし希も手伝ってあげるよっ」
「……手伝うからついてきたんじゃなかったの?」
それから私達はそれぞれの分担を決めて道具の修理を始めていく。
理沙ちゃんはやる事があるからと外へと出て行ったみたい。
依頼内容もそんなに難しい調合では無いので爆発などのトラブルも特に無く作業は進んでいった。
「――よし、終わりっと」
先輩と希ちゃんの様子を確認するとまだ調合の途中のようで、どうやら私が一番乗りだったみたい。
「あっ、奈央ちゃん先に終わったんなら休憩しててもいいよ〜」
「それじゃあ外に出てますね」
「いてら〜」
私は部室を出て軽く伸びをする。
空はちょうど夕焼けに差し掛かった時間で校舎を夕焼け色に染めていた。
私はふとグラウンドを見ると体操服で走っている少女の姿が見えた。
夕焼けの中、夢中で走っているその娘はとても力強くて美しく見えたけどなぜだか焦りのような物を持って走っているようにも見えた。
私はグラウンドの少女に近付いて行き声をかける。
「――流石に陸上部の部長だけあって凄く速いんだね」
「……いえ、私なんてまだまだです」
「えっと、中学校を卒業したら陸上の訓練校に行くんだっけ?」
「はい。――と言っても入学試験も厳しいですし試験までまったく気が抜けないといった感じですけど」
「けど、この学校では一番なんでしょ?」
――あれ?
今一瞬だけ沈んだような。
「確かに今この学校で一番速いのは私です。けれど他の学校にはもっと速い人がいるでしょうし、突然才能が開花する子もいると思います。現に今も追いつかれないように必死に足掻いてる感じですので……」
「その……走る事は好きじゃないの?」
「どうなんでしょうね。今は訓練校に入る事しか頭にないですから。――それに始めたきっかけも姉が達成出来なかった夢を無理やり押し付けられた感じでしたし、そんなに好きでは無いのかもしれませんね」
「でも続けてるって事は何かあると思うけどな」
「そうですね――仲の良い友人と知り合えた事は続けていて良かったと思っています」
「その友達も一緒に訓練校に行くの?」
「ええ。出来れば二人で一緒に合格出来ればと思っています」
理沙ちゃんの横顔は凄く嬉しそうだ、余程その友人と知り合えた事が自分にとって大切な事だったんだろう。
その後は二人で他愛のない事を話していると部室の方から先輩達の声が聞こえてくる。
「お〜い。二人共終わったよ〜」
「――修理が終わったみたいですね。それでは戻りましょうか」
「あっ、ちょっと待って」
「どうしましたか?」
「その、お姉さんの代わりとかじゃ無くて理沙ちゃん自身の目標にすればいいんじゃないかな。友達の話をしてる時の理沙ちゃんすっごく楽しそうだったしその友達と一緒に一番を目指して頑張れば陸上を楽しめるかなって……えっとうまく言葉に出来ないんだけど」
「そうですね。友人と一緒に練習する事は楽しいですし、中学校を卒業しても一緒に練習が出来れば私も心から楽しんで走る事ができるかもしれません」
「私。理沙ちゃんが訓練校に入れるように応援してるからね。そして、いつか代表に選ばれた理沙ちゃんを応援する日が来るって信じてるから」
理沙ちゃんは少しだけ困った顔をした。
恥ずかしいのかな? それとも自信が無いのたまろうか。
けれどすぐに表情を戻して。
「そうですね。私なりに精一杯頑張るのでその日が来たらぜひ応援をお願いします」
「部員全員で応援に駆けつけるから期待しててね」
そのまま私達は修理した部活の道具に不備が無いか調べて、問題が無いことを確認してから帰路につくのだった。
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